カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

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過去の君と

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  豪快で大きくて綺麗な文字だった。それが、祐介君の文字だとすぐに分かった。

  今、過去のこの場所に祐介君も居てカフェノートを開いているのだと思うと不思議な気持ちになった。見えない糸でわたし達は繋がっている。

『早乙女ちゃんは高校生活楽しくないのかな?  祐介』と書かれた文字をわたしは眺めた。

『高校生活は楽しいよ。だけど、わたしにはお父さんがいなくて……祐介君がご両親と旅行に行った文章を読んで羨ましいなと思いました。早乙女』とわたしは書いた。

  それから暫く文章の沈黙が続いた。

  今日はお返事はないのかなと思ったその時、

『……そっか、早乙女ちゃんにはお父さんがいないんだね。俺は両親揃っているから早乙女ちゃんの気持ちは分からないかもしれないけれど、話なら聞けるので良かったらなんでも書いてくださいね。祐介』

  と書かれた文字から優しさが伝わってきた。

  わたしは、ペンを握り『ありがとう』と書いた。するとすぐに『いえいえ』と返事が返ってきた。

  過去の世界にいる祐介君とカフェノートを通じて友達になれたこの奇跡を大切にしたいなと思った。


  わたしは、ペンを握り何を書こうかなと考えた。

  そして、先程思い出していたお父さんとの旅行の思い出やもうずっとお父さんに会えていないことなどをノートに書いた。

  暫くすると、祐介君からカフェノートに返事が届いた。

『早乙女ちゃんはお父さんとの旅行の思い出があるんだね。きっと、お父さんは早乙女ちゃん達との思い出を作りたかったんだろうね。

  思い出せないことなどあるのは辛いことだと思うしこの先お父さんに会えるか分からないことも……だけど、楽しかった気持ちは早乙女ちゃんの心の中に大切な記憶として残っているのだからそれは幸せなことなんじゃないのかな?  うーん、上手く言えなくてごめんね。祐介』

  わたしは、その返事を読みきっと、祐介君は一生懸命考えて書いてくれたんだろうなと思った。

  その気持ちがとても嬉しかった。わたしの心の中にあの日の眩しい記憶がぼんやりと残っている。お父さんあなたは今どこにいますか?


  わたしは、祐介君にお礼の返事を書いた。

『お父さんとの数少ない思い出はわたしの宝物です。聞いてもらえただけで、ちょっと心が楽になりました。祐介君ありがとう。早乙女』とノートに書いた。

『いえいえ、上手く答えられないけど、書くだけで話すだけで心の整理ができるのならなんでも書いてね。俺は、うんうんと頷き聞いてます(読んでいます)。祐介』とノートに返事がきた。

  わたしは、その文章を読み嬉しくて涙が零れそうになった。

  その時、テーブルの上に置いていたスマホがブゥーブゥーと振動した。もう、誰よと思い画面を見ると『奈央』と表示されていた。

「もしもし」とわたしは、不機嫌な声で電話に出た。

『その嫌そうな声はなんだよ』


「だって、奈央、どうせどうでもいい話なんでしょ?」

  わたしは、カフェノートをチラチラと眺めながら言った。うちの家族はどうしてこうもわたしの大切な時間を邪魔するのだろうかと思うと嫌になる。

  ノートには祐介君の豪快で大きくて綺麗文字がわたしに語りかけているように見えた。

『お~い!  もしも~し、姉ちゃん、俺の話を聞いているのかな?』

「えっ!  あ、うん、聞いているよ」

『ふ~ん、聞いているんだね』

「……あ、うん、まあね」

  奈央の話を聞いてはいなかったけれど、そう答えた。

『じゃあいいんだね?』

「うん、いいよ」

  わたしは、早く電話を切りたくて適当に返事をしてしまった。

『おっ、じゃあ、決まりだね!  姉ちゃんもドーナツ屋でバイトをするんだね』

「はぁ?  ドーナツ屋でバイトって何のこと?」

『やっぱり聞いてないじゃん。でもダメだよ。うんって返事をしたんだからね』

「えっ!  嫌だよ、知らないよ~」

「旅行同好会で旅行に行きたいんだよね?」

  奈央のその声は力強い語調だった。

「……行きたいけど」

「じゃあ、決まりだね」

  奈央は勝ち誇ったように笑った。

  わたしは、悔しくて唇を噛み締めた。


  奈央からの電話を切ったわたしは、ペンをぎゅっと握りしめ慌てて祐介君への返事を書いた。

『祐介君にもっとたくさんお父さんの話を聞いてもらいたかったのだけど、今から急遽アルバイトに行くことになりました。ドーナツ屋さんのアルバイトだよ。頑張ってきま~す。早乙女』

  急いで書いたわたしの文字はあっちにこっちへとぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

『早乙女ちゃん、アルバイトが決まったんだね。おめでとう。俺はこのカフェでゆったり寛ぎながら早乙女ちゃんを応援しています。頑張ってね。祐介』と書かれた返事がすぐにきた。

  わたしは、『ありがとう、頑張るね。早乙女』とだけ書いてカフェノートを閉じた。

  祐介君が応援してくれているのだから頑張ろう。わたしは、頬を緩めカフェを出た。

  外に出たわたしは、先程まで座っていた二階のカウンター席を見上げた。すると、窓から祐介君が手を振っているのではないかなと思い微笑みを浮かべた。
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