カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

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不思議なカフェノート

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  家に帰るとわたしは急いで二階の自室に駆け上がった。机の前に座り学校鞄から慌ててカフェノートを取り出した。

「あ、そういえばこのカフェノートを私物化しちゃっているな……」

  年季が入っていて表紙に小さな文字で『2000年』と書かれているこのノートは、わたしの宝物になっている。

  わたしは、「まあいいよね」と呟きカフェノートを開いた。

そして、ペンをぎゅっと握った。

『祐介君、聞いてくださ~い!  わたしは、旅行研究部同好会の部員のみんなを見事にねじ伏せたよ。関西旅行に決定しました。祐介君は関西のどこに旅行に行くか行き先は決まったかな?  うひひ早乙女』と書いた。

  祐介君からの返事が来るまでの間勉強でもしようかなと思ったのだけど気がつくと小説や漫画を読んでいた。

  素敵な小説の文章を読んだり漫画の綺麗で可愛らしい絵柄に触れるとわたしも小説や漫画を描きたくなる。そんなことをぼんやり考えていた。

  将来は何かを表現する仕事がしたいなと思うけれど、やっぱり難しいのかなと溜め息をついた。



  高校三年生のわたしは、夢さえ見つからなくてそれが今の最大の悩みなのだ。クラスメイトのみんなは大学受験の勉強や夢に向かって必死だったりするけれど、わたしはやる気が起きない。

  そんな時にカフェノートと祐介君に出会ったのだった。祐介君の文章を読み返事を書くことが今は楽しくて仕方がない。

  関西旅行に行って祐介君と過去と未来ではあるけれど、同じ空の下の空気を吸うと何かを見つけることが出来るのだろうか?

  そんなことを考えながら頬杖をついていると、カフェノートに文字がふわふわと浮き上がってきた。



  わたしは祐介君の豪快で綺麗な文字に目を落とした。

『早乙女ちゃん、旅行研究部同好会の部員のみんなを見事にねじ伏せたんだね。俺はカフェノートを読んで思わず吹き出してしまいました』

  わたしはカフェノートを読みながら笑っている祐介君を想像してぷっと笑ってしまった。

『あ、関西旅行は滋賀県の琵琶湖と大阪と奈良に行くことになりました。日程は八月九日~十六日です。大阪では串カツを食べようかな?  奈良県では鹿に会って来ます。祐介』と書かれていた。

 わたしはカフェノートを読みふむふむと頷いた。琵琶湖といえばお父さんと旅行に行った思い出の場所ではないかと思った。

  琵琶湖に行くとお父さんとの懐かしい思い出がよみがえってくるかもしれない。

  お父さんの忘れかけている笑顔とその声に会えるといいな。わたしはそんなことを考えながら祐介君の文字を眺めた。

  お父さんあなたは元気ですか?  同じこの空の下でキラキラ降り注ぐ太陽の日差しを受けたり星空を眺めたりしていますか?


  高校生活最後の旅行は楽しくなりそうだ。祐介君と過去と未来の空の下で旅をする。そして、過去のお父さんとも出会えるかもしれない。

  それから奈央や旅行研究部同好会の部員のみんなとの思い出を作ることもできる。

  そう考えると早く旅行に行きたく堪らなくなった。そのためにはドーナツ屋のアルバイトも頑張らなくてはならない。

  もういろんな思いがぶわーっと溢れ出してしまいそうだ。

  わたしはペンを握りペンを走らせた。

『祐介君、わたし絶対に琵琶湖や大阪やそれから奈良の旅行に行くね。もう今からめちゃくちゃ楽しみです。旅行研究部同好会の部員のみんなをまたまたねじ伏せなきゃね。頑張ります!  早乙女』と書いた。

  わたしはペンを置きうふふと笑った。

『早乙女ちゃんの笑顔が思い浮かんできます。きっと、旅行研究部同好会の部員のみんなをねじ伏せようと笑っているんだよね?  もう想像しただけでぷぷっと吹き出してしまいました。早乙女ちゃんの顔も知らないのにね。祐介』と返事が来た。

 図星ではないか。

『わたしは笑ってなんかいません。ってウソです。笑っていますよ。どうしてバレているのかな……。そう言えばお互いの顔を知らないんだよね。こんなにカフェノートを通していろんな話をしているのに不思議だよね』

  わたしはここまで書いて改めて祐介君の顔を知らないんだよねと実感した。

『俺もお互いの顔を知らないなんて不思議な気持ちになっているよ。だって、早乙女ちゃんとずっと前からの友達みたいな感覚になっていたから……祐介』

『もうカフェノートを通して話をすることが日課になっているからね。早乙女』

  わたしはペンを走らせながら不思議な出会いに嬉しさを感じた。
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