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祐介とカフェノート
しおりを挟む俺は不思議な旅をしている。見知らぬ女の子とカフェノートを通して旅をしている。
その女の子は早乙女ちゃん。俺と同じ高校三年生なんだけれど、早乙女ちゃんは西暦二千二十二年の世界の女の子なのだ。
そして、俺は西暦二千年の世界の高校三年生なのだ。
カフェノートで『おはよう早乙女ちゃん』と挨拶をすると『祐介君おはよう』と早乙女ちゃんからカフェノートを通して返事が返ってくる。そのやり取りがとても楽しかった。
早乙女ちゃんの小さくて細かい可愛らしい文字が愛おしい。この気持ちは一体なんだろうかとずっと考えていた。
過去と未来の世界で俺と早乙女ちゃんは同じルートで関西旅行をした。俺は早乙女ちゃんと過去と未来ではあるけれど同じ空気が吸えたような気がして嬉しかった。
たこ焼きを食べたりビリケンさんを見たり串カツを食べたり奈良で鹿に会ったり早乙女ちゃんと俺は過去と未来の世界で同じ体験をした。
だけど、琵琶湖に行って透き通る湖水浴を満喫したあの日早乙女ちゃんからカフェノートを通して手紙が来た。
それは、『今、宿泊しているこの花風荘はわたしが小学生の頃お父さんと琵琶湖旅行をした時に泊まった宿だったんだよ。
まったく覚えていなかったのに無意識のうちに選んでしまったのかな? という不思議なことがありました。早乙女』と書かれている文章を読むと違和感を持った。
俺と早乙女ちゃんの関係は一体何なのだろうかと……。
早乙女ちゃんと過去と未来で同じルートを辿る関西旅行は楽しくて大成功した。
そして、現実の世界で俺は。
「祐介君おはよう~」
「千加子ちゃんおはよう。っておいおい千加子、祐介君なんて呼ぶと早乙女ちゃんに笑われるぞ」
俺はきょとんとした顔で俺のことを見上げる大きな目をした娘の頭を撫でた。
「あはは、お父さんってばお母さんに祐介君て呼ばれているんだ~」
まだ三歳になったばかりの早乙女が俺の顔をじっと見て笑った。
俺は早乙女の良い父親になろうと思った。それと、まだ一歳になったばかりの奈央の良い父親になろうと思ったそれなのに。
いつの日か俺は夢を追いかけ旅に出たり会社を経営しては上手くいかず借金をしては潰したりの繰り返しになってしまった。
何もかも上手くいかなくなった俺は千加子や早乙女や奈央の前から逃げ出してしまった。
俺は情けなくて千加子とは離婚をしたけれど、可愛い娘の早乙女や息子の奈央とは一週間に一回は会っていた。
琵琶湖に旅行に早乙女や奈央と行った時はそれはもう楽しかった。だけど、その後も会社の経営が上手く行かず千加子に呆れられてしまい子供に会わないでと言われたのだった。
今日、俺は久しぶりに懐かしい喫茶店にやって来た。高校三年生のあの日確かに未来の高校三年生である早乙女ちゃんとカフェノートを通してやり取りをした。
早乙女ちゃんからカフェノートを通して手紙が来るとわくわくしていた。まさか、その女の子が自分の娘であるなんて夢にも思っていなかった。
今は西暦二千二十二年の冬だ。俺は今年四十歳になった。まだまだ若いつもりでいるけれど高校三年生の女の子からすると立派なおじさんである。
そして、俺は高校時代によく座った窓際のカウンター席へと向かった。
すると、俺がよく座っていたその席に高めの位置でポニーテールにしている女の子が座っていた。
あの子は、きっと……。
「すみません、あの合言葉は『二十ニ』早乙女ちゃんですか?」
俺は勇気を振り絞り言った。
女の子はこちらに振り向き俺を見上げた。その大きな目が俺を見上げる。この子は俺の娘だ。
「祐介君」と女の子は言った。
「早乙女ちゃんですか?」
「はい、早乙女です。祐介君はお父さんだよね?」
早乙女ちゃんはそう言って満面の笑みを浮かべた。
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