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「……よし。席次表、広告掲載位置、祝儀回収フロー。すべて完璧ですわ」
私は純白の……いえ、正確には「純金糸入り・リサイクル最高級ドレス」を纏い、鏡の前で最終チェックを行っていた。
今日は、私とゼノの結婚式。
王都最大の神殿を貸し切り(※閑散期割引を適用)、参列者は王公貴族から市場の商人、果ては元誘拐犯の調査員たちまで。
まさに、私の人生の総決算とも言える一大イベントですわ。
「お姉様ぁぁ!! 見てください、受付に積み上がった祝儀の山を! これはもはや、一つの山脈ですわ! これだけで小国一つ買収できるのではないかしら!?」
リルさんが、感極まった様子で鼻水を拭いながら報告に来ました。
彼女は今日、披露宴の「集金責任者」という大役を任されています。
「当然ですわ、リルさん。入場料として『特売情報のサブスク契約』を義務付けましたもの。……さて、ゼノ。準備はいいかしら?」
隣で、これ以上なく凛々しい正装に身を包んだゼノが、深くため息をつきました。
彼は私の手を取り、少しだけ呆れたように笑います。
「……アクア。お前、誓いの言葉の最中に『金貨の数え方』を思い出したりしないだろうな?」
「失礼ね。今は『これからの共同生活における税務申告』について考えているだけですわ。……さあ、行きましょう。私の人生最大の『利益確定』の瞬間ですわよ」
パイプオルガンの重厚な調べと共に、私たちは大聖堂のバージンロードを歩み始めました。
参列者からの拍手、歓声。
そのどれもが、私にとっては「信頼」という名の無形資産のように感じられます。
祭壇の前で、私たちは向き合いました。
「……アクア。俺は誓うよ。お前の資産も、その三白眼も、可愛げのない毒舌も。全部ひっくるめて、俺が生涯かけて守り抜く。お前の人生に、一円の赤字も出させない」
「ゼノ……。私も誓いますわ。あなたの筋肉も、その不器用な優しさも、私への献身も。すべて私の『独占所有物』として、永遠に運用し続けてあげます。……途中で解約なんて、絶対に許しませんからね」
私たちが誓いの言葉を交わし、いよいよ「誓いのキス」というクライマックスを迎えようとした、その時。
「待てぇぇい! その結婚、私が異議を申し立てるぞぉぉ!!」
大聖堂の扉が勢いよく開き、ボロボロのタキシードを纏ったジュリアス殿下が乱入してきました。
その後ろには、もはや同情の視線を送ることすらやめた役人たちが、疲れ果てた顔で立っています。
「アクア! やはり君は無理やりその騎士に脅されているんだろう!? 君のような高貴な女性が、節約だの卵だのと言い出すはずがない! 目を覚ませ、君の本当の居場所は、私の黄金の檻(改修中)なんだ!」
会場が、冷ややかな沈黙に包まれました。
私はゼノの手をそっと離し、ヴェールを跳ね上げ、懐から……いえ、ガーターベルトに忍ばせていた「特大メガホン」を取り出しました。
「……殿下。本日、この神殿のレンタル料は一分刻みで発生しておりますの。あなたのその無駄な乱入により、現在進行形で金貨十枚分の損害が出ていること、お分かりかしら?」
「損害!? 愛の前に金の話をするな!」
「いいえ。金の話ができない男に、愛を語る資格はありませんわ! ゼノ、……あれ、やってくださる?」
「……ああ。お前の結婚式を汚した罪、高くつくぞ」
ゼノが私の前に立ち、拳をポキリと鳴らしました。
殿下が「ひっ」と短い悲鳴を上げます。
ですが、私が彼を止めました。
「いいえ、ゼノ。ここは私が引導を渡します。……殿下、これが私の、最後で最高の『断罪』ですわ!」
私はドレスの裾を豪快にまくり上げ、全力で一歩踏み込みました。
そして、かつてないほどの力を込めて、王子の顎に「婚約破棄(物理)」のストレートを叩き込んだのです!
「――あべしっ!?」
王子の体が宙を舞い、大聖堂の天井を突き破らんばかりの勢いで吹き飛んでいきました。
まさに、悪役令嬢による、物理的な縁切りの完成ですわ。
「……ふぅ。これでようやく、不採算物件の処理が終わりましたわね。……リルさん! 今の衝撃で壊れた天井の修理費、殿下の実家に三倍の値段で請求なさい!」
「はいっ! お姉様! ついでに『感動のフィナーレ演出料』も上乗せしておきますわ!!」
静まり返る会場。
私は乱れた呼吸を整え、再びゼノに向き直りました。
ゼノは呆気にとられた顔をしていましたが、やがて腹を抱えて笑い出しました。
「……ははは! 最高だよアクア。やっぱりお前は、世界で一番強くて、美しい『悪役令嬢』だ」
「……うるさいですわ。……さあ、続きをなさい。私の唇の鮮度が落ちる前に」
私は真っ赤になった顔を隠さず、目を閉じました。
ゼノの手が私の腰を引き寄せ、唇が重なります。
それは、どんな高価な宝石よりも甘く。
どんな莫大な利益よりも、私の心を満たしてくれるものでした。
……。
…………。
その後。
私たちは、公爵邸をリフォームした「アクア・アズライト相談所・総本店」を拠点に、国中の無駄を削ぎ落とし、人々に「節約と愛」を説く、史上最強の夫婦としてその名を轟かせることになりました。
リルさんは相変わらず「お姉様の二番目の椅子(物理)」として居座り。
元誘拐犯のボブたちは、今や王国最大の物流ギルドの長へと成長。
そして私は――。
「……ゼノ。今月の家計簿、また一円のズレもなく黒字ですわ」
「そうか。……じゃあ、その浮いた分で、今日は何か美味いもんでも食べに行くか。……もちろん、お前の好きな『特売の端材』じゃない、本当の最高級品をな」
「あら。……あなたが隣にいてくれるなら、私にとってはどんな食事も、期待値以上の贅沢品になりますわよ」
私はゼノの腕に寄り添い、窓の外に広がる、私たちが救ったこの国を見つめました。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、婚約破棄をされたあの日。
私の帳簿は真っ赤に染まっていました。
ですが、今の私は知っています。
人生において、最も価値のある資産。
それは金貨でも、地位でも、名声でもない。
自分の信じた道を共に歩んでくれる、かけがえのないパートナーの存在。
「……ふふ。私の人生、最高の純利益ですわ」
これにて、文句なしの黒字決算(ハッピーエンド)でございます!
私は純白の……いえ、正確には「純金糸入り・リサイクル最高級ドレス」を纏い、鏡の前で最終チェックを行っていた。
今日は、私とゼノの結婚式。
王都最大の神殿を貸し切り(※閑散期割引を適用)、参列者は王公貴族から市場の商人、果ては元誘拐犯の調査員たちまで。
まさに、私の人生の総決算とも言える一大イベントですわ。
「お姉様ぁぁ!! 見てください、受付に積み上がった祝儀の山を! これはもはや、一つの山脈ですわ! これだけで小国一つ買収できるのではないかしら!?」
リルさんが、感極まった様子で鼻水を拭いながら報告に来ました。
彼女は今日、披露宴の「集金責任者」という大役を任されています。
「当然ですわ、リルさん。入場料として『特売情報のサブスク契約』を義務付けましたもの。……さて、ゼノ。準備はいいかしら?」
隣で、これ以上なく凛々しい正装に身を包んだゼノが、深くため息をつきました。
彼は私の手を取り、少しだけ呆れたように笑います。
「……アクア。お前、誓いの言葉の最中に『金貨の数え方』を思い出したりしないだろうな?」
「失礼ね。今は『これからの共同生活における税務申告』について考えているだけですわ。……さあ、行きましょう。私の人生最大の『利益確定』の瞬間ですわよ」
パイプオルガンの重厚な調べと共に、私たちは大聖堂のバージンロードを歩み始めました。
参列者からの拍手、歓声。
そのどれもが、私にとっては「信頼」という名の無形資産のように感じられます。
祭壇の前で、私たちは向き合いました。
「……アクア。俺は誓うよ。お前の資産も、その三白眼も、可愛げのない毒舌も。全部ひっくるめて、俺が生涯かけて守り抜く。お前の人生に、一円の赤字も出させない」
「ゼノ……。私も誓いますわ。あなたの筋肉も、その不器用な優しさも、私への献身も。すべて私の『独占所有物』として、永遠に運用し続けてあげます。……途中で解約なんて、絶対に許しませんからね」
私たちが誓いの言葉を交わし、いよいよ「誓いのキス」というクライマックスを迎えようとした、その時。
「待てぇぇい! その結婚、私が異議を申し立てるぞぉぉ!!」
大聖堂の扉が勢いよく開き、ボロボロのタキシードを纏ったジュリアス殿下が乱入してきました。
その後ろには、もはや同情の視線を送ることすらやめた役人たちが、疲れ果てた顔で立っています。
「アクア! やはり君は無理やりその騎士に脅されているんだろう!? 君のような高貴な女性が、節約だの卵だのと言い出すはずがない! 目を覚ませ、君の本当の居場所は、私の黄金の檻(改修中)なんだ!」
会場が、冷ややかな沈黙に包まれました。
私はゼノの手をそっと離し、ヴェールを跳ね上げ、懐から……いえ、ガーターベルトに忍ばせていた「特大メガホン」を取り出しました。
「……殿下。本日、この神殿のレンタル料は一分刻みで発生しておりますの。あなたのその無駄な乱入により、現在進行形で金貨十枚分の損害が出ていること、お分かりかしら?」
「損害!? 愛の前に金の話をするな!」
「いいえ。金の話ができない男に、愛を語る資格はありませんわ! ゼノ、……あれ、やってくださる?」
「……ああ。お前の結婚式を汚した罪、高くつくぞ」
ゼノが私の前に立ち、拳をポキリと鳴らしました。
殿下が「ひっ」と短い悲鳴を上げます。
ですが、私が彼を止めました。
「いいえ、ゼノ。ここは私が引導を渡します。……殿下、これが私の、最後で最高の『断罪』ですわ!」
私はドレスの裾を豪快にまくり上げ、全力で一歩踏み込みました。
そして、かつてないほどの力を込めて、王子の顎に「婚約破棄(物理)」のストレートを叩き込んだのです!
「――あべしっ!?」
王子の体が宙を舞い、大聖堂の天井を突き破らんばかりの勢いで吹き飛んでいきました。
まさに、悪役令嬢による、物理的な縁切りの完成ですわ。
「……ふぅ。これでようやく、不採算物件の処理が終わりましたわね。……リルさん! 今の衝撃で壊れた天井の修理費、殿下の実家に三倍の値段で請求なさい!」
「はいっ! お姉様! ついでに『感動のフィナーレ演出料』も上乗せしておきますわ!!」
静まり返る会場。
私は乱れた呼吸を整え、再びゼノに向き直りました。
ゼノは呆気にとられた顔をしていましたが、やがて腹を抱えて笑い出しました。
「……ははは! 最高だよアクア。やっぱりお前は、世界で一番強くて、美しい『悪役令嬢』だ」
「……うるさいですわ。……さあ、続きをなさい。私の唇の鮮度が落ちる前に」
私は真っ赤になった顔を隠さず、目を閉じました。
ゼノの手が私の腰を引き寄せ、唇が重なります。
それは、どんな高価な宝石よりも甘く。
どんな莫大な利益よりも、私の心を満たしてくれるものでした。
……。
…………。
その後。
私たちは、公爵邸をリフォームした「アクア・アズライト相談所・総本店」を拠点に、国中の無駄を削ぎ落とし、人々に「節約と愛」を説く、史上最強の夫婦としてその名を轟かせることになりました。
リルさんは相変わらず「お姉様の二番目の椅子(物理)」として居座り。
元誘拐犯のボブたちは、今や王国最大の物流ギルドの長へと成長。
そして私は――。
「……ゼノ。今月の家計簿、また一円のズレもなく黒字ですわ」
「そうか。……じゃあ、その浮いた分で、今日は何か美味いもんでも食べに行くか。……もちろん、お前の好きな『特売の端材』じゃない、本当の最高級品をな」
「あら。……あなたが隣にいてくれるなら、私にとってはどんな食事も、期待値以上の贅沢品になりますわよ」
私はゼノの腕に寄り添い、窓の外に広がる、私たちが救ったこの国を見つめました。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、婚約破棄をされたあの日。
私の帳簿は真っ赤に染まっていました。
ですが、今の私は知っています。
人生において、最も価値のある資産。
それは金貨でも、地位でも、名声でもない。
自分の信じた道を共に歩んでくれる、かけがえのないパートナーの存在。
「……ふふ。私の人生、最高の純利益ですわ」
これにて、文句なしの黒字決算(ハッピーエンド)でございます!
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