悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!

ちゃっぴー

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「ミュール様、バンザイ!」

「麗しのシスコン令嬢、バンザイ!」

「俺の妹も可愛がってください!」

王都の大通りは、お祭り騒ぎだった。

紙吹雪が舞い、ファンファーレが鳴り響く中、私はキース様の隣で、パレード用のオープン馬車に乗せられていた。

「……死にたい」

私はひきつった笑顔のまま、小声で呟いた。

「なんでこうなるのよ。私は昨日、断罪されて、惨めに石を投げられながら追放される予定だったのよ?」

「石の代わりに花束が飛んできているね。痛くないからいいじゃないか」

キース様が涼しい顔で、飛んできたバラの花を見事に片手でキャッチする。

「ほら、君への愛だ」

「いりません! 私が欲しいのは『ざまぁみろ』という罵倒です!」

私は花束を押し返した。

沿道の市民たちは、私が仏頂面で花束を拒否する姿を見て、さらに歓声を上げた。

「見て! あのご謙遜な態度!」

「『私なんかが花を受け取る資格はない』という顔をしているわ!」

「なんて奥ゆかしいんだ……尊い……」

「違うわよーーーッ!!」

私の心の叫びは、歓声にかき消された。

私の行動は全て、勝手に良い方向に脳内変換されてしまう。

これが「聖女補正」というやつか。

恐ろしい。

「諦めなよ、ミュール。君はもう、この国の英雄だ」

キース様が私の肩を抱き、観衆に向かって手を振る。

キャーーーッ! と黄色い悲鳴が上がる。

「『妹を守るために自ら悪を演じた悲劇のヒロイン』。……国民が大好きなストーリーだ」

「脚本・演出は全部殿下でしょうが!」

「主演女優賞は君だよ」

キース様は楽しそうだ。

完全に、私を外堀から埋めている。

馬車はゆっくりと進み、やがて王城の正門をくぐった。

昨日、私が「おどきなさい!」と脅して突破した門だ。

今日は門番たちが、直立不動で最敬礼している。

「お帰りなさいませ、聖女ミュール様! 昨日の暴走、痺れました!」

「門の修理代はカンパで集まりましたのでご安心を!」

「……もう嫌」

私はガックリと項垂れた。

私の悪名高き「門突破事件」すら、武勇伝として語り継がれてしまっている。

この国は大丈夫なのか。



馬車を降りると、そこにはアークライト公爵夫妻……つまり、お父様とお母様が待っていた。

「ミュール!」

「お父様、お母様……」

私は気まずくて目を逸らした。

家名を汚した娘として、勘当されても文句は言えない。

しかし、二人は涙を流して私に駆け寄ってきた。

「よくやったわ、ミュール! お母さん、感動したわ!」

「リナへの愛! あれこそ我が家の家訓『妹は神』を体現した姿だ!」

「お父様まで!?」

両親にギュウギュウに抱きしめられる。

「ごめんね、気づいてあげられなくて。辛かったでしょう、一人で悪役を背負い込んで……」

「いえ、あの、結構ノリノリでやってたんですけど……」

「いいのよ、何も言わなくて。今日からは堂々とリナを愛でていいのよ!」

「公式許可が出た!」

そこへ、騒ぎを聞きつけたリナが、車椅子(大事をとって移動中)で爆走してきた。

「お姉様ァァァァァッ!!」

「リナ! 車椅子でドリフトしないの!」

リナは私の前で急ブレーキをかけ、両手を広げた。

「お帰りなさい、お姉様! 私の(そして国民の)ヒーロー!」

「リナ……」

私は妹の元気な顔を見て、ようやく心のトゲが少し抜けた気がした。

まあ、いいか。

リナが笑っているなら、聖女だろうがシスコンだろうが、甘んじて受け入れよう。

「ただいま、リナ」

私が微笑むと、リナはパァアと花が咲くような笑顔を見せた。

「はい! これでやっと、元の生活に戻れますね!」

「そうね」

「お姉様がお屋敷に帰ってきて、また三人で暮らす日々が……」

「ん?」

キース様が口を挟んだ。

「お屋敷に帰る? 誰が?」

「え?」

私とリナがキース様を見る。

「ミュールは帰らないよ。彼女の住処は、今日からここ(王城)だ」

「はああああ!?」

私とリナの声がハモった。

「どういうことですか殿下! 無罪になったんだから、実家に帰れるでしょう!?」

「無罪にはなったけど、君は僕の『婚約者』になっただろう?」

キース様が、先ほどのパレードでの「婚約発表(既成事実)」を持ち出した。

「あれは殿下が勝手に言っただけです!」

「国民全員が証人だよ? 今さら『やっぱり嘘でした』なんて言ったら、暴動が起きるかもしれないなぁ」

「脅しですか!」

「それに」

キース様は私の手を取り、指先にキスを落とした。

「僕はもう、君を手放す気はないと言ったはずだ。……別荘(監禁生活)の続きを、ここ王城でやろう」

「続き!?」

あの、甘やかされ、餌付けされ、膝の上で仕事をさせられる日々を?

ここで?

衆人環視の中で?

「却下します!」

リナが車椅子から立ち上がった(元気だ)。

「お姉様は渡しません! 実家に連れて帰って、私が一生養うんです!」

「残念ながら、リナ嬢。君もここに住むんだよ」

「は?」

「次期王妃教育、遅れているだろう? これからは泊まり込みでスパルタ教育だ。……もちろん、ミュールが人質(同居人)なら、君も逃げ出さないだろう?」

「……っ!!」

リナが絶句する。

完璧な理論武装だ。

リナを城に留めるために私を利用し、私を城に留めるためにリナを利用する。

この男、策士すぎる。

「というわけで」

キース様がパンと手を叩いた。

「ミュールの部屋は、僕の寝室の隣に用意してある。壁一枚隔てただけの、愛の巣だ」

「近すぎます!」

「リナ嬢の部屋は、東棟の端っこだ」

「遠すぎます! 徒歩10分もかかるじゃないですか!」

「適度な運動だよ。……さあ、ミュール。行こうか」

キース様が強引に私の腰を抱いて歩き出す。

「ちょ、殿下! 荷物は! 心の準備は!」

「全部手配済みだ。……覚悟しなよ。ここからは、『逃げ場のない王城生活』の始まりだ」

キース様の耳元での囁きに、私は背筋がゾクリとした。

悪役令嬢としての断罪は免れた。

しかし、待っていたのは「王太子妃(予定)」という、さらに逃げ場のない、甘くて重い鳥籠だった。

「お姉様ーーーッ! 夜這いに行きますからねーーーッ!」

背後で叫ぶリナの声を聞きながら、私は遠い目をして青空を見上げた。

(私……悪役として、静かに余生を過ごしたかっただけなのに……)

私の願いとは裏腹に、王城の巨大な扉が、重々しい音を立てて閉ざされたのだった。
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