鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手

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章の四

第九十九話/カイドウ

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 カイドウの眉がピクリと動く。
「見切った、だって…?」
「あァ」
 顔色ひとつ変えないシュテンに対し、カイドウは鼻で笑う。
「有り得ないよ、そんなことは」
 魔力を込めて手を振る。
 空を切り裂く音と共に、風圧で足元の石畳に亀裂が入る。
「見なよ、このスピードとパワー。僕は魔族随一のスピードアタッカーなんだ、転移魔法まで合わされば人間のキミなんかが視認できる筈もない」
 カイドウがシュテンを指差す。
「ハッタリで動揺させるつもりだったんだろうけど、残念だったね。僕には効かないよ」
 シュテンは頭を搔く。
「だったら早く来ィ」
「舐めてくれちゃっ、て!」
 カイドウが転移する。
 転移先はシュテンの背後だ。
 拳に限界まで魔力を載せる。
 ありったけの怨嗟を視線で送り、拳を放つ。
「!?」
 放ったはずであった。
 気付いたら頭は揺れ、仰いだ空は歪んでいた。
 咄嗟に転移する。
 元居た位置に戻り前を向くと、そこにはカイドウが転移した位置を、正確な裏拳で撃ち抜いたシュテンの姿があった。
「ぐ…」
 口元を何かが流れる感覚に、思わず手で拭う。
 手に赤いものが広がった。恐らく鼻が折れたのだろう。
「も、もう一度…っ!」
 今度はシュテンの右足元へ転移し、膝を狙う。
「…っ!?がっ」
 狙っていたはずの膝が鳩尾に刺さった。
 これはマグレではない。
 カイドウは、シュテンの「見切り」がハッタリではない事を悟った。
「ぐ…クソっ!」
 再び転移し、真後ろを陣取る。
「ここなら手が届かないでしょ!」
 体を捻らなければ手が届かない位置、そこから両手の動きに気を付けていれば、攻撃は喰らわない。
「あとは当てるだけだっ!」
 再び拳に魔力を込められるだけ込める。
 カイドウに残る魔力の9割をそこに注ぎ込んだ。
 確実にシュテンを仕留めるためだ。
 シュテンは反応が遅れているのか、手を動かす気配は無い。
「喰らえ…っ!」
 勝利を確信し、拳を突き出した。
「鬼道・濫技『神出鬼没』」
 的が、消えた。
 拳は虚空を貫き、魔力は霧散する。
「っ!?」
 直後、背中を襲う悪寒。
 大きな影が、揺らめく妖力が、カイドウの背後にピッタリくっついていた。
「ひっ!?」
 思わず漏れた情けない声と共に転移し、シュテンから距離を取る。
 だが、転移先から見た転移元の地面に、敵の姿は無かった。
「どこへ…」
「鬼道」
「っ!?」
 背後からの声に慌てて転移する。
 残る魔力も少なく、長距離の転移は出来なかったが、近くの屋根くらいには飛べた。
「ここなら…」
「装技」
「うわぁ!?」
 再び転移。
 二度あることは三度ある。
 カイドウは覚悟を決め、転移後直ぐに振り返る。
 読み通り、シュテンは超高速でそこへ現れた。
 転移のために取っておいた魔力も全て拳に載せ、振り返りざまに放つ。
「ヤケだ、死ねぇ!」
 一世一代の一撃は、シュテンは腹へ音を立てて突き刺さった。
「やった!どうだ!」
 カイドウは、僅かに口角の上がった顔でシュテンを見上げた。そして目に入った、その涼し気な顔に絶望した。
「『意鬼投合』」
「っ…!」
 鬼の爪はカイドウの腹へ突き刺さり、その身体は石畳を削りながら飛び、街道に長い轍を作っていった。
 シュテンは『狂鬼乱舞』を解くと、腹の辺りを軽く摩った。
「…突きがなまくら過ぎらァ、鍛えてから出直せェ」

「シュテン!」
 魔物を殲滅したアンナが駆け寄ってくる。
「怪我は無いか!?」
 大剣を地面に刺し立てると、シュテンの身体を見回す。
「あァ…どうもねェ」
「ん、そうみたいだな…」
 一歩下がって大剣の柄を握り、抉れた街道の果てに倒れるカイドウへ視線を遣る。
「…やったのか?」
「…どォだろォなァ」
 シュテンが首を捻ったその時、瓦礫が崩れる音とともに、カイドウが立ち上がった。
「ぐ…っ」
 シュテンの技を受けた顔面のダメージは凄まじく、左の角は折れて無くなっており、右眼は開かず中から血が流れ出ている。どうやら潰れている様だ。
 痛みに耐え歯を食いしばるも、肝心の歯が半分以上無くなっている。
「その技…そうか、キミがゲンジを倒した鬼だね?」
「なっ…」
 アンナが慌てて剣を構える。
「お前、あの魔族を知ってやがるのか!」
「知ってるも何も…」
 カイドウは肩で呼吸しながらも、アンナに笑みを返す。
「ゲンジも僕も、魔王軍の四天王だよ」
 アンナは剣を落としかける。
「魔王軍、だと…!?」
「ああそうさ、勇者タイカに倒された我らが魔王様は、もう間もなく復活するんだ…だから悪いけど、」
 カイドウが羽を展開し、宙へ浮かんだ。
「僕はここで死ぬ訳にはいかないんだよねー」
「っ!待て!」
「次会ったら殺してあげるよ、じゃあね」
 高く飛び上がる体力は残っていないのか、低空飛行で街道を飛び始めた。
「くそっ待…」
 カイドウを追って走り出そうとしたアンナの肩を、シュテンは握って止めた。
「なんだよシュテン!なんで止めんだ!」
 アンナがシュテンを見上げると、シュテンは何処かを指さした。
 その先を目で追うと、既に日が落ちた夕闇の中を起き上がる影が見えた。
「あれは…メイ!?」
 カイドウが進む直線上、駆け付けたクロの治療を受けていたメイが、回復もそこそこに立ちはだかったのだ。
「クロ、ありがとうございます。脇に逃げておいてください」
 メイは迫り来る敵に対し、短剣を向けた。
「…無茶だ!いくら相手が消耗してるとはいえ危険すぎる!」
 アンナの抗議にシュテンは首を振る。
「いや…大丈夫だァ、メイに任せとけェ」
「く…メイ…っ!」
 アンナはいつでも飛び出せる姿勢で、メイへ祈るように視線を送った。
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