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章の三
第六十四話/イバラギの主張
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「…………ん」
目が覚める。
慣らすように少しずつ目を開いて、最初に視界に入ったのは自分の足だった。
どうやら、眠ったまま椅子に腰掛けていたらしい。
板張りの床は手入れが行き届いておらず、小さな虫が我が物顔で往来していた。
ぼんやりとした意識のまま顔を上げる。
「目ぇ覚めたかぃ」
声がした正面を見ると、人の姿に擬態したイバラギが胡座をかいてシュテンの方を見ていた。
「……イバラギ、これァどういう事だァ」
シュテンはイバラギへ鋭い視線を向ける。
「そりゃこっちの台詞だぜカシラぁ。なんだって人間なんかを守って戦ってんだぃ」
「あァ?」
シュテンは怪訝な顔をする。
「気付いてねぇたぁ言わせねぇぞ、オイラ達に近づいてきたあの女、童子切を持ってやがったろ」
「あー…」
シュテンはひとつ息を吐く。
「…心配要らねェ、あれは俺の仲間だァ」
イバラギの眉がピクリと動く。
「仲間、だって?…カシラ、アンタ人間を対等な仲間として扱ってんのかぃ」
「あ?あァ、そうだ。お前だって人間達と居るだろが」
「勘違いすんじゃねぇ、アイツらは子分としてこき使ってるだけだぃ、カシラ…大丈夫か?」
シュテンは投げかけられた言葉の意味を考えた。
「それにその姿…妖力も減っちまってるじゃねぇか」
「ん?あァ、俺がそう望んだからなァ」
「あんだって?」
イバラギが目を丸くする。
「自ら進んで鬼の姿を手放したってのかぃ」
「あァ、そうだ」
イバラギは腕を組んで下を向く。
「…カシラ、アンタやっぱあの女共に騙されてんだよ」
シュテンの眉が動く。
「これは紛れもねェ俺の意思だァ。あまり俺の仲間を悪く言うもんじゃねェぞイバラギィ」
「…………そうかぃ」
イバラギがゆっくりと立ち上がる。
「どうやら話し合いじゃぁその洗脳は解けねぇらしい」
「あァ?」
イバラギの身体が、みるみる大きくなって行く。
角が伸び、肌が青く変化する。
「…もし本当なら、オイラは相当な間抜け野郎になっちまうなぁ」
「あァ?」
シュテンには聞き取れなかった様子だが、イバラギは構わず大きな声で続ける。
「立ちな…力ずくでも元のカシラに戻してやらぁ」
「…………」
シュテンは少し考えたが、すぐに腰を上げた。
「どうやら仕置きが必要らしいなァ、イバラギ」
「歯ぁ食いしばりなカシラ!」
「おォ、いつでもかかって来ィ」
イバラギが足を踏み込んだ。
同時刻、王京内のとある宿では、オニ党の面々が張り詰めた空気を醸し出していた。
「…やはり、手掛かりゼロか」
難しい顔で腕を組むのはカティであった。
メイ達は、西の山周辺にシュテンに繋がる手掛かりがないかを、日暮れまで探していたのだ。
カティは山賊のメンバーを尋問したが、やはりイバラギの場所は分からずに終わった。
「…某はもう一度、山賊達を問い詰める。君たちも気持ちは分かるが、無理はいけないぞ」
カティは足早に宿を後にして行った。
静まった部屋内で、アンナが唐突に壁を叩く。
「クソ…あのイバラギとか言う女、何考えてんだ」
「あのアニキが無抵抗で拐されるなんて…信じられないっス」
「あの女、青い姿に変身しやがったからな…見た事ない姿だったが、魔力が格段に跳ね上がってた」
「きっと…あの姿が本来の姿なんですよ」
メイは、シュテンの額当てから目を逸らさずに答える。
「オニとは、元々あのような風貌の種族なのでしょう」
「でも、アニキが変身するところなんて見た事ないっスよ?」
「…きっと、そこに何か秘密があるのですよ」
メイの手に力が入る。
「イバラギ殿が私に向けたあの目は…人間に対する憎悪でした」
「憎悪?」
「少数民族への迫害があったって事っスか?」
メイは顔を伏せる。
「わかりません…王国ではオニと言う名すら聞いた事すらありませんから」
「しかし、その予想が当たってたとしたら、私たちと行動していたシュテンはどうなる」
メイは息を飲む。
「…イバラギ殿とぶつかる可能性が、高いです」
「でも、アニキならあんな女に負けないっスよね?」
マンジュの問いに答えるものはいない。
アンナは眉間に皺を寄せる。
「相手もオニだ、シュテンと同等の力を持っていると見た方がいい」
「はやく…見つけなければ…」
メイが歯を食いしばっていると、窓から音がした。
「…ん?」
「どうした?メイ」
「今誰か窓を叩きませんでしたか?」
「え?ここ2階っスよ?」
更にコンコンと窓枠が叩かれる。
今度は全員が気づくが、窓の外には人影は無い。
「なんだ?」
アンナが恐る恐る近づく。
「お嬢、気をつけるっスよ!」
「ああ…」
窓を上げて外を確認する。
右、左と確認するがやはり人影は無かった。
「…?」
そのまま閉めようと下を向いた時、視界で何かが動いた。
「うわっ!?」
アンナが後ろへ跳ね飛んで尻餅をつく。
「アンナ殿!?」
メイとマンジュが慌ててアンナへ駆け寄っていく。
「どうしました!?」
「…………あービックリした、お前か」
アンナが窓の方を見て笑うので、メイとマンジュも視線の先を追ってみる。
「あっ」
「クロ!」
窓枠に佇み申し訳なさそうな顔をした白蛇が、こちらを見ていた。
目が覚める。
慣らすように少しずつ目を開いて、最初に視界に入ったのは自分の足だった。
どうやら、眠ったまま椅子に腰掛けていたらしい。
板張りの床は手入れが行き届いておらず、小さな虫が我が物顔で往来していた。
ぼんやりとした意識のまま顔を上げる。
「目ぇ覚めたかぃ」
声がした正面を見ると、人の姿に擬態したイバラギが胡座をかいてシュテンの方を見ていた。
「……イバラギ、これァどういう事だァ」
シュテンはイバラギへ鋭い視線を向ける。
「そりゃこっちの台詞だぜカシラぁ。なんだって人間なんかを守って戦ってんだぃ」
「あァ?」
シュテンは怪訝な顔をする。
「気付いてねぇたぁ言わせねぇぞ、オイラ達に近づいてきたあの女、童子切を持ってやがったろ」
「あー…」
シュテンはひとつ息を吐く。
「…心配要らねェ、あれは俺の仲間だァ」
イバラギの眉がピクリと動く。
「仲間、だって?…カシラ、アンタ人間を対等な仲間として扱ってんのかぃ」
「あ?あァ、そうだ。お前だって人間達と居るだろが」
「勘違いすんじゃねぇ、アイツらは子分としてこき使ってるだけだぃ、カシラ…大丈夫か?」
シュテンは投げかけられた言葉の意味を考えた。
「それにその姿…妖力も減っちまってるじゃねぇか」
「ん?あァ、俺がそう望んだからなァ」
「あんだって?」
イバラギが目を丸くする。
「自ら進んで鬼の姿を手放したってのかぃ」
「あァ、そうだ」
イバラギは腕を組んで下を向く。
「…カシラ、アンタやっぱあの女共に騙されてんだよ」
シュテンの眉が動く。
「これは紛れもねェ俺の意思だァ。あまり俺の仲間を悪く言うもんじゃねェぞイバラギィ」
「…………そうかぃ」
イバラギがゆっくりと立ち上がる。
「どうやら話し合いじゃぁその洗脳は解けねぇらしい」
「あァ?」
イバラギの身体が、みるみる大きくなって行く。
角が伸び、肌が青く変化する。
「…もし本当なら、オイラは相当な間抜け野郎になっちまうなぁ」
「あァ?」
シュテンには聞き取れなかった様子だが、イバラギは構わず大きな声で続ける。
「立ちな…力ずくでも元のカシラに戻してやらぁ」
「…………」
シュテンは少し考えたが、すぐに腰を上げた。
「どうやら仕置きが必要らしいなァ、イバラギ」
「歯ぁ食いしばりなカシラ!」
「おォ、いつでもかかって来ィ」
イバラギが足を踏み込んだ。
同時刻、王京内のとある宿では、オニ党の面々が張り詰めた空気を醸し出していた。
「…やはり、手掛かりゼロか」
難しい顔で腕を組むのはカティであった。
メイ達は、西の山周辺にシュテンに繋がる手掛かりがないかを、日暮れまで探していたのだ。
カティは山賊のメンバーを尋問したが、やはりイバラギの場所は分からずに終わった。
「…某はもう一度、山賊達を問い詰める。君たちも気持ちは分かるが、無理はいけないぞ」
カティは足早に宿を後にして行った。
静まった部屋内で、アンナが唐突に壁を叩く。
「クソ…あのイバラギとか言う女、何考えてんだ」
「あのアニキが無抵抗で拐されるなんて…信じられないっス」
「あの女、青い姿に変身しやがったからな…見た事ない姿だったが、魔力が格段に跳ね上がってた」
「きっと…あの姿が本来の姿なんですよ」
メイは、シュテンの額当てから目を逸らさずに答える。
「オニとは、元々あのような風貌の種族なのでしょう」
「でも、アニキが変身するところなんて見た事ないっスよ?」
「…きっと、そこに何か秘密があるのですよ」
メイの手に力が入る。
「イバラギ殿が私に向けたあの目は…人間に対する憎悪でした」
「憎悪?」
「少数民族への迫害があったって事っスか?」
メイは顔を伏せる。
「わかりません…王国ではオニと言う名すら聞いた事すらありませんから」
「しかし、その予想が当たってたとしたら、私たちと行動していたシュテンはどうなる」
メイは息を飲む。
「…イバラギ殿とぶつかる可能性が、高いです」
「でも、アニキならあんな女に負けないっスよね?」
マンジュの問いに答えるものはいない。
アンナは眉間に皺を寄せる。
「相手もオニだ、シュテンと同等の力を持っていると見た方がいい」
「はやく…見つけなければ…」
メイが歯を食いしばっていると、窓から音がした。
「…ん?」
「どうした?メイ」
「今誰か窓を叩きませんでしたか?」
「え?ここ2階っスよ?」
更にコンコンと窓枠が叩かれる。
今度は全員が気づくが、窓の外には人影は無い。
「なんだ?」
アンナが恐る恐る近づく。
「お嬢、気をつけるっスよ!」
「ああ…」
窓を上げて外を確認する。
右、左と確認するがやはり人影は無かった。
「…?」
そのまま閉めようと下を向いた時、視界で何かが動いた。
「うわっ!?」
アンナが後ろへ跳ね飛んで尻餅をつく。
「アンナ殿!?」
メイとマンジュが慌ててアンナへ駆け寄っていく。
「どうしました!?」
「…………あービックリした、お前か」
アンナが窓の方を見て笑うので、メイとマンジュも視線の先を追ってみる。
「あっ」
「クロ!」
窓枠に佇み申し訳なさそうな顔をした白蛇が、こちらを見ていた。
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