生まれ変わったら幸せになりたいと願った不運な女は、何故か猫の王子様のペットになっていた。

刹那玻璃

文字の大きさ
14 / 16
第一章

女王アダルジーザの来訪

しおりを挟む
 歩けるようになったルーチェに、アルカンジェロはウリッセに相談し、ケージと猫用タワーを作ってもらう。
 普通、猫用のケージは高さのあるものが多いが、ルーチェはまだ低いところが好きらしく、高くてもアルカンジェロの机に飛び乗る程度。
 しかし、

「これでルーチェも遊べるよね?」
「まだお小さいので、上に登るのはまだまだかと……」
「そっか……でも楽しみだね」

ニコニコと笑って、尻尾をゆっくりと振りながら離乳食を食べているルーチェを見つめている。

 あの日以来、この屋敷で毒が出ないように、ルーチェが口にした銀のカトラリーを使うようにしている。
 それらは家令とウリッセが厳重に管理し、日々磨き上げていた。

 執事見習いを兼務しているウリッセは、ポケットから懐中時計とスケジュール帳を取り出した。

「アルカンジェロさま。今日のスケジュールは……」
「昨日確認したよね? 兄さん」
「はい。ですが、実は本日、少々変更となりました。午後、陛下がこちらにお越しになられます」
「えっ? 女王陛下がお越しに? 大丈夫なのかな?」

 伯母である前に女王である。
 護衛や警備は最高レベルのはずである。
 急にこちらにくるなど、何があったのだろう?

「私には分かりませんが……」

と告げ、

「旦那さまが、アルカンジェロさまとルーチェさまに毒を盛った者がいると、お伝えしたそうでございます。女王陛下はご心配になられ、時間をお作りになられたと伺っております」
「陛下にご心配をおかけしたんだね……元気ですってお伝えするね」

ルーチェは食事を終え、前足で顔を洗いながら、



 うなぅ!

(ごちしょうしゃまれした!)



と挨拶をしたのだった。



 午前中は歴史学と帝王学を学びながら、現在の妖精界の状況を詳しく聞いていく。

「そうなのですね。先生。では、詳しく教えていただけませんか?」
「えぇ。アルカンジェロさまはとても勉強熱心で、私どもは嬉しいです。女王陛下やエマヌエーレさまも、アルカンジェロさまをとても自慢に思っておられるでしょう」
「まだまだです。もっと勉強したいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」



 妖精界はいくつかに分かれている。

 ハイエルフと呼ばれる人間に姿がよく似た、美しい男女の姿をとる妖精の住む国。
 シルフとも呼ばれる花の妖精などの小さな存在の住む国。
 ドワーフと言った大地に住まう働きものの国。
 そして、アルカンジェロたちのように動物たちの姿を借りた妖精族の住む国。

 他の妖精族たちに比べ、劣るとバカにされているが、実際ハイエルフたちは気位が高く、逆にシルフたちは美しい装い以外は興味がなく、ドワーフたちは気難しい。
 精霊の住む国もある。
 ノームは学者として時に学問を授けてくれるが、ニュンフェは気まぐれで水に突き落とし面白がり、トカゲの姿をしたサラマンダーはすぐに機嫌を損ね、炎を吐いてくる。

 女王はいかに魔力が炎を操るとは言え、王として国を守るために苦心している。
 叔父である黒紫大公ベンヴェヌートは、その伯母を支えることなく遊びほうける。

 アルカンジェロは悩む伯母や父たちを見てきたので、早く成人したいと思っていた。
 それは、短い少年期を奪うことになると女王アダルジーザは胸が痛かった。



 アダルジーザは、先代国王に子供がおらず、急死したこともあり王位に就いた。
 だが、ある程度歳を重ねていたことと、弟妹が幼かったこと、父の先代大公がもし自分が王位に就いてもさほどせず王位を譲ることになる……またそれが国の混乱を招くと言う説明もあったため納得していた。
 本当は結婚するのだから自分の子供に王位をとも思っていたが、夫はアレであり、アレに権力を渡すと国が滅ぶだろう……死ぬまで王として生きるのだと諦めていた。

 しかし、生まれた甥が賢く優しく、国や伯母であるアダルジーザを思ってくれること、日々賢者や学者に教えを乞う姿に、胸が熱くなった。
 この子にならきっと先代国王や、歴代も認めてくれるだろうと。



「お邪魔するわね! ドミツィアーノ、アンナマリア」

 シンプルだが光沢のあるドレスを身につけた女王は、微笑みながら馬車から降り立った。
 玄関で出迎えたのは青銀大公夫妻とその長男アルカンジェロ。
 家令とアルカンジェロの執事見習いのウリッセも後ろに控えている。

「お久しぶりでございます。陛下」
「……あぁ、嫌だわ。元々、ここは私の家だったのよ? いないことにするつもり? ドミィとアン?」

 嫌そうに鼻の上にシワを寄せる姉王に、ドミツィアーノは苦笑する。

「アディ姉上。一応、表向きは王と臣下です。屋敷の中でしたら……」
「……そうね。じゃぁ、とっとと案内して頂戴。あ、そうだわ。アルカンジェロ?」
「はい! お久しぶりでございます」
「返事がいいわね」

 アダルジーザは愛おしそうに甥の頭を撫でる。

「そうそう。アルカンジェロ。後で三人にプレゼントを渡すわね? 楽しみにして頂戴」
「姉上? また何を……」
「フフフッ、頑張っている甥と姪にあげられるものよ。とっても高いわけじゃないわ」
「そんなふうに言うから黒紫大公が……」
「あら? またあの口先男が言ってきたの? 私に教えなさい。アイツを徹底的に潰すから」

 手にした扇を広げ、ニヤッと目を細める。

「姉上……」

 まるでチェシャ猫のようだと、ため息をついたドミツィアーノは姉を屋敷の奥に案内するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...