【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第ニ章

day.43

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次の日。
まだ午前中なのに、クラクラするくらい強い日射しの中、バイト先に向かう。
今日は研修を受ける予定だ。
俺はウェイターとして働くこととなり、あの大林さんが、俺の指導係として面倒を見てくれることになった。

このホテルの理念等、最初に基礎知識を叩き込まれた。
挨拶の仕方とかは、前に周さんに教えてもらったことがあるため、なんとかなりそうだ。
これから、実際に大林さんを相手に実演することになった。

「じゃあ、オレを客だと思って、接客してみな。」

「はい!」

大林さんは入口の扉に向かい、スタスタとこちらに向かって歩いてくる。

「いらっしゃいませ~!」

「ストップ。」

速攻で止められてしまった。
どうやら、最初からミスったらしい。

「瀧本、ここはホテルだ。お前の接客は、居酒屋スタイルだ。もっと落ち着いてやってみろ。」

「わかりました。」

もう一度、やり直す。
それでもダメで、何度もやり直しをさせられる。

「いらっしゃいませ~。」

「ストップ!」

少しイライラした感じで、ズンズンと大股で近づいてきた。

「その語尾伸ばすのやめろ!さっきオレがやってみせたのを真似してこれか?これぐらいのこと、ちょっと意識すればできるだろうが!さては、お前やる気ねぇな?」

「そんなことないです!」

決して、やる気がないわけではない。
ずっと居酒屋バイトをしていたから、癖になったんだと思う。
それを突然直せと言われても、難しい。
チッと舌打ちして、ガシガシと頭を掻いた後、軽く睨まれた。

「もういい。次だ次!」

次は、ホールの研修だった。
食品サンプルが乗った真っ白なお皿とワイングラスを、お盆で運んでいく。

「お待たせいたしました!」

ガチャンと大きな音を鳴らしながら、ドンッと机に置いていく。
その光景を、目が点になって見ていたかと思ったら、ものすごく頭を抱えられてしまった。

「…………これもオレが手本を見せてやるから、しっかり真似てみろ。あと、口調がいちいち居酒屋スタイルになんの、いい加減やめてくれ。」

手本を見せてくれた大林さんの所作は、そのガタイの良さからは想像できないくらい、とても繊細なものだった。
お皿はほんの僅かにカチャと鳴くぐらいで、静かに机に並べられていく。

「こんな感じでやってみろ。」

それから何度も挑戦するが、どうしてもガチャガチャと音が鳴ってしまう。
あまりの壊滅的センスに、大林さんもお手上げのようだった。

「おはようございます~。あら、純也!研修はどう?上手くいってる?」

今からシフトなのか、川崎先輩が颯爽と出勤してきた。
俺を見つけて、ひらひらと手を振ってくれた。

「おい、川崎!お前が連れてきたこのもやし、全っ然使いもんにならねぇじゃねぇか!!」

川崎先輩を見つけた大林さんは、ビシッと俺を指差して、文句をまくし立てた。

「挨拶から1つ1つの所作まで、何1つできやしねぇ!こんなポンコツ、初めてだ!!」

俺、そんなにできてなかったんだ!
ガーンとショックを受けるが、確かに、どれもちゃんとできた感触はない。

俺、ここでやっていくの、ムリかもしれない………。

しゅんと落ち込んでしまいそうになるが、ここで折れたらダメだと、自分に言い聞かせる。

「あら?そんな、1日や2日で身に付くわけ無いじゃない。これだから、短気は嫌ねぇ。」

「お前っ…!自分が世話係じゃねーから、んなことが言えんだよ!こんな物覚えの悪ぃ奴、どうやって教えればいいんだよ!あ゙あ゙っ!?」

「根気強く教えてあげなさいよ!それが先輩の仕事でしょ!?」

この2人は犬猿の仲なのだろうか。
顔を合わせては、ケンカをしている気がする。
バチバチしている2人ところに、タイミング良く、この店の責任者である、マネージャーの前田さんがやってきた。

「大林くん、瀧本くんはどうだい?おや、川崎くん、おはよう。」

のほほんとしたその雰囲気のおかげで、一気に場が和んでいく。

「マネージャー、瀧本にはまだ引き続き研修が必要だと思います。」

大林さんはそう進言してくれたが、前田さんは少し困った顔をした。

「そうかい……。う~ん、本当はそうしてあげたいんだけど………実は1人病欠が出てしまって。悪いけど、今日から出てもらうことになったから。僕もフォローするから、よろしくね。」

「なっ……!?」

う、嘘だろ!?
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