【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第ニ章

day.53

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2人を追いかけて入った先は、普段の冬悟からは考えられない、ガヤガヤとした安くて旨そうな、至って普通の居酒屋だった。
冬悟って、こういうところにも入るんだ。
初めて知った。

だけど、俺も気軽に入れる店だから、ラッキーだ。
2人が入った後に俺も入店し、席は近いけど、冬悟達からは見えないところに座る。

通り過ぎる際に、ちらっとだけ相手を見た。はっきりとは見えなかったが、相手の男は、グレーのスーツを着て、外国人とのハーフのような顔立ちをした、爽やかイケメン系だった。

顔面偏差値高過ぎだろ、クソが。

内心で悪態をつきながら、もしかして、冬悟のタイプって、本当はこういう人なのか?とモヤモヤする。

俺、冬悟のこと、何も知らないのかも―。

実は、冬悟の好みなんて、皆目見当がつかない。
正直言ってしまえば、どうして俺を好きなのかも、わからない。
だから時々、本当に俺を好きなのか、すごく不安になってしまうんだ。

………こんな馬鹿みたいなことを、してしまうくらいには。

注文を済ませて、必死に聴き耳を立てていると、2人の会話が途切れ途切れに聴こえてきた。

「………結婚したって?………」

「いや……違う………」

ここからだと、どうしても断片的にだけしかわからない。
だけど、やっぱり、俺と結婚していることは、隠しているみたいだ。

料理が運ばれてきたが、食べることよりも、全神経を耳に集中させる。
暫くは、他愛もない話をしていた感じで、内容はあまりよくわからなかった。

時間だけが経っていき、そのまま何事もなく終わりそうな雰囲気となり、ほっとしていたのも束の間、とうとう決定的な単語を聞き取ってしまった。

「………俺と…付き合って………」

えっ!?
え~~~~~~!?
まさかの、こ、こ、こ、告白!!??
で、冬悟の返事は……

「……別に構わんが………」

……………………。

ギュッと唇を噛んで、俯く。
胸が、ズキズキと痛みだしていく。
涙が零れてしまわないように、必死で堪えた。

だから、冬悟の様子がおかしかったのか。
あの切ない瞳は、俺と別れるつもりだったんだ。

冬悟の気持ちは、もう俺にはなかったんだ―。

「ハハッ…。」

全然気付かなかった。
そんな馬鹿な自分に笑けてくる。

「……これから…俺…ホテルで……」

「………わかった。……あとで…」

続けて、そんな言葉も聞こえてきた。
これ以上はもう耐えられなくて、顔が見られないようにしながら、店を飛び出した。

「はあっ、はあっ……。」

ショック過ぎて、動揺を抑えきれず、息が上手くできない。
これから、冬悟はあの人を抱くのか?
想像するだけで、胸が苦しくなり、グッと押さえる。

俺だけの、冬悟だったのに―。

俺と冬悟の生活の場が違うのは、どうしようもないことだし、正直、俺達は互いにバレないように不倫するなんて……本当に容易いことだったんだ。

だけど、バレたらアウトだから。

悲しみが、沸々と怒りに変わっていく。

大好きだったのに―。

「………絶対許さねぇから。」

帰ってきたら、問い詰めてやる。
そう心に決めて、まだまだ騒がしい夜の街を、静かに1人歩いて帰った。




夜もすっかり更けた頃。
ガチャと玄関の扉が開き、冬悟が帰ってきた。
いつもなら出迎えに行くが、今日は絶対にいってやらねぇ。

「…まだ起きていたのか?」

顔を出さなかったからか、冬悟はもう俺は寝ていると思っていたようだ。
だが、もう既に怒りの沸点が限界だった俺は、無言でスタスタと近づくと、帰ってきたばかりの冬悟の胸倉を、ガッと掴んだ。

「おい、テメェ!何不倫してんだよ!!」

「…何の話だ?」

突然の襲撃に、驚いたように目を見開いた冬悟を、鋭く睨みつける。

「とぼけんなよ!!ちゃんとこの目で見たんだからな!テメェが、他の男と抱き合ってるのを!!」

はあっと溜息を吐いた冬悟は、呆れた視線を寄越してきた。

「…あんな時間まで、あの辺をウロウロしていたのか。勘違いしているようだが、あれはただの友人だ。」

「嘘つけ!!」

冬悟が誰かと抱き合うなんて、“特別な人”以外に考えられない。
ギリッと下唇を噛み締め、冬悟の胸倉を掴む手にはより力が込められる。

「…嘘など吐いていない。それより、いい加減離せ。」

胸倉を掴んでいた手首に、そっと冬悟の手が触れた。
その瞬間、バシッと払い除ける。

俺以外のヤツに触れたその手で、平然と触れてくるのが許せなかった。

「触んな。」

凄むように唸ると、何故か冬悟は傷付いたような表情を見せた。
正直、冬悟のそんな顔は見たことがなくて、内心で困惑してしまう。

だけど、この怒りは収まらない。

「不倫なんて許さねぇから。なぁ、いつからだよ?アンタの様子がおかしかったのも、俺と離婚したかったからなんだろ!?」

「………俺はお前に、信じてすらももらえないのか。」

冬悟が何かボソッと呟いたが、上手く聞き取れなかった。

「何だよ?」

「…離婚したいのは、お前の方なんじゃないのか?」

「は?」

静かに呟かれたその問いかけに、言葉を失った。

冬悟は一体何を言い出すんだ?
どうして、俺が?

突然の俺へのカウンターに、今度は俺が驚く番になった。
頭の理解が全く追いつかず、ぽかんとしてしまう。

俯いた冬悟がもう一度顔を上げると、出会った当初のような冷たい瞳になっており、それを見た瞬間、俺の心が凍りついた。

どうして、そんな目で俺を見るんだ……?

無意識に、カタカタと身体が震えだす。

「………もう、お前には俺が必要ないようだな。心がここにないのは、お前の方だ、純也。」

事実無根の勘違いに、何とか反撃しようと口を開くも、震えた唇では、上手く言葉を発せられない。

「ちが、何?俺は…っ!」

「もういい。」

俺のことを拒絶したその瞳で睨まれ、俺の心は絶望に蝕まれていく。

「ちょっ、何訳わかんねぇこと言ってんだよ!待てって!」

スタスタと横を通り過ぎていく冬悟を、引き止めようと腕を掴んだが、バッと振り払われてしまった。
今まで冬悟に拒否されたことなんてなかったから、驚きのあまり、一瞬で頭が真っ白になった。
振り払われた手だけが、虚しく空に残されている。

「…今日から自分の部屋で寝ろ。」

俺に一瞥をくれることもなく、バタンと乱暴な音を立てて、冬悟の部屋の扉は閉まった。

一体、何が起こったんだ………?

状況が全く飲み込めず、ただただ、その場で呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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