【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第三章

day.59

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1日が過ぎていくのは一瞬で、あっという間にバイト最終日になった。

バイト先の更衣室で、今日でこの生活も、俺の夏休みも終わっていくのかとしんみりしていたら、背後から誰かに話しかけられた。

「あら、純也!おはよう。どうしたの?哀愁なんか感じちゃって。」

「川崎先輩!おはようございます。いえ、今日で終わっちゃうんだなって思って……。」

そう言うと、目をぱちくりと瞬いた川崎先輩は、アハハッと大きな声を上げて、笑い始めた。

「やだぁ!もう、純也ったら!寂しくなったら、いつでも来たらいいのよぉ!!ずっと会えなくなるわけじゃないんだから!」

明るく笑う川崎先輩につられて、何となく沈んでいた俺の心も、次第に明るくなっていく。

「そっか。そうですよね!」

「そうよぉ!だって、アタシ達、今までだって、バイト先が変わっても、何度も会ってきたでしょ?それに、まだ今日が残ってるじゃない!」

そう言って、軽くウインクをした川崎先輩に、俺も笑顔で頷いた。

「じゃあ、今日もよろしくお願いします!」

「うふふ、その意気よ。そういえば、結局、彼氏は呼ばなかったの?」

一瞬ギクッとしたが、嘘を吐いても仕方がないため、観念して頷く。

「はい……。」

「あらそう……残念ね。ここ最近のアナタの大成長を、見せてあげられないのね……。でも、お仕事とかなら仕方がないものね。……わかったわ、純也、今日はアタシがアナタの成長を、しっかり見ててあげるわ!」

今はもう、冬悟に来てもらうつもりはなかったから、全然残念じゃない。
それに、あんまり見られると緊張するから、本当はいつも通りでいて欲しいけど、川崎先輩の好意を無碍にするわけにもいかず、苦笑いしながら、お願いしますと答えた。

川崎先輩と楽しく喋っていると、コンコンッと強めにドアをノックする音が聞こえてきた。

「おい、そこの2人。いつまでくっちゃべってんだ。そろそろ時間だぞ。」

ドアに寄りかかりながら、こちらを見ていた大林さんに、2人同時に振り向く。

「大林さん!」

「あら、大林。呼びに来てくれたの?たまには気が利くじゃない!」

「なかなか来ねぇから、仕方なくに決まってんだろ。」

大林さんがシラけていることなんて、川崎先輩には全然気にならないようだった。

「そんなこと言っちゃって~!さぁ、行きましょ、純也!」

そのまま、颯爽と更衣室を出て行った川崎先輩を見送った後、大林さんの元へ駆け寄る。

「今日も1日、よろしくお願いします!」

「おう。」

大林さんは、いつも通り軽く返事をし、くるりと背を向けて、歩き出した。

こうして、最終日のバイトが幕を開けた―。




今日も相変わらず忙しいが、今までに比べると、少し落ち着いている気がする。
順調に仕事をこなしていると、突然、大林さんに呼ばれた。

「瀧本!ちょっとこっちに来てくれ!」

「はい!」

スタスタと早歩きで向かうと、怪訝そうな顔をした大林さんが待ち構えていた。

「どうかしたんですか?」

「瀧本、お前に指名が入った。」

「えっ??」

指名?
しかも、俺に??

どれだけ考えても、俺に接客して欲しいと言ってくれそうなお客さんは、今までにはいなかった。
迷惑をかけて、担当を変えてくれとクレームが来たことは何回かあったけど、またお願いねとは、一度も言われたことなんてない。

一体誰が―?

俺が驚いているのと同じように、大林さんも驚いていたようだ。
珍しく困惑している大林さんは、マネージャーに相談か?いや、でもなどと、1人で何かを呟いた後、ガシガシと頭を掻いて、漸く意を決したように、こちらをしっかりと見た。

「いいか、瀧本。お前を指名してくれた方は、VIPなお客様だ。お前は知らないかもしれないが、かなり有名な人だから、失礼のないようにな。絶対に粗相はするなよ。」

真剣な眼差しで釘を差された俺は、ゴクッと息を呑んだ。
そんなスゴい人が、どうして俺なんかを指名したんだろう。
緊張から、手に汗が滲んでいく。

「俺、不安しかないです……。」

最近は大きなミスはしなくなったとはいえ、絶対に失敗できないのは、やっぱり怖い。
狼狽える俺に、まさかの同意をするように、大林さんは大きく頷いた。

「残念だが、オレもだ。だがまぁ、心配しても、どうしようもないしな。堂々とやってこい。もし、失敗したら、一緒に謝ってやるから。ほら、行って来い。お客様があちらでお待ちだ。」

あの大林さんが、もう投げやりになっている……。
大林さんをも不安にさせるような俺なのに、ちゃんとやりきれるのか……?

より不安が増強してしまったが、これ以上待たせることもできないため、大きく深呼吸をした後、少し目を伏せながら、ゆっくりと角のテーブルへと向かっていった。

近づけば近付く程、他を寄せ付けないオーラを感じ、胸が失敗できない恐怖で押し潰されそうになる。

それでも、行くしかない。

ふうっと息を吐いて、目線を上げる。

「大変お待たせいたしまし……と、冬悟!!??」

視界に飛び込んできた人物に驚愕し、みるみると目が見開かれていく。

俺を指名した人物は、なんと冬悟だったのだ。
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