【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第三章

day.60

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目の前で、スーツを着て、すごい姿勢よく座っている人物に、一瞬で釘付けになる。

「冬悟……?何でここに??」

冬悟は俺に気付いた途端、雰囲気が柔らかくなり、フッと微笑んでくれた。

「…偶々ここの近くで仕事があったから、ついでにお前の働いている姿を見に来たのだが………嫌だったか?」

自分でも驚いたけど、全然落ち着いている。
以前までの俺なら、失敗したら、冬悟に嫌われると思っていたから、もうこの時点で緊張しまくっていただろう。
だけど、今なら、他のどんなお客さんよりも、冬悟の方が安心できる。

だって、失敗したって、絶対に許してくれるって、わかっているから。

それに、偶々なんてウソだって知ってる。
以前、俺にバイト最終日を確認したのは、来てくれるためだったんだ。

覚えていてくれて、嬉しい―。

だから、その質問には、ふるふると首を横に振った。

「嫌じゃねぇよ。来てくれてありがとう。」

ニッと笑うと、冬悟の目が、嬉しそうに細められていく。

「…それなら、よかった。」

「冬悟、遅れてごめん!あぁ、純也さん!また会えたね!」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには陽介さんがいた。眩しいくらいの笑顔で、軽く手を振ってくれる。
冬悟は今日、1人なのかと思っていたが、そうではなかったようだ。

「いらっしゃいませ。陽介さん、お久しぶりです。」

軽く会釈をし、座りやすいように椅子を引いた。

「ありがとう!今日はよろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。では、お客様。ご注文をお伺いいたしますね。」

ニコッと営業スマイルをし、オーダーを取ろうとすると、冬悟は俺のために、わざわざメニューを広げて、指差しして注文してくれた。

メモを取りながら、ちらっと冬悟の横顔を盗み見る。
家で一緒にいる時とは違い、ちょっとお堅めな冬悟も、カッコいい。

だけど本当は、さっき俺を認識した途端、冬悟の雰囲気が柔らかくなったことが、嬉しかった。
自分が特別なんだと言われているようで、優越感を感じてしまった。

だが、イケメンが2人も揃ってしまったせいか、周りのお客さんも、チラチラとこちらを見ている。

どっちを見ているのかはわからないが、冬悟が見られていると思うと、心がモヤモヤする。

誰にも見られたくない。
俺の冬悟なのに―。

「………以上だ。」

その言葉にハッとして、今は仕事中だということを思い出した。
ちゃんと仕事しなきゃ。

「ご注文を繰り」

「返してる場合じゃないよ!奥ゆかしきジャパニーズカルチャーに、そんな距離感があるなんて、聞いたことないよ!」

「へっ?」

陽介さんが冬悟のいる方向を指差して、何故か焦っているので、隣をパッと見ると、冬悟の顔がすぐ近くにあった。
至近距離で目が合って、ドキッと心臓が跳ねる。
冬悟も俺の方を見て驚いた後、頭を抱えた。

「うわぁ!ご、ごめん!!」

「…いや、いい。俺もお前相手だと、距離感がバグってしまっているようだ。」

無意識に、肩が触れ合うぐらいまで、近づいてしまっていたようだ。
こんなの、従業員と客の距離じゃない。

やってしまった!!

恥ずかしくて、すぐに離れようとするも、グッと腕を掴まれ、その場から動けない。

「と、冬悟?」

トンッと顔の前にメニューを立てて置かれ、冬悟以外見えなくなる。
困惑して隣を見るも、冬悟は何でもないような顔をして、スッと俺の手からメモを取った。
ザッと素早く内容を確認すると、ちらっとこちらに視線を寄越し、ある部分を指差した。

「…お前、人があれだけ丁寧に注文してやったのに、間違えるとはどういうことだ?」

「えっ?マジ!?どこ?」

呆れた視線を浴びながら、指先のメモを覗き込む。

「…………ごめん、これ何だっけ?」

「…まったく、お前は一体どこを見ていたんだ?」

まさか冬悟を見ていたなんて言えるわけもなく、誤魔化すようにえへへっと笑うと、はあっと小さく溜息を吐かれた。
だけど、それ以上は特に何も言わず、自身が持っていたペンで、サラッと書き直してくれる。

「ありがと。」

「…今までのお前の失敗の数々が、目に浮かんできそうだ。」

「んなっ!?あいにく、注文間違いは初めてだっつーの!」

「…そんなくだらんことで威張るんじゃない。ほら、とっととオーダーを持っていけ。」

「はぁい。」

スタスタと俺が厨房に戻っていった後、陽介さんは堪えていた笑いを吹き出した。

「ぶっ…くくくっ……まさか、後ろの壁と窓とメニュー表で、照れた妻の顔を外部から完全にブロックするなんて……ププッ。」

「…何か問題があったのか?」

「いや?だけど、オーダーを間違えられたことを喜んでいるのは、流石に僕でも理解できないかな。」

「…理解らなくていい。」

2人のそんな会話は、もちろん、俺の耳には届かなかった。
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