61 / 72
第三章
day.60
しおりを挟む
目の前で、スーツを着て、すごい姿勢よく座っている人物に、一瞬で釘付けになる。
「冬悟……?何でここに??」
冬悟は俺に気付いた途端、雰囲気が柔らかくなり、フッと微笑んでくれた。
「…偶々ここの近くで仕事があったから、ついでにお前の働いている姿を見に来たのだが………嫌だったか?」
自分でも驚いたけど、全然落ち着いている。
以前までの俺なら、失敗したら、冬悟に嫌われると思っていたから、もうこの時点で緊張しまくっていただろう。
だけど、今なら、他のどんなお客さんよりも、冬悟の方が安心できる。
だって、失敗したって、絶対に許してくれるって、わかっているから。
それに、偶々なんてウソだって知ってる。
以前、俺にバイト最終日を確認したのは、来てくれるためだったんだ。
覚えていてくれて、嬉しい―。
だから、その質問には、ふるふると首を横に振った。
「嫌じゃねぇよ。来てくれてありがとう。」
ニッと笑うと、冬悟の目が、嬉しそうに細められていく。
「…それなら、よかった。」
「冬悟、遅れてごめん!あぁ、純也さん!また会えたね!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには陽介さんがいた。眩しいくらいの笑顔で、軽く手を振ってくれる。
冬悟は今日、1人なのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
「いらっしゃいませ。陽介さん、お久しぶりです。」
軽く会釈をし、座りやすいように椅子を引いた。
「ありがとう!今日はよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、お客様。ご注文をお伺いいたしますね。」
ニコッと営業スマイルをし、オーダーを取ろうとすると、冬悟は俺のために、わざわざメニューを広げて、指差しして注文してくれた。
メモを取りながら、ちらっと冬悟の横顔を盗み見る。
家で一緒にいる時とは違い、ちょっとお堅めな冬悟も、カッコいい。
だけど本当は、さっき俺を認識した途端、冬悟の雰囲気が柔らかくなったことが、嬉しかった。
自分が特別なんだと言われているようで、優越感を感じてしまった。
だが、イケメンが2人も揃ってしまったせいか、周りのお客さんも、チラチラとこちらを見ている。
どっちを見ているのかはわからないが、冬悟が見られていると思うと、心がモヤモヤする。
誰にも見られたくない。
俺の冬悟なのに―。
「………以上だ。」
その言葉にハッとして、今は仕事中だということを思い出した。
ちゃんと仕事しなきゃ。
「ご注文を繰り」
「返してる場合じゃないよ!奥ゆかしきジャパニーズカルチャーに、そんな距離感があるなんて、聞いたことないよ!」
「へっ?」
陽介さんが冬悟のいる方向を指差して、何故か焦っているので、隣をパッと見ると、冬悟の顔がすぐ近くにあった。
至近距離で目が合って、ドキッと心臓が跳ねる。
冬悟も俺の方を見て驚いた後、頭を抱えた。
「うわぁ!ご、ごめん!!」
「…いや、いい。俺もお前相手だと、距離感がバグってしまっているようだ。」
無意識に、肩が触れ合うぐらいまで、近づいてしまっていたようだ。
こんなの、従業員と客の距離じゃない。
やってしまった!!
恥ずかしくて、すぐに離れようとするも、グッと腕を掴まれ、その場から動けない。
「と、冬悟?」
トンッと顔の前にメニューを立てて置かれ、冬悟以外見えなくなる。
困惑して隣を見るも、冬悟は何でもないような顔をして、スッと俺の手からメモを取った。
ザッと素早く内容を確認すると、ちらっとこちらに視線を寄越し、ある部分を指差した。
「…お前、人があれだけ丁寧に注文してやったのに、間違えるとはどういうことだ?」
「えっ?マジ!?どこ?」
呆れた視線を浴びながら、指先のメモを覗き込む。
「…………ごめん、これ何だっけ?」
「…まったく、お前は一体どこを見ていたんだ?」
まさか冬悟を見ていたなんて言えるわけもなく、誤魔化すようにえへへっと笑うと、はあっと小さく溜息を吐かれた。
だけど、それ以上は特に何も言わず、自身が持っていたペンで、サラッと書き直してくれる。
「ありがと。」
「…今までのお前の失敗の数々が、目に浮かんできそうだ。」
「んなっ!?あいにく、注文間違いは初めてだっつーの!」
「…そんなくだらんことで威張るんじゃない。ほら、とっととオーダーを持っていけ。」
「はぁい。」
スタスタと俺が厨房に戻っていった後、陽介さんは堪えていた笑いを吹き出した。
「ぶっ…くくくっ……まさか、後ろの壁と窓とメニュー表で、照れた妻の顔を外部から完全にブロックするなんて……ププッ。」
「…何か問題があったのか?」
「いや?だけど、オーダーを間違えられたことを喜んでいるのは、流石に僕でも理解できないかな。」
「…理解らなくていい。」
2人のそんな会話は、もちろん、俺の耳には届かなかった。
「冬悟……?何でここに??」
冬悟は俺に気付いた途端、雰囲気が柔らかくなり、フッと微笑んでくれた。
「…偶々ここの近くで仕事があったから、ついでにお前の働いている姿を見に来たのだが………嫌だったか?」
自分でも驚いたけど、全然落ち着いている。
以前までの俺なら、失敗したら、冬悟に嫌われると思っていたから、もうこの時点で緊張しまくっていただろう。
だけど、今なら、他のどんなお客さんよりも、冬悟の方が安心できる。
だって、失敗したって、絶対に許してくれるって、わかっているから。
それに、偶々なんてウソだって知ってる。
以前、俺にバイト最終日を確認したのは、来てくれるためだったんだ。
覚えていてくれて、嬉しい―。
だから、その質問には、ふるふると首を横に振った。
「嫌じゃねぇよ。来てくれてありがとう。」
ニッと笑うと、冬悟の目が、嬉しそうに細められていく。
「…それなら、よかった。」
「冬悟、遅れてごめん!あぁ、純也さん!また会えたね!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには陽介さんがいた。眩しいくらいの笑顔で、軽く手を振ってくれる。
冬悟は今日、1人なのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
「いらっしゃいませ。陽介さん、お久しぶりです。」
軽く会釈をし、座りやすいように椅子を引いた。
「ありがとう!今日はよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、お客様。ご注文をお伺いいたしますね。」
ニコッと営業スマイルをし、オーダーを取ろうとすると、冬悟は俺のために、わざわざメニューを広げて、指差しして注文してくれた。
メモを取りながら、ちらっと冬悟の横顔を盗み見る。
家で一緒にいる時とは違い、ちょっとお堅めな冬悟も、カッコいい。
だけど本当は、さっき俺を認識した途端、冬悟の雰囲気が柔らかくなったことが、嬉しかった。
自分が特別なんだと言われているようで、優越感を感じてしまった。
だが、イケメンが2人も揃ってしまったせいか、周りのお客さんも、チラチラとこちらを見ている。
どっちを見ているのかはわからないが、冬悟が見られていると思うと、心がモヤモヤする。
誰にも見られたくない。
俺の冬悟なのに―。
「………以上だ。」
その言葉にハッとして、今は仕事中だということを思い出した。
ちゃんと仕事しなきゃ。
「ご注文を繰り」
「返してる場合じゃないよ!奥ゆかしきジャパニーズカルチャーに、そんな距離感があるなんて、聞いたことないよ!」
「へっ?」
陽介さんが冬悟のいる方向を指差して、何故か焦っているので、隣をパッと見ると、冬悟の顔がすぐ近くにあった。
至近距離で目が合って、ドキッと心臓が跳ねる。
冬悟も俺の方を見て驚いた後、頭を抱えた。
「うわぁ!ご、ごめん!!」
「…いや、いい。俺もお前相手だと、距離感がバグってしまっているようだ。」
無意識に、肩が触れ合うぐらいまで、近づいてしまっていたようだ。
こんなの、従業員と客の距離じゃない。
やってしまった!!
恥ずかしくて、すぐに離れようとするも、グッと腕を掴まれ、その場から動けない。
「と、冬悟?」
トンッと顔の前にメニューを立てて置かれ、冬悟以外見えなくなる。
困惑して隣を見るも、冬悟は何でもないような顔をして、スッと俺の手からメモを取った。
ザッと素早く内容を確認すると、ちらっとこちらに視線を寄越し、ある部分を指差した。
「…お前、人があれだけ丁寧に注文してやったのに、間違えるとはどういうことだ?」
「えっ?マジ!?どこ?」
呆れた視線を浴びながら、指先のメモを覗き込む。
「…………ごめん、これ何だっけ?」
「…まったく、お前は一体どこを見ていたんだ?」
まさか冬悟を見ていたなんて言えるわけもなく、誤魔化すようにえへへっと笑うと、はあっと小さく溜息を吐かれた。
だけど、それ以上は特に何も言わず、自身が持っていたペンで、サラッと書き直してくれる。
「ありがと。」
「…今までのお前の失敗の数々が、目に浮かんできそうだ。」
「んなっ!?あいにく、注文間違いは初めてだっつーの!」
「…そんなくだらんことで威張るんじゃない。ほら、とっととオーダーを持っていけ。」
「はぁい。」
スタスタと俺が厨房に戻っていった後、陽介さんは堪えていた笑いを吹き出した。
「ぶっ…くくくっ……まさか、後ろの壁と窓とメニュー表で、照れた妻の顔を外部から完全にブロックするなんて……ププッ。」
「…何か問題があったのか?」
「いや?だけど、オーダーを間違えられたことを喜んでいるのは、流石に僕でも理解できないかな。」
「…理解らなくていい。」
2人のそんな会話は、もちろん、俺の耳には届かなかった。
7
あなたにおすすめの小説
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる