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第三章
day.70
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今夜は、窓から見える空には雲1つなく、都会の強い明かりに負けないよう光を放つ星達が、小さくもはっきりと輝いている。
そして、季節のせいもあり、外は肌寒いが、部屋の中は、暖房が効いていて暖かい。
くるりと、部屋全体を見回す。
すると、冬悟と出会ってからの思い出が、次々と色鮮やかに蘇ってきた。
引っ越してきたときは、あの部屋もあの部屋も、空っぽだったっけ。
今では、どの部屋も使われていて、空き部屋なんてない。
最初は生活感のなかったこの家は、今では2人のもので溢れている。
「…本当に、ここでよかったのか?」
感慨深く部屋を眺めていると、ふわっと背後から抱き締められた。
その優しい腕に、そっと手を添える。
「うん。だって、ここは俺達2人だけの、秘密の空間だからな!」
「他にも何人か知っていると思うが……。」
「それに……俺達の思い出が、どこよりもたっっくさん詰まってる。……だから、ここがいいんだ。」
振り向いてニッと笑うと、冬悟が額を、俺の額にこつっと合わせてきた。
「…わかった。なら、今から……俺達だけの結婚式をはじめよう。」
そう、今日は、俺達2人だけの、結婚式だ―。
結局、結婚式の2日前に指輪が出来上がり、ギリギリだったけど、この日を迎えることができた。
場所は、俺のリクエストで、自宅になった。
すっと背中から、冬悟の体温が遠ざかっていく。
いつもなら、冬悟が離れていく瞬間は、どこか寂しかった。
だけど、今は、それとは真逆で、ドキドキと胸が高鳴っていく。
いつものラフな格好で、勝手知ったる俺達の家の筈なのに。
どんどんと、緊張していく自分がいる。
一度別室に消えた冬悟が、ここに戻ってきた。
俺の冬用の白いカーディガンと、小さな箱を2つ、その手に携えて。
「…寒くなるかもしれないから、これを着ておけ。」
そう言うと、俺にふわっとその上着を掛けてくれた。
俺が風邪引かないように、わざわざ取ってきてくれたんだ。
この部屋、暖かいのに。
「うん!」
冬悟のこういう優しさが嬉しくて、へへっと笑い、それを着た後、冬悟に見て見て!と、その場でくるっと一回転する。
「タキシードっぽい?」
「…………………あぁ。」
全くそう思っていないことは、そう言った俺でもわかる。
カーディガンが、タキシードになるわけがない。
「おい、テキトーに返事してんじゃねぇぞ!」
「…お前がそう思いたいなら、別にいいんじゃないのか?」
うがーっ!と吠える俺に、冬悟がシラけた眼差しを寄越してきた。
そして、軽く咳払いをする。
「…さて、そろそろいいだろう。ではまず、俺から誓いの言葉を。……だが、その前に、少しだけ話を聞いてくれ。」
珍しく、少し緊張した面持ちの冬悟に、俺もまた緊張していく。
そして、スッと視線を逸らした冬悟は、俺と向き合うのをやめ、ゆっくりと窓に向かって歩き出した。
「…お前と出会ったあの日、俺はお前を実家と縁を切るためだけに、利用してやろうと思っていた。そして、その後は、離婚してやろうと。」
冬悟は窓の外を眺めながら、ぽつりぽつりと続ける。
「だが、お前と過ごす中で、真っ直ぐなその性格や、お前のその笑顔に、少しずつ惹かれていく自分がいた。ただ、当時はこの感情の、正体はわからなかったがな。」
目を閉じたその横顔は、遠い過去を懐かしんでいるように、すごく穏やかに見えた。
「だから本当は、出ていった俺を、お前が引き止めてくれたあの時、とても嬉しかった。お金や、権力、そしてこの家柄ではなく、俺自身を、必要としてもらえたことが、何より嬉しかった。」
だけど、冬悟は軽く俯き、その長い睫毛を伏せる。
「だが、1から夫夫として一緒に暮らしてみると、今度は俺の中に生まれた不安が、顔を覗かせるようになった。歳も、育ってきた環境も、何もかも違うお前とは、共通のものなど何1つ見当たらなかった。だからきっと、すぐにお前は俺に飽きるだろうと、いつも心のどこかで怯え……そして、諦めていた。」
「冬悟……。」
ずっと、そんな風に思ってたんだ。
ずっと一緒にいたのに、全然気付かなかった。
その切ない声色に、今すぐ駆け寄って、抱き締めたくなる。
だけど、冬悟は顔を上げると、その視線は窓から離れ、真っ直ぐに俺を捉えた。
その強い眼差しに、その場から動けなくなる。
「…しかし、お前はずっと、側で楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれた。どれだけ俺が不甲斐なくても、格好悪い時でも、いつでも。そして、ずっと、俺に好きだと伝え続けてくれた。何度も何度も、真っ直ぐに。だから、お前の“好き”は、信じることができた。」
今度はゆっくりと俺に向かって、近づいてきた。
冬悟も少し緊張しているのか、いつもより表情が固く、ほんの微かに震えているような気がした。
そんないつもと雰囲気の違う冬悟が一歩、また一歩と近づいてくる度に、俺の心臓の音が、大きくなっていく。
そして、目の前で立ち止まると、そっと俺の左手を取り、その甲に口付けた。
俺に触れたその手は、もう震えてなどいない。
その迷いのない、真っ直ぐな眼差しを向けられ、ピクッと指先が跳ねた。
「今ではもう、お前のいない人生など、考えられない。」
俺を見つめるその瞳には、優しさと甘さと、そして底が見えない程の深い愛情が宿っており、その中心に、はっきりと俺を映し出している。
「…俺のことを好きになって、ずっと好きでいてくれて、ありがとう。誰かに愛される幸せと、愛することの歓びを、教えてくれてありがとう。」
そして、今度は俺のその薬指に唇が落とされる。
その柔らかな感触に、もう胸の高鳴りが限界で、はち切れそうだ。
とうとう、その瞬間がやってきた。
「…病める時も、健やかなる時も、純也、お前を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓おう。……好きだ、純也。お前だけを、愛している。」
その言葉とともに、左手の薬指に、サイズのぴったり合った指輪が嵌められる。
その瞬間、すーっと一筋の温かな涙が零れ落ちた。
ずっとずっとずっと、聞きたかった言葉が、冬悟の口から直接聴けて、心が歓びで湧き上がり、嬉しさで身体が震える。
冬悟は行動で愛を示してくれるタイプだったから、俺のこと、ちゃんと好きだってことは、伝わってた。
だけど、心のどこかで、その言葉が貰えない不満が、ずっとあった。
でも今、冬悟から好きだって、愛してるって言ってもらえて、本当に、心の底から嬉しくて。
こんなにも、世界がきらきらと、眩しい光が煌めくように、輝いて見えることは、今までになかっただろう。
その言葉は、冬悟だけが使える、魔法だ。
俺の人生を輝かせてくれる、唯一無二の魔法―。
「………っ。」
俺もこの時に向けて、冬悟に伝えたいことをちゃんと考えていた。
なのに、幸せの涙は止まらず、震える唇のせいで、何も言葉が出てこない。
そんな俺を、冬悟は優しく抱き締めてくれた。
「…何も言わなくていい。」
そう言ってくれたが、どうしても、伝えたいことがある。
大丈夫だというように、ふるふると首を横に振って、滲んだ視界の中、冬悟を真っ直ぐ見つめる。
そして、言うことの聞かない唇から、なんとか声を絞り出した。
「お…っ……俺、冬悟に会うまでは、幸せになんかなれないって思ってた。お金がないせいで、母さんも、誰も、俺のことなんて、誰も見てくれなかった。それに、どれだけ体を繋げても、今まではみんな、お金はくれても、誰も愛してはくれなかった。だから、お金が愛なんだって、お金だけが全てだって、そう自分に言い聞かせてた。」
泣きながら話す俺の背を、冬悟が優しく擦ってくれる。
そして、嗚咽混じりで聞き取りにくい俺の話でも、いつものように、ちゃんと耳を傾けてくれていた。
そんな冬悟に、ちゃんと伝えたくて、涙を堪えるよう、ぐっと力を込める。
「もういいやって、人生諦めかけてた時に、冬悟に出会ったんだ。最初は最悪の結婚生活だったし、いろいろあったけど、冬悟だけは、俺のことをちゃんと見てくれた。愛そうとしてくれた。……愛してくれた!だから、俺にとって冬悟は、どん底の絶望から救い出してくれた、ヒーローなんだ。」
言葉を紡げば紡ぐ程、冬悟への想いが溢れていく。
「いつも俺に幸せをくれて、ありがとう。俺のこと、好きになって、ちゃんと愛してくれて、ありがとう…っ!」
考えてきた通りのことを、何一つ上手く話せなくて、それでもこの想いを届けたくて、俺からもぎゅっと冬悟に抱きついた。
「…っ……俺も、病める時も、健やかなる時も、冬悟を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓います…!冬悟、大好き…!俺も愛してる……っ!!」
そして、愛しい人のその唇に、自身の唇を合わせる。
幸せそうに目を細めた冬悟は、力強く俺の身体を支え、しっかりと受け止めてくれた。
少し長めに口付けた後、互いに名残惜しそうに、そっと離れる。
そして、もう一度目を合わせると、互いに笑い合った。
「俺も、冬悟に指輪嵌めたい。」
「…俺のはこれだ。」
冬悟から小さな箱を受け取った俺は、それを大事そうに開ける。
すると、俺の指に嵌っているものと同じデザインの、細身のシルバーリングが光っていた。
ちゃんと俺が、デザインした通りになってる!!
その綺麗な指輪を、慎重に手に取って、裏面を覗き込む。
するとそこには、俺の頭文字である“J”と、俺達が出会った日付が刻まれている。
ここまでは、俺のデザイン通りだ。
しかし、その文字の端に、キラリと光り輝く石が2つ、埋め込まれていた。
これは……?
1つは透明だが、周りの光を反射して、虹色に輝くダイヤモンド。
そして、もう1つは、情熱的に真っ赤に輝くルビーだ。
俺の指輪を外して、自身のも確認すると、冬悟の頭文字である“T”と同じ日付、そして、同じ石が埋め込まれていた。
「…それは、俺からお前への贈り物だ。ダイヤモンドは永遠の愛を。……お前の誕生石である、ルビーは純愛を。それぞれ象徴している。」
俺への贈り物って……。
こんなサプライズ、聞いてねぇよ!!!
漸く震えが止まってきていたのに、嬉しさのあまり、また勝手に身体が震え出してくる。
「…受け取ってくれるか?」
俺の表情を覗き込んでくる冬悟に、コクコクッと何度も頷く。
「こんなの、絶対に受け取るに決まってんだろ!」
冬悟といると、俺はいつも幸せだ。
だけど、今日は特別に、洪水のように襲ってくる幸せに溺れ、殺されそうになる。
泣きながら笑う俺に、満足そうに笑った冬悟は、もう一度、俺に指輪を嵌めてくれた。
「…お前の綺麗な指に、よく似合っている。」
そう言いながら、今度はその指輪に、口付けを落とす。
だけど、綺麗だと褒められたことに、照れてしまい、俺はそっと目を伏せた。
「冬悟の指は綺麗だけど、俺のは綺麗じゃねぇよ。」
「そんなことはない。」
間髪入れずに否定され、胸のドキドキが、より一層高鳴っていく。
「お前の髪も」
すると、冬悟が俺の髪に、ちゅっとキスをした。
「お前の目も」
そして、次は目尻に口付けられる。
「お前の鼻も、耳も、その愛らしい唇も、手も」
告げられていく部位全てに、順番にキスが落ちてきた。
「お前の全ては、どんな宝石よりも、この指輪よりも、綺麗だ。この世のどんなものも、お前の輝きには敵わない。」
突然のとんでも殺し文句に、カーッと顔が真っ赤に沸騰していく。
だけど、同時に、すっごく嬉しくて、もう一度ぎゅっと冬悟に抱きついた。
「嬉しい、ありがと…っ!」
今までなら、そう言われても、きっと“そんなことない”って、否定する自分がいた。
だけど、今は、それを自然に受け入れられる。
これも、冬悟が愛してくれたおかげだ。
ぐりぐりと頭を擦り寄せて甘えた後、冬悟の左手の薬指を、すーっと指でなぞっていく。
「冬悟、左手出して。」
すると、冬悟はスッと左手を差し出してくれた。
その手を取り、その長くて綺麗な指に、俺も先に口付ける。
自分のことを蔑ろにしてまでも、俺のことを気にかけてくれる冬悟のことは、俺がちゃんと気にかけて、大切にするから。
その想いを込めて、俺達の幸せを嵌めた。
その瞬間、お揃いの指輪が、キラッと輝いた気がした。
「冬悟、もう1回、あの言葉を言って?お願い!」
「…今日は特別だからな。純也、好きだ。愛してる……」
それを合図に、互いに引き寄せられるように顔を近づけ、唇と唇が僅かに触れ合う。
「2人で一緒に、幸せになろ。」
そして、そのまま、2つの影が重なった。
このキスは、今までのどんなキスよりも、俺達2人の繋がりを感じ、そして、神聖なものだった。
部屋の暖かな光と、満天の星空だけが、俺達を静かに祝福してくれた。
先程小さかった星達は、一際大きな輝きを放っていた―。
そして、季節のせいもあり、外は肌寒いが、部屋の中は、暖房が効いていて暖かい。
くるりと、部屋全体を見回す。
すると、冬悟と出会ってからの思い出が、次々と色鮮やかに蘇ってきた。
引っ越してきたときは、あの部屋もあの部屋も、空っぽだったっけ。
今では、どの部屋も使われていて、空き部屋なんてない。
最初は生活感のなかったこの家は、今では2人のもので溢れている。
「…本当に、ここでよかったのか?」
感慨深く部屋を眺めていると、ふわっと背後から抱き締められた。
その優しい腕に、そっと手を添える。
「うん。だって、ここは俺達2人だけの、秘密の空間だからな!」
「他にも何人か知っていると思うが……。」
「それに……俺達の思い出が、どこよりもたっっくさん詰まってる。……だから、ここがいいんだ。」
振り向いてニッと笑うと、冬悟が額を、俺の額にこつっと合わせてきた。
「…わかった。なら、今から……俺達だけの結婚式をはじめよう。」
そう、今日は、俺達2人だけの、結婚式だ―。
結局、結婚式の2日前に指輪が出来上がり、ギリギリだったけど、この日を迎えることができた。
場所は、俺のリクエストで、自宅になった。
すっと背中から、冬悟の体温が遠ざかっていく。
いつもなら、冬悟が離れていく瞬間は、どこか寂しかった。
だけど、今は、それとは真逆で、ドキドキと胸が高鳴っていく。
いつものラフな格好で、勝手知ったる俺達の家の筈なのに。
どんどんと、緊張していく自分がいる。
一度別室に消えた冬悟が、ここに戻ってきた。
俺の冬用の白いカーディガンと、小さな箱を2つ、その手に携えて。
「…寒くなるかもしれないから、これを着ておけ。」
そう言うと、俺にふわっとその上着を掛けてくれた。
俺が風邪引かないように、わざわざ取ってきてくれたんだ。
この部屋、暖かいのに。
「うん!」
冬悟のこういう優しさが嬉しくて、へへっと笑い、それを着た後、冬悟に見て見て!と、その場でくるっと一回転する。
「タキシードっぽい?」
「…………………あぁ。」
全くそう思っていないことは、そう言った俺でもわかる。
カーディガンが、タキシードになるわけがない。
「おい、テキトーに返事してんじゃねぇぞ!」
「…お前がそう思いたいなら、別にいいんじゃないのか?」
うがーっ!と吠える俺に、冬悟がシラけた眼差しを寄越してきた。
そして、軽く咳払いをする。
「…さて、そろそろいいだろう。ではまず、俺から誓いの言葉を。……だが、その前に、少しだけ話を聞いてくれ。」
珍しく、少し緊張した面持ちの冬悟に、俺もまた緊張していく。
そして、スッと視線を逸らした冬悟は、俺と向き合うのをやめ、ゆっくりと窓に向かって歩き出した。
「…お前と出会ったあの日、俺はお前を実家と縁を切るためだけに、利用してやろうと思っていた。そして、その後は、離婚してやろうと。」
冬悟は窓の外を眺めながら、ぽつりぽつりと続ける。
「だが、お前と過ごす中で、真っ直ぐなその性格や、お前のその笑顔に、少しずつ惹かれていく自分がいた。ただ、当時はこの感情の、正体はわからなかったがな。」
目を閉じたその横顔は、遠い過去を懐かしんでいるように、すごく穏やかに見えた。
「だから本当は、出ていった俺を、お前が引き止めてくれたあの時、とても嬉しかった。お金や、権力、そしてこの家柄ではなく、俺自身を、必要としてもらえたことが、何より嬉しかった。」
だけど、冬悟は軽く俯き、その長い睫毛を伏せる。
「だが、1から夫夫として一緒に暮らしてみると、今度は俺の中に生まれた不安が、顔を覗かせるようになった。歳も、育ってきた環境も、何もかも違うお前とは、共通のものなど何1つ見当たらなかった。だからきっと、すぐにお前は俺に飽きるだろうと、いつも心のどこかで怯え……そして、諦めていた。」
「冬悟……。」
ずっと、そんな風に思ってたんだ。
ずっと一緒にいたのに、全然気付かなかった。
その切ない声色に、今すぐ駆け寄って、抱き締めたくなる。
だけど、冬悟は顔を上げると、その視線は窓から離れ、真っ直ぐに俺を捉えた。
その強い眼差しに、その場から動けなくなる。
「…しかし、お前はずっと、側で楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれた。どれだけ俺が不甲斐なくても、格好悪い時でも、いつでも。そして、ずっと、俺に好きだと伝え続けてくれた。何度も何度も、真っ直ぐに。だから、お前の“好き”は、信じることができた。」
今度はゆっくりと俺に向かって、近づいてきた。
冬悟も少し緊張しているのか、いつもより表情が固く、ほんの微かに震えているような気がした。
そんないつもと雰囲気の違う冬悟が一歩、また一歩と近づいてくる度に、俺の心臓の音が、大きくなっていく。
そして、目の前で立ち止まると、そっと俺の左手を取り、その甲に口付けた。
俺に触れたその手は、もう震えてなどいない。
その迷いのない、真っ直ぐな眼差しを向けられ、ピクッと指先が跳ねた。
「今ではもう、お前のいない人生など、考えられない。」
俺を見つめるその瞳には、優しさと甘さと、そして底が見えない程の深い愛情が宿っており、その中心に、はっきりと俺を映し出している。
「…俺のことを好きになって、ずっと好きでいてくれて、ありがとう。誰かに愛される幸せと、愛することの歓びを、教えてくれてありがとう。」
そして、今度は俺のその薬指に唇が落とされる。
その柔らかな感触に、もう胸の高鳴りが限界で、はち切れそうだ。
とうとう、その瞬間がやってきた。
「…病める時も、健やかなる時も、純也、お前を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓おう。……好きだ、純也。お前だけを、愛している。」
その言葉とともに、左手の薬指に、サイズのぴったり合った指輪が嵌められる。
その瞬間、すーっと一筋の温かな涙が零れ落ちた。
ずっとずっとずっと、聞きたかった言葉が、冬悟の口から直接聴けて、心が歓びで湧き上がり、嬉しさで身体が震える。
冬悟は行動で愛を示してくれるタイプだったから、俺のこと、ちゃんと好きだってことは、伝わってた。
だけど、心のどこかで、その言葉が貰えない不満が、ずっとあった。
でも今、冬悟から好きだって、愛してるって言ってもらえて、本当に、心の底から嬉しくて。
こんなにも、世界がきらきらと、眩しい光が煌めくように、輝いて見えることは、今までになかっただろう。
その言葉は、冬悟だけが使える、魔法だ。
俺の人生を輝かせてくれる、唯一無二の魔法―。
「………っ。」
俺もこの時に向けて、冬悟に伝えたいことをちゃんと考えていた。
なのに、幸せの涙は止まらず、震える唇のせいで、何も言葉が出てこない。
そんな俺を、冬悟は優しく抱き締めてくれた。
「…何も言わなくていい。」
そう言ってくれたが、どうしても、伝えたいことがある。
大丈夫だというように、ふるふると首を横に振って、滲んだ視界の中、冬悟を真っ直ぐ見つめる。
そして、言うことの聞かない唇から、なんとか声を絞り出した。
「お…っ……俺、冬悟に会うまでは、幸せになんかなれないって思ってた。お金がないせいで、母さんも、誰も、俺のことなんて、誰も見てくれなかった。それに、どれだけ体を繋げても、今まではみんな、お金はくれても、誰も愛してはくれなかった。だから、お金が愛なんだって、お金だけが全てだって、そう自分に言い聞かせてた。」
泣きながら話す俺の背を、冬悟が優しく擦ってくれる。
そして、嗚咽混じりで聞き取りにくい俺の話でも、いつものように、ちゃんと耳を傾けてくれていた。
そんな冬悟に、ちゃんと伝えたくて、涙を堪えるよう、ぐっと力を込める。
「もういいやって、人生諦めかけてた時に、冬悟に出会ったんだ。最初は最悪の結婚生活だったし、いろいろあったけど、冬悟だけは、俺のことをちゃんと見てくれた。愛そうとしてくれた。……愛してくれた!だから、俺にとって冬悟は、どん底の絶望から救い出してくれた、ヒーローなんだ。」
言葉を紡げば紡ぐ程、冬悟への想いが溢れていく。
「いつも俺に幸せをくれて、ありがとう。俺のこと、好きになって、ちゃんと愛してくれて、ありがとう…っ!」
考えてきた通りのことを、何一つ上手く話せなくて、それでもこの想いを届けたくて、俺からもぎゅっと冬悟に抱きついた。
「…っ……俺も、病める時も、健やかなる時も、冬悟を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓います…!冬悟、大好き…!俺も愛してる……っ!!」
そして、愛しい人のその唇に、自身の唇を合わせる。
幸せそうに目を細めた冬悟は、力強く俺の身体を支え、しっかりと受け止めてくれた。
少し長めに口付けた後、互いに名残惜しそうに、そっと離れる。
そして、もう一度目を合わせると、互いに笑い合った。
「俺も、冬悟に指輪嵌めたい。」
「…俺のはこれだ。」
冬悟から小さな箱を受け取った俺は、それを大事そうに開ける。
すると、俺の指に嵌っているものと同じデザインの、細身のシルバーリングが光っていた。
ちゃんと俺が、デザインした通りになってる!!
その綺麗な指輪を、慎重に手に取って、裏面を覗き込む。
するとそこには、俺の頭文字である“J”と、俺達が出会った日付が刻まれている。
ここまでは、俺のデザイン通りだ。
しかし、その文字の端に、キラリと光り輝く石が2つ、埋め込まれていた。
これは……?
1つは透明だが、周りの光を反射して、虹色に輝くダイヤモンド。
そして、もう1つは、情熱的に真っ赤に輝くルビーだ。
俺の指輪を外して、自身のも確認すると、冬悟の頭文字である“T”と同じ日付、そして、同じ石が埋め込まれていた。
「…それは、俺からお前への贈り物だ。ダイヤモンドは永遠の愛を。……お前の誕生石である、ルビーは純愛を。それぞれ象徴している。」
俺への贈り物って……。
こんなサプライズ、聞いてねぇよ!!!
漸く震えが止まってきていたのに、嬉しさのあまり、また勝手に身体が震え出してくる。
「…受け取ってくれるか?」
俺の表情を覗き込んでくる冬悟に、コクコクッと何度も頷く。
「こんなの、絶対に受け取るに決まってんだろ!」
冬悟といると、俺はいつも幸せだ。
だけど、今日は特別に、洪水のように襲ってくる幸せに溺れ、殺されそうになる。
泣きながら笑う俺に、満足そうに笑った冬悟は、もう一度、俺に指輪を嵌めてくれた。
「…お前の綺麗な指に、よく似合っている。」
そう言いながら、今度はその指輪に、口付けを落とす。
だけど、綺麗だと褒められたことに、照れてしまい、俺はそっと目を伏せた。
「冬悟の指は綺麗だけど、俺のは綺麗じゃねぇよ。」
「そんなことはない。」
間髪入れずに否定され、胸のドキドキが、より一層高鳴っていく。
「お前の髪も」
すると、冬悟が俺の髪に、ちゅっとキスをした。
「お前の目も」
そして、次は目尻に口付けられる。
「お前の鼻も、耳も、その愛らしい唇も、手も」
告げられていく部位全てに、順番にキスが落ちてきた。
「お前の全ては、どんな宝石よりも、この指輪よりも、綺麗だ。この世のどんなものも、お前の輝きには敵わない。」
突然のとんでも殺し文句に、カーッと顔が真っ赤に沸騰していく。
だけど、同時に、すっごく嬉しくて、もう一度ぎゅっと冬悟に抱きついた。
「嬉しい、ありがと…っ!」
今までなら、そう言われても、きっと“そんなことない”って、否定する自分がいた。
だけど、今は、それを自然に受け入れられる。
これも、冬悟が愛してくれたおかげだ。
ぐりぐりと頭を擦り寄せて甘えた後、冬悟の左手の薬指を、すーっと指でなぞっていく。
「冬悟、左手出して。」
すると、冬悟はスッと左手を差し出してくれた。
その手を取り、その長くて綺麗な指に、俺も先に口付ける。
自分のことを蔑ろにしてまでも、俺のことを気にかけてくれる冬悟のことは、俺がちゃんと気にかけて、大切にするから。
その想いを込めて、俺達の幸せを嵌めた。
その瞬間、お揃いの指輪が、キラッと輝いた気がした。
「冬悟、もう1回、あの言葉を言って?お願い!」
「…今日は特別だからな。純也、好きだ。愛してる……」
それを合図に、互いに引き寄せられるように顔を近づけ、唇と唇が僅かに触れ合う。
「2人で一緒に、幸せになろ。」
そして、そのまま、2つの影が重なった。
このキスは、今までのどんなキスよりも、俺達2人の繋がりを感じ、そして、神聖なものだった。
部屋の暖かな光と、満天の星空だけが、俺達を静かに祝福してくれた。
先程小さかった星達は、一際大きな輝きを放っていた―。
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彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。
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