【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第三章

day.70

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今夜は、窓から見える空には雲1つなく、都会の強い明かりに負けないよう光を放つ星達が、小さくもはっきりと輝いている。
そして、季節のせいもあり、外は肌寒いが、部屋の中は、暖房が効いていて暖かい。

くるりと、部屋全体を見回す。
すると、冬悟と出会ってからの思い出が、次々と色鮮やかに蘇ってきた。

引っ越してきたときは、あの部屋もあの部屋も、空っぽだったっけ。

今では、どの部屋も使われていて、空き部屋なんてない。
最初は生活感のなかったこの家は、今では2人のもので溢れている。

「…本当に、ここでよかったのか?」

感慨深く部屋を眺めていると、ふわっと背後から抱き締められた。
その優しい腕に、そっと手を添える。

「うん。だって、ここは俺達2人だけの、秘密の空間だからな!」

「他にも何人か知っていると思うが……。」

「それに……俺達の思い出が、どこよりもたっっくさん詰まってる。……だから、ここがいいんだ。」

振り向いてニッと笑うと、冬悟が額を、俺の額にこつっと合わせてきた。

「…わかった。なら、今から……俺達だけの結婚式をはじめよう。」

そう、今日は、俺達2人だけの、結婚式だ―。



結局、結婚式の2日前に指輪が出来上がり、ギリギリだったけど、この日を迎えることができた。

場所は、俺のリクエストで、自宅になった。

すっと背中から、冬悟の体温が遠ざかっていく。
いつもなら、冬悟が離れていく瞬間は、どこか寂しかった。
だけど、今は、それとは真逆で、ドキドキと胸が高鳴っていく。

いつものラフな格好で、勝手知ったる俺達の家の筈なのに。
どんどんと、緊張していく自分がいる。

一度別室に消えた冬悟が、ここに戻ってきた。
俺の冬用の白いカーディガンと、小さな箱を2つ、その手に携えて。

「…寒くなるかもしれないから、これを着ておけ。」

そう言うと、俺にふわっとその上着を掛けてくれた。

俺が風邪引かないように、わざわざ取ってきてくれたんだ。
この部屋、暖かいのに。

「うん!」

冬悟のこういう優しさが嬉しくて、へへっと笑い、それを着た後、冬悟に見て見て!と、その場でくるっと一回転する。

「タキシードっぽい?」

「…………………あぁ。」

全くそう思っていないことは、そう言った俺でもわかる。
カーディガンが、タキシードになるわけがない。

「おい、テキトーに返事してんじゃねぇぞ!」

「…お前がそう思いたいなら、別にいいんじゃないのか?」

うがーっ!と吠える俺に、冬悟がシラけた眼差しを寄越してきた。
そして、軽く咳払いをする。

「…さて、そろそろいいだろう。ではまず、俺から誓いの言葉を。……だが、その前に、少しだけ話を聞いてくれ。」

珍しく、少し緊張した面持ちの冬悟に、俺もまた緊張していく。
そして、スッと視線を逸らした冬悟は、俺と向き合うのをやめ、ゆっくりと窓に向かって歩き出した。

「…お前と出会ったあの日、俺はお前を実家と縁を切るためだけに、利用してやろうと思っていた。そして、その後は、離婚してやろうと。」

冬悟は窓の外を眺めながら、ぽつりぽつりと続ける。

「だが、お前と過ごす中で、真っ直ぐなその性格や、お前のその笑顔に、少しずつ惹かれていく自分がいた。ただ、当時はこの感情の、正体はわからなかったがな。」

目を閉じたその横顔は、遠い過去を懐かしんでいるように、すごく穏やかに見えた。

「だから本当は、出ていった俺を、お前が引き止めてくれたあの時、とても嬉しかった。お金や、権力、そしてこの家柄ではなく、俺自身を、必要としてもらえたことが、何より嬉しかった。」

だけど、冬悟は軽く俯き、その長い睫毛を伏せる。

「だが、1から夫夫として一緒に暮らしてみると、今度は俺の中に生まれた不安が、顔を覗かせるようになった。歳も、育ってきた環境も、何もかも違うお前とは、共通のものなど何1つ見当たらなかった。だからきっと、すぐにお前は俺に飽きるだろうと、いつも心のどこかで怯え……そして、諦めていた。」

「冬悟……。」

ずっと、そんな風に思ってたんだ。
ずっと一緒にいたのに、全然気付かなかった。

その切ない声色に、今すぐ駆け寄って、抱き締めたくなる。
だけど、冬悟は顔を上げると、その視線は窓から離れ、真っ直ぐに俺を捉えた。
その強い眼差しに、その場から動けなくなる。

「…しかし、お前はずっと、側で楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれた。どれだけ俺が不甲斐なくても、格好悪い時でも、いつでも。そして、ずっと、俺に好きだと伝え続けてくれた。何度も何度も、真っ直ぐに。だから、お前の“好き”は、信じることができた。」

今度はゆっくりと俺に向かって、近づいてきた。
冬悟も少し緊張しているのか、いつもより表情が固く、ほんの微かに震えているような気がした。
そんないつもと雰囲気の違う冬悟が一歩、また一歩と近づいてくる度に、俺の心臓の音が、大きくなっていく。

そして、目の前で立ち止まると、そっと俺の左手を取り、その甲に口付けた。
俺に触れたその手は、もう震えてなどいない。
その迷いのない、真っ直ぐな眼差しを向けられ、ピクッと指先が跳ねた。

「今ではもう、お前のいない人生など、考えられない。」

俺を見つめるその瞳には、優しさと甘さと、そして底が見えない程の深い愛情が宿っており、その中心に、はっきりと俺を映し出している。

「…俺のことを好きになって、ずっと好きでいてくれて、ありがとう。誰かに愛される幸せと、愛することの歓びを、教えてくれてありがとう。」

そして、今度は俺のその薬指に唇が落とされる。
その柔らかな感触に、もう胸の高鳴りが限界で、はち切れそうだ。

とうとう、その瞬間がやってきた。

「…病める時も、健やかなる時も、純也、お前を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓おう。……好きだ、純也。お前だけを、愛している。」

その言葉とともに、左手の薬指に、サイズのぴったり合った指輪が嵌められる。

その瞬間、すーっと一筋の温かな涙が零れ落ちた。

ずっとずっとずっと、聞きたかった言葉が、冬悟の口から直接聴けて、心が歓びで湧き上がり、嬉しさで身体が震える。

冬悟は行動で愛を示してくれるタイプだったから、俺のこと、ちゃんと好きだってことは、伝わってた。
だけど、心のどこかで、その言葉が貰えない不満が、ずっとあった。

でも今、冬悟から好きだって、愛してるって言ってもらえて、本当に、心の底から嬉しくて。
こんなにも、世界がきらきらと、眩しい光が煌めくように、輝いて見えることは、今までになかっただろう。

その言葉は、冬悟だけが使える、魔法だ。
俺の人生を輝かせてくれる、唯一無二の魔法―。

「………っ。」

俺もこの時に向けて、冬悟に伝えたいことをちゃんと考えていた。
なのに、幸せの涙は止まらず、震える唇のせいで、何も言葉が出てこない。

そんな俺を、冬悟は優しく抱き締めてくれた。

「…何も言わなくていい。」

そう言ってくれたが、どうしても、伝えたいことがある。
大丈夫だというように、ふるふると首を横に振って、滲んだ視界の中、冬悟を真っ直ぐ見つめる。
そして、言うことの聞かない唇から、なんとか声を絞り出した。

「お…っ……俺、冬悟に会うまでは、幸せになんかなれないって思ってた。お金がないせいで、母さんも、誰も、俺のことなんて、誰も見てくれなかった。それに、どれだけ体を繋げても、今まではみんな、お金はくれても、誰も愛してはくれなかった。だから、お金が愛なんだって、お金だけが全てだって、そう自分に言い聞かせてた。」

泣きながら話す俺の背を、冬悟が優しく擦ってくれる。
そして、嗚咽混じりで聞き取りにくい俺の話でも、いつものように、ちゃんと耳を傾けてくれていた。

そんな冬悟に、ちゃんと伝えたくて、涙を堪えるよう、ぐっと力を込める。

「もういいやって、人生諦めかけてた時に、冬悟に出会ったんだ。最初は最悪の結婚生活だったし、いろいろあったけど、冬悟だけは、俺のことをちゃんと見てくれた。愛そうとしてくれた。……愛してくれた!だから、俺にとって冬悟は、どん底の絶望から救い出してくれた、ヒーローなんだ。」

言葉を紡げば紡ぐ程、冬悟への想いが溢れていく。

「いつも俺に幸せをくれて、ありがとう。俺のこと、好きになって、ちゃんと愛してくれて、ありがとう…っ!」

考えてきた通りのことを、何一つ上手く話せなくて、それでもこの想いを届けたくて、俺からもぎゅっと冬悟に抱きついた。

「…っ……俺も、病める時も、健やかなる時も、冬悟を愛し、敬い、この命ある限り、誠心誠意尽くすと誓います…!冬悟、大好き…!俺も愛してる……っ!!」

そして、愛しい人のその唇に、自身の唇を合わせる。
幸せそうに目を細めた冬悟は、力強く俺の身体を支え、しっかりと受け止めてくれた。

少し長めに口付けた後、互いに名残惜しそうに、そっと離れる。
そして、もう一度目を合わせると、互いに笑い合った。

「俺も、冬悟に指輪嵌めたい。」

「…俺のはこれだ。」

冬悟から小さな箱を受け取った俺は、それを大事そうに開ける。
すると、俺の指に嵌っているものと同じデザインの、細身のシルバーリングが光っていた。

ちゃんと俺が、デザインした通りになってる!!

その綺麗な指輪を、慎重に手に取って、裏面を覗き込む。
するとそこには、俺の頭文字である“J”と、俺達が出会った日付が刻まれている。
ここまでは、俺のデザイン通りだ。

しかし、その文字の端に、キラリと光り輝く石が2つ、埋め込まれていた。

これは……?

1つは透明だが、周りの光を反射して、虹色に輝くダイヤモンド。
そして、もう1つは、情熱的に真っ赤に輝くルビーだ。

俺の指輪を外して、自身のも確認すると、冬悟の頭文字である“T”と同じ日付、そして、同じ石が埋め込まれていた。

「…それは、俺からお前への贈り物だ。ダイヤモンドは永遠の愛を。……お前の誕生石である、ルビーは純愛を。それぞれ象徴している。」

俺への贈り物って……。
こんなサプライズ、聞いてねぇよ!!!

漸く震えが止まってきていたのに、嬉しさのあまり、また勝手に身体が震え出してくる。

「…受け取ってくれるか?」

俺の表情を覗き込んでくる冬悟に、コクコクッと何度も頷く。

「こんなの、絶対に受け取るに決まってんだろ!」

冬悟といると、俺はいつも幸せだ。
だけど、今日は特別に、洪水のように襲ってくる幸せに溺れ、殺されそうになる。

泣きながら笑う俺に、満足そうに笑った冬悟は、もう一度、俺に指輪を嵌めてくれた。

「…お前の綺麗な指に、よく似合っている。」

そう言いながら、今度はその指輪に、口付けを落とす。
だけど、綺麗だと褒められたことに、照れてしまい、俺はそっと目を伏せた。

「冬悟の指は綺麗だけど、俺のは綺麗じゃねぇよ。」

「そんなことはない。」

間髪入れずに否定され、胸のドキドキが、より一層高鳴っていく。

「お前の髪も」

すると、冬悟が俺の髪に、ちゅっとキスをした。

「お前の目も」

そして、次は目尻に口付けられる。

「お前の鼻も、耳も、その愛らしい唇も、手も」

告げられていく部位全てに、順番にキスが落ちてきた。

「お前の全ては、どんな宝石よりも、この指輪よりも、綺麗だ。この世のどんなものも、お前の輝きには敵わない。」

突然のとんでも殺し文句に、カーッと顔が真っ赤に沸騰していく。
だけど、同時に、すっごく嬉しくて、もう一度ぎゅっと冬悟に抱きついた。

「嬉しい、ありがと…っ!」

今までなら、そう言われても、きっと“そんなことない”って、否定する自分がいた。
だけど、今は、それを自然に受け入れられる。

これも、冬悟が愛してくれたおかげだ。

ぐりぐりと頭を擦り寄せて甘えた後、冬悟の左手の薬指を、すーっと指でなぞっていく。

「冬悟、左手出して。」

すると、冬悟はスッと左手を差し出してくれた。
その手を取り、その長くて綺麗な指に、俺も先に口付ける。

自分のことを蔑ろにしてまでも、俺のことを気にかけてくれる冬悟のことは、俺がちゃんと気にかけて、大切にするから。

その想いを込めて、俺達の幸せを嵌めた。

その瞬間、お揃いの指輪が、キラッと輝いた気がした。

「冬悟、もう1回、あの言葉を言って?お願い!」

「…今日は特別だからな。純也、好きだ。愛してる……」

それを合図に、互いに引き寄せられるように顔を近づけ、唇と唇が僅かに触れ合う。

「2人で一緒に、幸せになろ。」

そして、そのまま、2つの影が重なった。
このキスは、今までのどんなキスよりも、俺達2人の繋がりを感じ、そして、神聖なものだった。

部屋の暖かな光と、満天の星空だけが、俺達を静かに祝福してくれた。
先程小さかった星達は、一際大きな輝きを放っていた―。
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