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8 口づけ②
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寮に戻るため、森を切り開いた道を進んでいく。
シュヴァルツにしがみつくのはやっぱり馴れないが、少しでも離れようとすると強く抱かれてしまうためどうしようもない。
「……どうして泣いた」
「え?」
「キャサリンの店でカタログを見ながら泣いていただろう」
見られていたのか、と恥ずかしくなる。
「……身に余るほどのすばらしいドレスの数々で、感動してしまったんです」
「お前は伯爵家の令嬢だろう。あの程度のドレス、日常的に着られただろう」
「……そうなんですが、でも殺されかけたあとだと、そんな日常がとても尊く感じられたんです。恥ずかしい姿を見せてしまってごめんなさい……」
シュヴァルツに、自分が虐げられたことは知られたくなかった。
「責めてるわけじゃない。謝るな」
木漏れ日が差す街道をゆっくり馬が進んだ。
その時、ドクン!と胸元の色欲の呪紋が大きく脈打つ。
「!」
今は我慢しないと。せめて寮に戻るまで。
アリッサはこみあげる淫らな熱情を抑えこむように下唇を噛みしめた。
しかしひとたび脈打ちはじめた呪紋はそんなことでは鎮まってくれない。
むしろ、こらえようとするアリッサを嘲笑うかのように、ますます強く脈打つ。
体が小刻みに震え、吐き出す息が熱を孕んだ。
シュヴァルツにしがみつく両手はみるみる汗ばみ、たまらず彼の服をぎゅっと握り締めてしまう。
「衝動か」
「だ、大丈夫です……我慢できますから……」
「我慢はするな」
「で、でもここは街道です……誰が来るかも分からないので」
「そんなことを気にしてる場合か」
シュヴァルツはアリッサを抱いたまま馬から飛び降りると、森の中に分け入っていく。
「りょ、寮までこらえられますから……」
しかしシュヴァルツは話を聞いてくれない。
ズキズキと体の深い場所が強く疼き、噴き出した汗が額から顎のラインを伝う。
「……ここなら、誰かに見られることもない」
シュヴァルツは大木の影に移動する。
「ほ、本当にごめんなさい……シュヴァルツ様」
「呪紋にかかったのはお前のせいじゃない」
「ん……っ」
少し強めに唇が押しつけられた。かすかに汗のかおりが鼻腔をくすぐった。
上唇、下唇と舌先で優しく撫でるように舐められれば、唇が自然と開く。
舌を交えての口づけに緊張してしまう。
口内を優しく撫でられ、舌が絡まり合う。
シュヴァルツに唇や舌を甘噛みされると、体から力が抜け、気付けば身を任せてしまう。
――なんていやらしい口づけをさせているんだろう。
唾液を交え、舌を吸われ、背中や首筋を武骨な手で撫でられる。
女性を嫌うシュヴァルツはきっと後悔しているだろう。
火あぶりになっている女を助けてしまったばっかりに、好きでもない女とこうして口づけをしなければならないのだから。
申し訳ないと思うのに、彼の激しくも、アリッサを気遣うような丁寧な口づけに頭の芯がぼうっとし、ずっとこのままキスをしていて欲しいという考えが頭を過ぎる。
頭にさきほど出会った、キャサリンのことが思い浮かぶ。
二人の親しげな雰囲気に胸がズキッと鈍く痛む。
――もしかして二人はお付き合いされていたのかな……。
鼻にかかった息遣いと共にもたらされる唾液を飲み込むと、体の芯を焼いていた淫らな熱気が少しずつ収束していく。
触れあう唇や舌先が蕩ける。
何も考えられず、シュヴァルツの鍛えられた逞しい体だけを意識した。
密着しあっていた唇が遠ざかり、舌の交わりがほどける。
寂寥感を覚える自分を恥じた。
「……衝動はどうだ?」
もしここでまだ体が火照っていると訴えれば、情熱的な口づけを続けてくれるのだろうか。そんな浅ましい考えを慌てて追い出す。
――なんてはしたないことを考えるのよ……。
あくまでシュヴァルツは善意としてやってくれているのだ。
これは決して好意ではない。
「もう大丈夫です。ありがとうございます……」
口内には彼の舌の感触が生々しく残っていた。
「絶対に我慢はするな。恥ずかしかったらそう言え。俺だって見られたいとは思ってはいない」
「はい」
「……唇を噛むな。傷がつく」
下唇を撫でてくれる彼の指先は優しかった。その感触が心地よくて、思わず目を閉じかけ、はっと我に返ると、慌てて距離を取った。
「も、戻りましょう。あまり遅くなると、寮の皆さんが心配すると思いますので……!」
耳が、頬が、首筋が火傷しそうなくらい火照り、心臓が今にもバクバクと高鳴った。
アリッサは早足で来た道を戻っていった。
シュヴァルツにしがみつくのはやっぱり馴れないが、少しでも離れようとすると強く抱かれてしまうためどうしようもない。
「……どうして泣いた」
「え?」
「キャサリンの店でカタログを見ながら泣いていただろう」
見られていたのか、と恥ずかしくなる。
「……身に余るほどのすばらしいドレスの数々で、感動してしまったんです」
「お前は伯爵家の令嬢だろう。あの程度のドレス、日常的に着られただろう」
「……そうなんですが、でも殺されかけたあとだと、そんな日常がとても尊く感じられたんです。恥ずかしい姿を見せてしまってごめんなさい……」
シュヴァルツに、自分が虐げられたことは知られたくなかった。
「責めてるわけじゃない。謝るな」
木漏れ日が差す街道をゆっくり馬が進んだ。
その時、ドクン!と胸元の色欲の呪紋が大きく脈打つ。
「!」
今は我慢しないと。せめて寮に戻るまで。
アリッサはこみあげる淫らな熱情を抑えこむように下唇を噛みしめた。
しかしひとたび脈打ちはじめた呪紋はそんなことでは鎮まってくれない。
むしろ、こらえようとするアリッサを嘲笑うかのように、ますます強く脈打つ。
体が小刻みに震え、吐き出す息が熱を孕んだ。
シュヴァルツにしがみつく両手はみるみる汗ばみ、たまらず彼の服をぎゅっと握り締めてしまう。
「衝動か」
「だ、大丈夫です……我慢できますから……」
「我慢はするな」
「で、でもここは街道です……誰が来るかも分からないので」
「そんなことを気にしてる場合か」
シュヴァルツはアリッサを抱いたまま馬から飛び降りると、森の中に分け入っていく。
「りょ、寮までこらえられますから……」
しかしシュヴァルツは話を聞いてくれない。
ズキズキと体の深い場所が強く疼き、噴き出した汗が額から顎のラインを伝う。
「……ここなら、誰かに見られることもない」
シュヴァルツは大木の影に移動する。
「ほ、本当にごめんなさい……シュヴァルツ様」
「呪紋にかかったのはお前のせいじゃない」
「ん……っ」
少し強めに唇が押しつけられた。かすかに汗のかおりが鼻腔をくすぐった。
上唇、下唇と舌先で優しく撫でるように舐められれば、唇が自然と開く。
舌を交えての口づけに緊張してしまう。
口内を優しく撫でられ、舌が絡まり合う。
シュヴァルツに唇や舌を甘噛みされると、体から力が抜け、気付けば身を任せてしまう。
――なんていやらしい口づけをさせているんだろう。
唾液を交え、舌を吸われ、背中や首筋を武骨な手で撫でられる。
女性を嫌うシュヴァルツはきっと後悔しているだろう。
火あぶりになっている女を助けてしまったばっかりに、好きでもない女とこうして口づけをしなければならないのだから。
申し訳ないと思うのに、彼の激しくも、アリッサを気遣うような丁寧な口づけに頭の芯がぼうっとし、ずっとこのままキスをしていて欲しいという考えが頭を過ぎる。
頭にさきほど出会った、キャサリンのことが思い浮かぶ。
二人の親しげな雰囲気に胸がズキッと鈍く痛む。
――もしかして二人はお付き合いされていたのかな……。
鼻にかかった息遣いと共にもたらされる唾液を飲み込むと、体の芯を焼いていた淫らな熱気が少しずつ収束していく。
触れあう唇や舌先が蕩ける。
何も考えられず、シュヴァルツの鍛えられた逞しい体だけを意識した。
密着しあっていた唇が遠ざかり、舌の交わりがほどける。
寂寥感を覚える自分を恥じた。
「……衝動はどうだ?」
もしここでまだ体が火照っていると訴えれば、情熱的な口づけを続けてくれるのだろうか。そんな浅ましい考えを慌てて追い出す。
――なんてはしたないことを考えるのよ……。
あくまでシュヴァルツは善意としてやってくれているのだ。
これは決して好意ではない。
「もう大丈夫です。ありがとうございます……」
口内には彼の舌の感触が生々しく残っていた。
「絶対に我慢はするな。恥ずかしかったらそう言え。俺だって見られたいとは思ってはいない」
「はい」
「……唇を噛むな。傷がつく」
下唇を撫でてくれる彼の指先は優しかった。その感触が心地よくて、思わず目を閉じかけ、はっと我に返ると、慌てて距離を取った。
「も、戻りましょう。あまり遅くなると、寮の皆さんが心配すると思いますので……!」
耳が、頬が、首筋が火傷しそうなくらい火照り、心臓が今にもバクバクと高鳴った。
アリッサは早足で来た道を戻っていった。
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