女嫌いの騎士は呪われた伯爵令嬢を手放さない

魚谷

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過去③

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 魔塔の話題を出して以来、ルゥは部屋にこもって籠城の構えを崩さない。
 食堂にも姿を見せないため、メイドに言って食事を届けてもらっている。
 食事はぜんぶ、食べているようだから、そこは安心だ。

 でもこのままでいいとは思わない。
 現状をどうにかするために、魔塔の話を棚上げにするつもりもアリッサにはなかった。
 魔塔の話はルゥの将来に大きく関わる。もしかしたら命にも。
 だからこそ、アリッサに折れるつもりはなかった。

 ――魔塔に行くのがルゥのためだと、信じているから。

 たとえこのせいでルゥと仲違いしても。
 アリッサは今日も部屋の戸を叩き、『話がしたいの』と呼びかけるが、あいかわらず無視。

 ――そっちがその気なら!

 アリッサは屋敷の裏手、ルゥの部屋の窓へ、庭師がつかう梯子をたてかけた。
 高い所は怖いけど、ルゥのためだと震える手と足で梯子を登っていく。
 どうにかルゥの部屋の窓まで来ると、ノックする。
 ルゥはっとしてこっちを見るや、逃げようとする。

『待って! ……きゃっ!』

 バランスを崩した拍子に梯子が動く。

 ルゥと眼が合う。

 梯子が大きな音をたてて地面に倒れる。
 アリッサの体を、ルゥは両手で掴んでびっくりするくらいの力で引き上げてくれる。

『あ、ありがとう……』
『バカ! 危ないだろ! 何してるんだよ!』
『こうでもしなきゃルゥ君は話を聞いてくれないでしょ!?』
『だ、だからって、一つ間違えてたら死んでたぞ、バカ!』
『バカって言うほうがバカでしょ!』

 アリッサとルゥは見つめ合い、そしてどちらからともなく口元を緩め、笑う。
『……ルゥ君、寂しかった』
『お、俺も』

 アリッサは小柄なルゥを抱きしめた。ルゥも背中に腕を回してくれる。
 拒絶されないことが嬉しい。

『でも魔塔へは行かない』

 しっかりそう言うことを忘れなかった。

『魔塔で魔術師として勉強したら、きっとルゥ君は誰にも傷つけられない、強い人になれるよ!』
『……そういうことじゃない。お前と離れたくない。離れたら、俺のことなんて忘れて、もう二度と会えなくなるだろ』
『忘れないし、会えるよ』
『うそつくな。俺を子ども扱いするなっ』
『だったら、おまじないをしよっ』
『おまじない……?』

 アリッサは首からさげた布製の袋を外すと、テーブルの上に袋の中身を出す。
 出てきたのは、二つの黒い石だ。
 その黒い石の中には赤や黄色、緑と様々な色の結晶が入っている。

『これはお母様のうちで受け継がれてる双星石っていう宝石。お母様が、将来、大切な人ができたらあげなさいってくれたの』
『……それがどうしたんだよ』
『見てて?』

 双星石同士を近づけあうと、石が青白く輝く。ルゥは目を輝かせた。

『すげえ……』
『この二つの石は元々、一つの石だったの。それを二つ分けて、綺麗に磨いたのがこの宝石。近づけると、こうして綺麗に光るんだよ。これを持っていると、どれだけ離れていても絶対にまた会えるっていう伝説があるの』

 アリッサは、ルゥに双星石を渡せば、大切そうに両手で握る。
『……魔塔へは行くけど、それはお前を守るため……強い男になるために行くんだからな。忘れるなよっ』
『うんっ』

 ルゥは眼を輝かせながら、石を近づけたり、離したり、と夢中だ。

 ――こういうところは、子どもね。

 子どもの時は変に背伸びをせず、子どもらしく無邪気でいて欲しい。でも魔法という特別な力が、子どもらしくあるという時間を奪ってしまうなんて、皮肉だ。
『……これがあれば、俺だってすぐ分かるよな。名前を変えても……』
『もう、まだ言ってるの?』
『あたりまえだろ。魔塔に行くことになるんだから、余計に名前変える。ルゥ、なんてそんな名前じゃ、他の魔術師に絶対バカにされる!』

 少し頬を赤らめるルゥを、アリッサは優しい眼差しで見つめた。
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