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「公爵夫人。本当に今日もありがとうございます。レースの刺繍であんなにたくさんのお給金を……」
「みんなが受け取るべき当然のお金ですから」
「あなたは本当に神様のような方です! 本当にありがとうございます!」
院長が深々と頭を下げる。
「また来ますね」
「お待ちしております」
院長に見送られ、ハイネは馬車に乗り込んだ。
馬車に一礼をして院長が孤児院へ入っていく。
物陰から様子を窺っていたショーンは、動き出した馬車の後を追いかける。
ショーンは手紙を握りしめていた。
一生懸命字の練習をして、森で助けてくれたことへのお礼と迷惑をかけてしまったことへの謝罪を書いてあった。
みんなの前で渡すのは恥ずかしかったから、機会を見計らっていたのだ。
馬車の進みはゆっくりだったから、子どもの足でも十分、追いつける。
と、道の半ばで馬車が不意に停まった。
もしかしたら後を追いかけているショーンに気付いたのかもしれない。
そう思い、声をかけようとした瞬間、道の両脇から外套のフードを目深にかぶった怪しい連中が現れたことに気付き、ショーンは慌てて物陰に身を潜めた。
「何ですか、あなたたちはっ」
ハイネの声。
「我々の主人があなたに会いたがっているんです。どうかご同行を」
「……御者には手を出さないで下さい」
「あなたが大人しく従うのであれば」
そんなやりとりが聞こえてくる。
ハイネは気丈に振る舞っているが、その声はかすかに震えていた。
次の瞬間、縄で縛られた御者が御者が布で口元を塞がれた状態で道に放り出されると、馬車はすごい速さで走り出す。
ショーンは御者の男を助ける。
「大丈夫ですか」
「儂のことはいいから、夫人を!」
「分かりました!」
弾かれるように頷いたショーンは慌てて馬車を追いかけた。
※
(ハイネ……っ!)
心が急いた。
これまで知らなかったこととはいえ、彼女が何かを言いたそうに自分を見つめていたそんな顔ばかり脳裏を過ぎっては消え、消えてはまた過ぎるを繰り返す。
一刻も早く彼女から真相を聞きたかった。
そしてこの腕の中に抱きしめ、自分の想いを今さらながらに伝え、許しを乞いたかった。
ようやくアーサーが屋敷に帰り着くと、馬から乱暴に飛び降り、扉を開け放つ。
「おかえりなさいませ、公爵様」
アーサーは頭を下げる執事のことが目に入っていないかのように駆け足で中央階段を上がると、ハイネの部屋へ飛び込んだ。
しかしそこにハイネの姿はなかった。
「ハイネはどこだっ」
「奥様でしたら孤児院の慰問に出ておられますが」
「分かった」
「公爵様、どちらへ?」
「迎えに行く」
「そろそろお戻りになられるかと」
「それなら途中で擦れ違うだろ!」
屋敷を飛び出したアーサーは馬に跨がると、馬腹を蹴った。
自分たちは擦れ違うような運命にでもあるのか、と疑いたくなる。
「公爵様!」
その時、道から人影が飛び出してくる。
アーサーは馬の手綱を引く。
「孤児院の子どもか。何でもお前がここに」
それも少年は、森の中を駆けてきたのか、全身に枝や木の葉をくっつけていた。
前回あれほど危険な目に遭っていながらまだ懲りずに山で遊んでいたのかと半ば呆れながらも、今はそれどころではないアーサーはさっさと馬を飛ばそうとするが、少年はなぜか立ちはだかってきた。
「邪魔だ、どけ! お前に付き合っている暇はないっ!」
「ハイネ様が大変なんですっ!」
「なに!?」
アーサーは目を見開いた。
「みんなが受け取るべき当然のお金ですから」
「あなたは本当に神様のような方です! 本当にありがとうございます!」
院長が深々と頭を下げる。
「また来ますね」
「お待ちしております」
院長に見送られ、ハイネは馬車に乗り込んだ。
馬車に一礼をして院長が孤児院へ入っていく。
物陰から様子を窺っていたショーンは、動き出した馬車の後を追いかける。
ショーンは手紙を握りしめていた。
一生懸命字の練習をして、森で助けてくれたことへのお礼と迷惑をかけてしまったことへの謝罪を書いてあった。
みんなの前で渡すのは恥ずかしかったから、機会を見計らっていたのだ。
馬車の進みはゆっくりだったから、子どもの足でも十分、追いつける。
と、道の半ばで馬車が不意に停まった。
もしかしたら後を追いかけているショーンに気付いたのかもしれない。
そう思い、声をかけようとした瞬間、道の両脇から外套のフードを目深にかぶった怪しい連中が現れたことに気付き、ショーンは慌てて物陰に身を潜めた。
「何ですか、あなたたちはっ」
ハイネの声。
「我々の主人があなたに会いたがっているんです。どうかご同行を」
「……御者には手を出さないで下さい」
「あなたが大人しく従うのであれば」
そんなやりとりが聞こえてくる。
ハイネは気丈に振る舞っているが、その声はかすかに震えていた。
次の瞬間、縄で縛られた御者が御者が布で口元を塞がれた状態で道に放り出されると、馬車はすごい速さで走り出す。
ショーンは御者の男を助ける。
「大丈夫ですか」
「儂のことはいいから、夫人を!」
「分かりました!」
弾かれるように頷いたショーンは慌てて馬車を追いかけた。
※
(ハイネ……っ!)
心が急いた。
これまで知らなかったこととはいえ、彼女が何かを言いたそうに自分を見つめていたそんな顔ばかり脳裏を過ぎっては消え、消えてはまた過ぎるを繰り返す。
一刻も早く彼女から真相を聞きたかった。
そしてこの腕の中に抱きしめ、自分の想いを今さらながらに伝え、許しを乞いたかった。
ようやくアーサーが屋敷に帰り着くと、馬から乱暴に飛び降り、扉を開け放つ。
「おかえりなさいませ、公爵様」
アーサーは頭を下げる執事のことが目に入っていないかのように駆け足で中央階段を上がると、ハイネの部屋へ飛び込んだ。
しかしそこにハイネの姿はなかった。
「ハイネはどこだっ」
「奥様でしたら孤児院の慰問に出ておられますが」
「分かった」
「公爵様、どちらへ?」
「迎えに行く」
「そろそろお戻りになられるかと」
「それなら途中で擦れ違うだろ!」
屋敷を飛び出したアーサーは馬に跨がると、馬腹を蹴った。
自分たちは擦れ違うような運命にでもあるのか、と疑いたくなる。
「公爵様!」
その時、道から人影が飛び出してくる。
アーサーは馬の手綱を引く。
「孤児院の子どもか。何でもお前がここに」
それも少年は、森の中を駆けてきたのか、全身に枝や木の葉をくっつけていた。
前回あれほど危険な目に遭っていながらまだ懲りずに山で遊んでいたのかと半ば呆れながらも、今はそれどころではないアーサーはさっさと馬を飛ばそうとするが、少年はなぜか立ちはだかってきた。
「邪魔だ、どけ! お前に付き合っている暇はないっ!」
「ハイネ様が大変なんですっ!」
「なに!?」
アーサーは目を見開いた。
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