ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷

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夫は揺るがない

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イザベラはジークベルトに許可を取り、公爵邸でパーティーを催すことにした。
冬は社交シーズンではないが、領地に帰らず、暇を持て余した貴族たちは喜んで招待に応じてくれる。
その中にはもちろん、マーガレットもいる。

「ジーク様、本日は私のわがままに許可をくださり、ありがとうございます」
「そろそろその口調は直したらどうだ?」
「え?」
「お前は俺の妻だ。それなのにその口調。他人行儀すぎる。ジークと呼び、もっと砕けた口調でいいだろう」
「そ、それはできません」
「なぜ」

お互い砕けた口調で話すようになったらもう抜け出せなくなりそうじゃないですか!!という本音を飲み込み、「男性とそのように話したことはないので、恥ずかしいのです」と言い訳をしてみる。
「俺はそんなこと気には――」
「さあ、私たちはホストですから、皆さんの応対をしましょう!」
「待て」

先を行こうとするイザベラの右手を当たり前のようにがっちりと握ってくる。
「っ!」
「行くぞ」
「……あ、はぃ」

耳を火照らせつつ、来客の元へ向かう。
マーガレットがこちらに気付くと、少し不格好なカーテシーを見せた。
植物園での一件で転生者であることを知られてしまったイザベラからすると恐怖心を覚えてしまい、縋るようにジークベルトと握った手に力をこめた。

「イザベラ様。このたびはお招き頂きありがとうございます! マーガレット・ハニーベリーと申します。今はリンゼ男爵の元にお世話になっておりまして」
「そ、そうなのね。そのピンク色のドレス、よく似合っているわ」

イザベラは声が上擦らないように必死に己を押さえつつ言った。
「ありがとうございます」

目にハートマークを浮かべたマーガレットはさっきから、ジークベルトだけを見つめていた。
「素敵な方ですね。そう思いませんか、ジーク様」
「すみません。私はそういうものにはあまり詳しくないので」

全く興味関心がないのが丸わかりだ。
挫けそうになる。
「そ、そういえば、二人は皇太子殿下のパーティーで知り合いになっているのよね」
「はい。星をみるために庭に出てはいたのですが迷ってしまって。そこを公爵様とばったり出会ってしまって」
「そうなのね。こんな可愛らしいお嬢さんが新しく社交界に加わるだなんて、ますます賑やかになりそうで嬉しいわ。ね、ジーク様」
「そうですね」

(もっと真面目に反応して! 目の前にいるのは、あなたが一目惚れして執着することになるヒロインなのよ!)

そんなあからさまに、自分はあなたに爪の先ほどの興味関心はありませんと言わんばかりの短いリアクションでは困る。
マーガレットもジークベルトのあまりに機械的な反応に気付き、困惑の表情を隠しきれない。
今ごろ、腸が煮えくりかえりそうなほど怒り狂っているに違いなかった。

「そ、そうだわ。ちょっと飲み物を取ってきますね。ジーク様、その間、マーガレット様とお話をしてもらっていいですか」

離れようとするのだが、ジークベルトは手を離してはくれない。
「こ、公爵様……?」
「飲み物なら私が取ってくる。女性同士のほうが話しやすいだろう」
「いえ、そんな――」

しかしジークベルトは素早い身のこなしで、あっという間に離れてしまう。
こんな時に猟犬として鍛え上げられた身のこなしを披露しなくてもいいのに。
「ちょっと」
「ひっ」
「ちゃんと真面目にやんなさいよねっ」
「や、やってますっ」
「だったらどうしてあんなにジークベルトが無関心な訳!? ありえないでしょうがっ!」
「それは私のせいじゃありませんっ」
「ほんっっっっと、役立たず。これだからモブはっ」

「――何の話をしているんですか?」
「ふふ、イザベラ様のお話が楽しくて聞き入っていたところなんです」

マーガレットはにこりと微笑んだ。
ジークベルトが飲み物を手渡してくれる。
「ありがとうございます」

イザベラはジークベルトとマーガレットを二人きりにする作戦は諦め、イザベラがマーガレットを質問攻めにして、少しでも興味をもってもらおうという作戦に切り替えた。
が、最後までジークベルトは興味を持った様子はなかった。

パーティーがお開きになり、イザベラは眠り支度を終えると一人、ベッドで考える。
このままでは一年なんてあっという間に経ってしまうのではないか。
(いや、それ以前に、私、このままじゃあのマーガレットに何かされるんじゃ……?)

あの凶悪な性格を考えると、杞憂では片付けられないような気がした。
せっかくジークベルトに殺されるという破滅的な展開を回避したのに、ゲーム中ではありえないヒロインに殺されるなんてエンドは絶対に避けたい。

そんな焦燥を覚えたその時、髪を優しく抓む感触にそっちを見る。
いつの間にか隣にいたジークベルトが、イザベラの髪を優しく手の中で弄んでいるところだった。

「じ、ジーク様、お風呂を上がられたんですね」

じっと見つめられる。
「な、何か?」
「どういうつもりで、あの女と俺を二人きりにさせたがる?」
「そ、そんなつもりは……」
「俺はおまえ以外の女に興味なんてないからな」

思いっきり釘を刺されてしまう。
「ですからそういう訳では……」
「そうか。俺の考え過ぎだというのならそれで構わない。それより、週末、二人ででかけたい。今日はお前の願いを聞いた。今度は俺の願いも聞いてくれ」

聞いてくれ。彼がそんな口調で話すことに驚く。
「ちなみにどちらへ行かれるのですか?」
「週末に冬至の祭りがあるらしい」

らしい、というのがいかにも、現実世界にあらゆる興味関心もない彼らしい言いぶりだ。
きっとサンチェスから聞いたのだろう。
冬至の祭りはいわゆるクリスマスをモデルにした、この世界の祭りだ。

彼の美しいウルフアイで見つめられながらお願いをされたら断られるはずがない。
「分かりました」
「決まりだな」

ジークベルトがさらっとあまりにも自然に、イザベラの頬に触れると、優しく口づける。
「っ! な……!?」

風呂上がりの肌に触れた彼の唇は、少しひんやりと冷たい。
「唇ではないから問題ないだろう」

ジークベルトは不敵に笑った。
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