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望むこと(ジークベルト視点)
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ジークベルトは皇宮の内庭で、レオポルドとお茶を飲んでいた。
「イザベル嬢との仲はどう?」
「殿下はずいぶん、俺たちのことを気にかけるのですね」
「当然だ。君が興味関心を持った相手だから。僕は、今の君のほうが好きだよ。活き活きしている。その様子だと、来月のパーティーは盛大なものになりそうだ。もし僕が協力できることがあれば、いつでも手を貸すよ。王室御用達の店も遠慮なく使ってくれ」
「……パーティー? 何のですか」
にこやかな笑みをたたえていたレオポルドが呆気に取られた顔をする。
「何って、イザベラ嬢の誕生日だよ。一月十日だ」
「! どうして殿下がそれを」
「少し調べれば分かることだからさ。別に隠してる訳じゃないんだから。もしかして知らなかったのか?」
「……はい」
ジークベルトは愕然としてしまう。
愛する女性だというのにそんなことさえ自分は知らなかった。
いや、調べようともしなかった。
これまで何に対する関心も抱いてこなかったせいだ。
相手から愛情を求めようとするくせに、相手を知ろうとすることを怠っていた。
「まあ、この時点で分かって良かった。今からでもプレゼントを選ぶ余裕もある」
「殿下、感謝します」
レオポルドは驚いた顔をする。
「どうかされましたか?」
「まさかお前から礼を言われる日が来るとは思わなかった。本当に変われば変わるものだね」
「……以前の俺はそんなにおかしかったのでしょうか」
「昔の自分がどうだったかなんて気にしなくていいよ。大切なのはこれからだから。自分のことには無関心でも、イザベラ嬢の為なら変われるだろう。それでいいのさ」
レオポルドは爽やかに 笑う。
これまでのジークベルトの人生で、自分から何かを望んだことなど一度もない。
そんなジークベルトが初めて望んだのが、イザベラからの愛情だった。
望み、手に入らないことがこんなにも苦しいことだなんて知らなかった。
イザベラから愛を求めるのならば、もっと変わらなければ。
ジークベルトはレオポルドと別れると馬車で、貴族御用達の店が建ち並ぶ通りで下りると宝飾品の店に入った。
「これは公爵様、いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか」
「妻へプレゼントを贈りたいんです」
都で公爵を知らぬ者は誰もいない。
すぐに奥の個室へ案内される。
「どのようなものをお出ししましょうか。イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット、さまざまございますが」
「こういうものには疎くてね」
「ではお薦めのものをいくつかお出ししますね」
「お願いします」
店員はテキパキと動き、すぐに運んでくる。
「石はご夫人の髪色や瞳の色に合わせたものをお持ちいたしました。何か、ご希望の石があれば、それでお作りすることもできます」
目の前のさまざまな宝飾品を眺めながら、イザベラがそれをつけている様子を想像してみる。
それだけで口元が自然と緩む。
「イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット、全てを。ただの既製品ではなく、全て一流の職人を使ったオリジナルで、一等級の宝石を使って欲しい」
「では、デザイン画ができましたら、お持ちいたします」
「いや。妻には秘密にしたいから遣いを送ってください。私がここで確認しますから」
「かしこまりました」
ジークベルトは宝飾店を出た。
一仕事をやり遂げたような満ち足りた気持ちになった。
屋敷に戻ったらすぐにサンチェスに来月の誕生日パーティーの準備を急いでさせよう。
大陸中から珍しい食材を集めさせ、豪勢な食事にする。
来客はいらない。
イザベルと二人きりだ。
それがいい。他の人間など存在する必要がない。
ジークベルトは心が浮き立つのを自覚した。
早く来月になればいい。
ついさっきまでイザベルの誕生日を知らなかったのに現金な自分に苦笑してしまう。
歩いている時も馬車に乗っている時もずっとイザベラのことを考える。
考えようと特別に意識している訳でもないのに。
早くイザベラに会いたい。
そして少し抵抗されながらも、抱きしめたかった。
どうしようもなく自分は、イザベラを愛している。まるで溺れているようだ。
屋敷に到着すると、サンチェスにイザベラがどこにいるのかを聞く。
「奥様でしたらお出かけになりました」
「どこへ?」
「お仕事のことだ」
「そうか」
その時、不意に口の中に痛みが走った。
(何だ?)
鉄錆の味が口に広がる。
唾を手の平に吐くと、血が混じっていた。
何もしていないのにありえないことだ。
次の瞬間、右脇腹に鋭い痛みを感じた。
一瞬、息ができなくなる。
(これは魂の枷の……)
これはジークベルトが受けているのではない。
イザベラが受けている傷だ。
ジークベルトは屋敷を飛び出した。
(魂の枷よ、俺をイザベラの元まで導いてくれっ!)
「イザベル嬢との仲はどう?」
「殿下はずいぶん、俺たちのことを気にかけるのですね」
「当然だ。君が興味関心を持った相手だから。僕は、今の君のほうが好きだよ。活き活きしている。その様子だと、来月のパーティーは盛大なものになりそうだ。もし僕が協力できることがあれば、いつでも手を貸すよ。王室御用達の店も遠慮なく使ってくれ」
「……パーティー? 何のですか」
にこやかな笑みをたたえていたレオポルドが呆気に取られた顔をする。
「何って、イザベラ嬢の誕生日だよ。一月十日だ」
「! どうして殿下がそれを」
「少し調べれば分かることだからさ。別に隠してる訳じゃないんだから。もしかして知らなかったのか?」
「……はい」
ジークベルトは愕然としてしまう。
愛する女性だというのにそんなことさえ自分は知らなかった。
いや、調べようともしなかった。
これまで何に対する関心も抱いてこなかったせいだ。
相手から愛情を求めようとするくせに、相手を知ろうとすることを怠っていた。
「まあ、この時点で分かって良かった。今からでもプレゼントを選ぶ余裕もある」
「殿下、感謝します」
レオポルドは驚いた顔をする。
「どうかされましたか?」
「まさかお前から礼を言われる日が来るとは思わなかった。本当に変われば変わるものだね」
「……以前の俺はそんなにおかしかったのでしょうか」
「昔の自分がどうだったかなんて気にしなくていいよ。大切なのはこれからだから。自分のことには無関心でも、イザベラ嬢の為なら変われるだろう。それでいいのさ」
レオポルドは爽やかに 笑う。
これまでのジークベルトの人生で、自分から何かを望んだことなど一度もない。
そんなジークベルトが初めて望んだのが、イザベラからの愛情だった。
望み、手に入らないことがこんなにも苦しいことだなんて知らなかった。
イザベラから愛を求めるのならば、もっと変わらなければ。
ジークベルトはレオポルドと別れると馬車で、貴族御用達の店が建ち並ぶ通りで下りると宝飾品の店に入った。
「これは公爵様、いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか」
「妻へプレゼントを贈りたいんです」
都で公爵を知らぬ者は誰もいない。
すぐに奥の個室へ案内される。
「どのようなものをお出ししましょうか。イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット、さまざまございますが」
「こういうものには疎くてね」
「ではお薦めのものをいくつかお出ししますね」
「お願いします」
店員はテキパキと動き、すぐに運んでくる。
「石はご夫人の髪色や瞳の色に合わせたものをお持ちいたしました。何か、ご希望の石があれば、それでお作りすることもできます」
目の前のさまざまな宝飾品を眺めながら、イザベラがそれをつけている様子を想像してみる。
それだけで口元が自然と緩む。
「イヤリング、ネックレス、指輪、ブレスレット、全てを。ただの既製品ではなく、全て一流の職人を使ったオリジナルで、一等級の宝石を使って欲しい」
「では、デザイン画ができましたら、お持ちいたします」
「いや。妻には秘密にしたいから遣いを送ってください。私がここで確認しますから」
「かしこまりました」
ジークベルトは宝飾店を出た。
一仕事をやり遂げたような満ち足りた気持ちになった。
屋敷に戻ったらすぐにサンチェスに来月の誕生日パーティーの準備を急いでさせよう。
大陸中から珍しい食材を集めさせ、豪勢な食事にする。
来客はいらない。
イザベルと二人きりだ。
それがいい。他の人間など存在する必要がない。
ジークベルトは心が浮き立つのを自覚した。
早く来月になればいい。
ついさっきまでイザベルの誕生日を知らなかったのに現金な自分に苦笑してしまう。
歩いている時も馬車に乗っている時もずっとイザベラのことを考える。
考えようと特別に意識している訳でもないのに。
早くイザベラに会いたい。
そして少し抵抗されながらも、抱きしめたかった。
どうしようもなく自分は、イザベラを愛している。まるで溺れているようだ。
屋敷に到着すると、サンチェスにイザベラがどこにいるのかを聞く。
「奥様でしたらお出かけになりました」
「どこへ?」
「お仕事のことだ」
「そうか」
その時、不意に口の中に痛みが走った。
(何だ?)
鉄錆の味が口に広がる。
唾を手の平に吐くと、血が混じっていた。
何もしていないのにありえないことだ。
次の瞬間、右脇腹に鋭い痛みを感じた。
一瞬、息ができなくなる。
(これは魂の枷の……)
これはジークベルトが受けているのではない。
イザベラが受けている傷だ。
ジークベルトは屋敷を飛び出した。
(魂の枷よ、俺をイザベラの元まで導いてくれっ!)
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