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前幕~パーティーが居酒屋店員になるまで~
前幕・1~窮地~
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ヴァリッサ洞窟に潜む巨獣を退治せよ。
シュマル王国・国立冒険者ギルドに一通の依頼が舞い込んだ。
退治に名乗りを上げたのは犬獣人の魔法使いをリーダーとするAランクパーティー『三匹の仔犬』。
パーティーは旅支度を済ませ、傭兵を雇って人員を補充すると、意気揚々と王都を出発した。
そう、よくある普通の依頼のはずだったのだ。
~シュマル王国・ヴァリッサ村近郊~
~ヴァリッサ洞窟・奥地の空洞~
竜人の巨躯が、巨獣に派手に吹き飛ばされる。
洞窟内の空洞は広く、遮蔽物のない戦いやすい空間だが、それゆえ吹き飛ばされると止まらない。
金属の鎧と岩が激突する派手な音に混じって、戦士のくぐもった声が空洞内にこだました。
「アンバス!!」
兎獣人の僧侶が吹き飛ばされた戦士に駆け寄る。遅れるようにして他の仲間も。
戦士――アンバスは派手に打ちのめされた身体をどうにか起こして、ゆるく頭を振った。
「畜生、痛ェ……骨の数本イったかと思ったぜ」
「生きているならいい。エティ、早急に回復だ。このままでは……」
アンバスの方に背を向けたまま、矢を放ち続けるエルフの弓兵の声を受け、僧侶――エティが回復魔法の術式を紡ぐ。
そうする間も巨獣は休んでくれない。弓兵の放つ矢を跳ね返さんばかりの勢いで、こちらに突進してきた。
意を決して弓兵の前に出て、僕は杖を構えた。
「止めるぞ!シフェール、下がれ!」
「待てマウロ!」
弓兵――シフェールの制止の声が飛ぶが、下がっている暇はない。
巨獣の姿を真正面に捉え、僕は吼えた。
『グアン・グラント・ヴァーラース、大地の城壁よ来たれ!!』
術式を紡ぎ、杖で地面を一突き。
たちまち巨岩がせりあがった。そのまま四方を囲まれ、巨獣の姿が見えなくなる。
岩の中から、巨獣が体当たりする音が絶えず聞こえている。狭い空間に閉じ込められ、勢いがつけられずにいるようだが、魔法も永続ではない。
「ヒューッ、マウロの魔法はやっぱすごいや!」
「油断するなよパスティータ、僕の魔法もいつまで持つか分からない。エティ、アンバスの回復は!?」
エルフの盗賊――パスティータの感嘆の声に鋭い口調で返しながら、僕――マウロは後ろを振り向いた。
ちょうどアンバスが巨体を起こすところだ、どうやら回復は完了したらしい。
「問題ない、痛みは治まってるぜ」
「よし、荷物はあるな!逃げるぞ!!」
僕が号令をかけたその次の瞬間には、全員揃って空洞の入口へと駆け出していた。
一人、また一人と空洞を出て、細い通路に飛び込んでいく。そして殿を務める僕がチラと後ろを振り返ると。
雄々しく咆哮を上げる巨獣が岩の隙間から頭を覗かせていた。
「破られたぞ、急げ!!」
そして僕たちパーティーは、文字通り尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
~前幕・2へ~
シュマル王国・国立冒険者ギルドに一通の依頼が舞い込んだ。
退治に名乗りを上げたのは犬獣人の魔法使いをリーダーとするAランクパーティー『三匹の仔犬』。
パーティーは旅支度を済ませ、傭兵を雇って人員を補充すると、意気揚々と王都を出発した。
そう、よくある普通の依頼のはずだったのだ。
~シュマル王国・ヴァリッサ村近郊~
~ヴァリッサ洞窟・奥地の空洞~
竜人の巨躯が、巨獣に派手に吹き飛ばされる。
洞窟内の空洞は広く、遮蔽物のない戦いやすい空間だが、それゆえ吹き飛ばされると止まらない。
金属の鎧と岩が激突する派手な音に混じって、戦士のくぐもった声が空洞内にこだました。
「アンバス!!」
兎獣人の僧侶が吹き飛ばされた戦士に駆け寄る。遅れるようにして他の仲間も。
戦士――アンバスは派手に打ちのめされた身体をどうにか起こして、ゆるく頭を振った。
「畜生、痛ェ……骨の数本イったかと思ったぜ」
「生きているならいい。エティ、早急に回復だ。このままでは……」
アンバスの方に背を向けたまま、矢を放ち続けるエルフの弓兵の声を受け、僧侶――エティが回復魔法の術式を紡ぐ。
そうする間も巨獣は休んでくれない。弓兵の放つ矢を跳ね返さんばかりの勢いで、こちらに突進してきた。
意を決して弓兵の前に出て、僕は杖を構えた。
「止めるぞ!シフェール、下がれ!」
「待てマウロ!」
弓兵――シフェールの制止の声が飛ぶが、下がっている暇はない。
巨獣の姿を真正面に捉え、僕は吼えた。
『グアン・グラント・ヴァーラース、大地の城壁よ来たれ!!』
術式を紡ぎ、杖で地面を一突き。
たちまち巨岩がせりあがった。そのまま四方を囲まれ、巨獣の姿が見えなくなる。
岩の中から、巨獣が体当たりする音が絶えず聞こえている。狭い空間に閉じ込められ、勢いがつけられずにいるようだが、魔法も永続ではない。
「ヒューッ、マウロの魔法はやっぱすごいや!」
「油断するなよパスティータ、僕の魔法もいつまで持つか分からない。エティ、アンバスの回復は!?」
エルフの盗賊――パスティータの感嘆の声に鋭い口調で返しながら、僕――マウロは後ろを振り向いた。
ちょうどアンバスが巨体を起こすところだ、どうやら回復は完了したらしい。
「問題ない、痛みは治まってるぜ」
「よし、荷物はあるな!逃げるぞ!!」
僕が号令をかけたその次の瞬間には、全員揃って空洞の入口へと駆け出していた。
一人、また一人と空洞を出て、細い通路に飛び込んでいく。そして殿を務める僕がチラと後ろを振り返ると。
雄々しく咆哮を上げる巨獣が岩の隙間から頭を覗かせていた。
「破られたぞ、急げ!!」
そして僕たちパーティーは、文字通り尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
~前幕・2へ~
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