異世界居酒屋「陽羽南」~異世界から人外が迷い込んできました~

八百十三

文字の大きさ
1 / 101
前幕~パーティーが居酒屋店員になるまで~

前幕・1~窮地~

しおりを挟む
 ヴァリッサ洞窟に潜む巨獣を退治せよ。
 シュマル王国・国立冒険者ギルドに一通の依頼が舞い込んだ。
 退治に名乗りを上げたのは犬獣人の魔法使いをリーダーとするAランクパーティー『三匹の仔犬トライピルツ』。
 パーティーは旅支度を済ませ、傭兵を雇って人員を補充すると、意気揚々と王都を出発した。

 そう、よくある普通の依頼のはずだったのだ。


~シュマル王国・ヴァリッサ村近郊~
~ヴァリッサ洞窟・奥地の空洞~


 竜人の巨躯が、巨獣に派手に吹き飛ばされる。
 洞窟内の空洞は広く、遮蔽物のない戦いやすい空間だが、それゆえ吹き飛ばされると止まらない。
 金属の鎧と岩が激突する派手な音に混じって、戦士のくぐもった声が空洞内にこだました。

「アンバス!!」

 兎獣人の僧侶が吹き飛ばされた戦士に駆け寄る。遅れるようにして他の仲間も。
 戦士――アンバスは派手に打ちのめされた身体をどうにか起こして、ゆるく頭を振った。

「畜生、痛ェ……骨の数本イったかと思ったぜ」
「生きているならいい。エティ、早急に回復だ。このままでは……」

 アンバスの方に背を向けたまま、矢を放ち続けるエルフの弓兵の声を受け、僧侶――エティが回復魔法の術式を紡ぐ。
 そうする間も巨獣は休んでくれない。弓兵の放つ矢を跳ね返さんばかりの勢いで、こちらに突進してきた。
 意を決して弓兵の前に出て、僕は杖を構えた。

「止めるぞ!シフェール、下がれ!」
「待てマウロ!」

 弓兵――シフェールの制止の声が飛ぶが、下がっている暇はない。
 巨獣の姿を真正面に捉え、僕は吼えた。

『グアン・グラント・ヴァーラース、大地の城壁よ来たれ!!』

 術式を紡ぎ、杖で地面を一突き。
 たちまち巨岩がせりあがった。そのまま四方を囲まれ、巨獣の姿が見えなくなる。
 岩の中から、巨獣が体当たりする音が絶えず聞こえている。狭い空間に閉じ込められ、勢いがつけられずにいるようだが、魔法も永続ではない。

「ヒューッ、マウロの魔法はやっぱすごいや!」
「油断するなよパスティータ、僕の魔法もいつまで持つか分からない。エティ、アンバスの回復は!?」

 エルフの盗賊――パスティータの感嘆の声に鋭い口調で返しながら、僕――マウロは後ろを振り向いた。
 ちょうどアンバスが巨体を起こすところだ、どうやら回復は完了したらしい。

「問題ない、痛みは治まってるぜ」
「よし、荷物はあるな!逃げるぞ!!」

 僕が号令をかけたその次の瞬間には、全員揃って空洞の入口へと駆け出していた。
 一人、また一人と空洞を出て、細い通路に飛び込んでいく。そして殿を務める僕がチラと後ろを振り返ると。
 雄々しく咆哮を上げる巨獣が岩の隙間から頭を覗かせていた。

「破られたぞ、急げ!!」

 そして僕たちパーティーは、文字通り尻尾を巻いて逃げ出したのだった。


~前幕・2へ~
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...