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第2章 ケモノ男子と古都観光
第21話 アータートン伯爵家の客人
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「Buna dimineata, doamna Sawa.」
「ブナ ディミニャーツァ」
翌朝。
ベッド備え付けのアラームで目を覚ました私が身支度を整えていると、昨日と同様にホテルの女性スタッフがドアをノックして朝の挨拶をしてくる。
今日はスムーズに応対できた。偉いぞ、私。
「Cazare a fost pana asazi. Check-out inainte de ora zece.」
「チェックアウト……オーラ、ゼチェ?」
スタッフの言葉に私は僅かに言葉に詰まった。
「チェックアウト」は分かる、そのままだ。「オーラ」は確か「~時」だったはず。つまりチェックアウトの時間は何時ですよ、と言っているのだ。
問題は、「ゼチェ」である。数字であることは間違いないのだが。
私はちょうど手元に持っていた懐中時計を開いて、スタッフに文字盤を見せた。
「えー……どの時間に、出ればいいですか?」
「Hm? Cand mana ceasului vine aici, este un check-out.」
日本語での質問になってしまったが、時計を出したことで意味は通じたらしい。スタッフが指さしたのは、10の文字だ。
「あー、ゼチェって10か……ウンツェレグ、ムルツメスク」
「Sunteti bineveniti. Micul dejun este ca de obicei.」
私がお礼を言うと、女性スタッフはにっこり笑って立ち去って行った。
ようやくというか、もうというか、二日間の宿泊を終えてチェックアウトのタイミングが来たわけだ。
連泊をお願いするのか、別のホテルを探すのか、あるいは別のどこかに泊まるのか。決めなくてはならないが、まずはやり取りをするためにパーシー君と合流しなくてはならない。
ふぅ、と息を吐きだした私は二日間お世話になった部屋の中に向き直った。荷物をまとめておかなくては。
そう思いつつ充電ケーブルに繋いだスマホを手に取って、はたと私は気が付いた。
「……そういえば、スマホの変換アダプタ、ホテルに返さなきゃだなぁ。これも買わないと」
思えばこのアダプタはホテルからの借り物だった。危ない危ない。
スマホに表示された時間は、一昨日の昼間を変わらず指している。少しだけ安堵して、私はほっと胸を撫でおろした。
昨日に購入したブラウスとスカートに着替えて、朝食を取るためにフロントに降りると、ちょうどパーシー君がホテルの中に入ってきたところだった。
馴染みになった顔に表情をほころばせる私を見て、パーシー君も嬉しそうに目を細めている。
「おはようございマス、サワさん」
「おはよう、パーシー君」
お互いに日本語で朝の挨拶をして、頭を下げて。こうしていると本当に、パック旅行に参加していて旅行会社のスタッフが迎えに来たかのようだ。
そんなパーシー君が、レストランの入り口の方へと身体を向けつつ私に視線を向ける。
「朝ご飯はこれからですヨネ? 今後の話もしたいノデ、ご一緒しまス」
「うん、ありがとう」
パーシー君の後についてレストランの中に入っていくと。
ちょうど料理を運び終えて戻るところだったのだろう、パメラちゃんが私達の前にやってきた。
「Frate! Minori! Buna dimineata!」
「Buna dimineata, Pamela. Aveti locuri disponibile?」
「Da, te voi ghida.」
パーシー君とドルテ語で会話したパメラちゃんが指し示したのは、比較的奥まったところにある2人掛けのテーブルだ。
パメラちゃんに頭を下げつつそこのテーブルに腰を下ろす。向かいの席に座ったパーシー君は、少々落ち着かない様子だが、どうしたのだろう。
「パーシー君、そんなにそわそわしてどうしたの?」
「イヤ……ここ、長耳族・短耳族の宿泊客に割り当てられるエリアなのデ、座るのが少し申し訳なくテ……
宿泊客はサワさんですシ、ボクはその付き添いですから、何の問題も無いと言えば、そうなのですケレド」
「私が宿泊客なんだから、そんなに気にしなくていいのに……」
おずおずとパーシー君に言われて周囲を見回すと、確かに長耳族や短耳族のお客さんが殆どだ。獣人族はパーシー君の他にはごく僅か。昨日の食事時よりも目立っている感じがある。
だとしても自分で言っている通り、このホテルの宿泊客は私で、パーシー君は私の付き添いなので、気にする必要はないと思うのだが。
「それにしても、パーシー君とパメラちゃんがドルテ語で話してるの、初めて聞いたかも。パメラちゃんも日本語は出来るんだよね?」
「ボク達一家ハ、家の中では日本語を話しますガ、外ではドルテ語を話すようにしているのデス。
獣人族で日本語を日常的に使う人ハ、ほぼいませんからネ。目立つのですヨ」
パーシー君曰く、お母さんは勿論、お父さんも日本語は日常会話なら問題ないそうで、家の中は日本語が飛び交っている状態なのだという。
パーシー君や彼のお父さんが働くギルドも、パメラちゃんが働くホテルも、職場環境的にドルテ語の読み書き会話は必須なため、自然とバイリンガルになったのだそうだ。
他にも、算数や四則演算の知識も、マー大公国の政治経済の知識もしっかり身についており、かなりちゃんとした教育をグロリアさんから施されていたのだとか。
流石は竜人族であるグロリアさんの薫陶を受けた人々。身分こそ高くないものの、教育水準がまるで違う。
そうしてパーシー君に家のことを話してもらっている中で、ふとパーシー君が目を見開いた。
「……あぁ、そうそう。家のことで思い出しましタ。サワさんの今後の宿泊先についてなんですケレド」
「うん?」
ソーセージを押さえていたフォークを軽く立てつつ話し始めるパーシー君に、スクランブルエッグを口へと運んでいた私が視線で先を促すと。
数瞬視線を下へと落としたパーシー君が、申し訳なさそうな表情で言葉を継いだ。
「その……サワさんヲ、ボク達レストン家の自宅ニ、お招きすることになりまシタ」
「……へ? パーシー君ちに?」
その発言に、私の目が大きく見開かれる。
グロリアさんのお屋敷に泊まるのでもなく、ホテルに連泊するのでもなく、まさかのパーシー君の家に泊まることになるとは。
予想外だ。というかその可能性を私の中で勝手に排除していた。
ごっくんと喉を鳴らしながらスクランブルエッグを飲み込んだ私に、パーシー君がゆるりと頷く。
「ハイ。ボク達は奥様のお屋敷からハ離れていますが、住んでいる場所そのものは伯爵家の直轄地なんデス。建屋も伯爵家の持ち物デス。
表向きはアータートン伯爵家ノ客人としてサワさんをお迎えして、寝起きする場所をボク達と一緒にスル、ということで決まったのデス……
アッ、大丈夫ですヨ、家の設備はフーグラーの一般家庭の範疇で整っていますシ、ちゃんとサワさんには個室をお貸ししますカラ。ベッドはホテルルのより小さいですケレド」
「まぁ……確かにパーシー君と寝食を共にするのが、一番面倒はないだろうけど……」
納得しながらバゲットに手を伸ばす私だ。
ホテル暮らしを続けるにしても、今朝のように部屋の周辺では私が応対する場面が出てきてしまうし、グロリアさんのお屋敷に泊まるとなると、場所が場所だけに息が詰まりそうだし、ヒューゴーの葬式から間を置いてない現状。ちょっと憚られる気もする。
その分、パーシー君の家ならパーシー君一家が全員日本語を喋れるし、伯爵家の敷地内だから下手なことも起こらないだろう。最適解な気がする。
バゲットにバターを塗りながらそう頭の中で整理していた私は、ふと先程のパーシー君の言葉を思い起こしてその手を止めた。
「……ってちょっと待って? アータートン伯爵家の客人? グロリアさんの客人じゃなく?」
「ハイ。アータートン伯爵家のお名前デお招きいただいていマス」
「つまり?」
「つまり……エート、そうですネ。サワさんは、フーグラー市ノinvitat de onoare……賓客ということになりマス」
言葉を選びながら話すパーシー君の発言に、私は思わず仰け反った。思わずバターナイフを取り落としそうになったくらいだ。
賓客。フーグラーの市長に、伯爵家に招かれた、賓客。何がどうしてそうなった。私はただの日本からの旅行者のはずなのに。
「うっそだぁー。私、ただ迷い込んできただけなのにー」
「ただ、奥様がサワさんを気にかけていらっしゃるのも事実ですからネ……
市のギルド職員であるボクが通訳に付いている都合上、市長である伯爵閣下としても、もてなさないわけニハいかないのでショウ。
マァ、昨日あんなことをサワさんに仰った手前、絶対に素直に歓迎はしないことと思いますガ」
そう苦笑しつつ言いながら、切り分けたソーセージをパーシー君は口に運ぶ。
まぁ、そうだろう。「パーシー君よりも優れた通訳を、我が家に来たらつけてやる」だなんて宣ったあのブレンドン閣下だ。パーシー君より優れた通訳がいないにも関わらずである。どの口がそう言うのか。
とはいえ、相手はこのフーグラー市の市長。接する機会があるというなら、ちゃんと挨拶はした方がよさそうなのは間違いない。
ソーセージを咀嚼して飲み込み、丁寧な所作でバゲットにバターを塗るパーシー君が、仄かに笑みを浮かべつつ私を見やった。
「ともあれ、チェックアウトしましたラ、一度レーマン通りにあるボクの家にご案内しマス。
服などの荷物をお部屋に置いてカラ、バックハウス通りの奥様のお屋敷に向かいまショウ。
奥様ト奥様のご子息様ト、合流する手はずになっていマス」
表面をカリッと焼き上げられたバゲットをかじるパーシー君に、同じようにバゲットを食んだ私が首を傾げる。
グロリアさんは昨日に話をした際、「案内する」とは言っていたけれど、グロリアさんの息子さんとも合流するとは知らなかった。
「ご子息様……息子さんも? なんで?」
「サワさんの護衛と、社会勉強を兼ねテ、だそうですヨ。サワさんがフーグラーを離れることがある場合に備えテ、とも言っていまシタ。
大丈夫デス、奥様並みに日本語が堪能デ、性根が穏やかな方ですカラ」
「ふーん……あ、それとパーシー君、どっかの早いタイミングでベンさんのお店寄りたいんだけど」
「フム、いいですヨ。ボクの家に向かう前にでも寄りまショウ。通りがかりにありますノデ」
そうして話しながら食事を進め、パメラちゃんがお茶を持ってきたところでも少し話をして。
私はパーシー君の手を借りながら、ホテルをチェックアウトする手続きを済ませ、宿泊費の8アルギンをお支払い。
二日間お世話になった「ホテルル・サルカム」を後にしたのだった。
「ブナ ディミニャーツァ」
翌朝。
ベッド備え付けのアラームで目を覚ました私が身支度を整えていると、昨日と同様にホテルの女性スタッフがドアをノックして朝の挨拶をしてくる。
今日はスムーズに応対できた。偉いぞ、私。
「Cazare a fost pana asazi. Check-out inainte de ora zece.」
「チェックアウト……オーラ、ゼチェ?」
スタッフの言葉に私は僅かに言葉に詰まった。
「チェックアウト」は分かる、そのままだ。「オーラ」は確か「~時」だったはず。つまりチェックアウトの時間は何時ですよ、と言っているのだ。
問題は、「ゼチェ」である。数字であることは間違いないのだが。
私はちょうど手元に持っていた懐中時計を開いて、スタッフに文字盤を見せた。
「えー……どの時間に、出ればいいですか?」
「Hm? Cand mana ceasului vine aici, este un check-out.」
日本語での質問になってしまったが、時計を出したことで意味は通じたらしい。スタッフが指さしたのは、10の文字だ。
「あー、ゼチェって10か……ウンツェレグ、ムルツメスク」
「Sunteti bineveniti. Micul dejun este ca de obicei.」
私がお礼を言うと、女性スタッフはにっこり笑って立ち去って行った。
ようやくというか、もうというか、二日間の宿泊を終えてチェックアウトのタイミングが来たわけだ。
連泊をお願いするのか、別のホテルを探すのか、あるいは別のどこかに泊まるのか。決めなくてはならないが、まずはやり取りをするためにパーシー君と合流しなくてはならない。
ふぅ、と息を吐きだした私は二日間お世話になった部屋の中に向き直った。荷物をまとめておかなくては。
そう思いつつ充電ケーブルに繋いだスマホを手に取って、はたと私は気が付いた。
「……そういえば、スマホの変換アダプタ、ホテルに返さなきゃだなぁ。これも買わないと」
思えばこのアダプタはホテルからの借り物だった。危ない危ない。
スマホに表示された時間は、一昨日の昼間を変わらず指している。少しだけ安堵して、私はほっと胸を撫でおろした。
昨日に購入したブラウスとスカートに着替えて、朝食を取るためにフロントに降りると、ちょうどパーシー君がホテルの中に入ってきたところだった。
馴染みになった顔に表情をほころばせる私を見て、パーシー君も嬉しそうに目を細めている。
「おはようございマス、サワさん」
「おはよう、パーシー君」
お互いに日本語で朝の挨拶をして、頭を下げて。こうしていると本当に、パック旅行に参加していて旅行会社のスタッフが迎えに来たかのようだ。
そんなパーシー君が、レストランの入り口の方へと身体を向けつつ私に視線を向ける。
「朝ご飯はこれからですヨネ? 今後の話もしたいノデ、ご一緒しまス」
「うん、ありがとう」
パーシー君の後についてレストランの中に入っていくと。
ちょうど料理を運び終えて戻るところだったのだろう、パメラちゃんが私達の前にやってきた。
「Frate! Minori! Buna dimineata!」
「Buna dimineata, Pamela. Aveti locuri disponibile?」
「Da, te voi ghida.」
パーシー君とドルテ語で会話したパメラちゃんが指し示したのは、比較的奥まったところにある2人掛けのテーブルだ。
パメラちゃんに頭を下げつつそこのテーブルに腰を下ろす。向かいの席に座ったパーシー君は、少々落ち着かない様子だが、どうしたのだろう。
「パーシー君、そんなにそわそわしてどうしたの?」
「イヤ……ここ、長耳族・短耳族の宿泊客に割り当てられるエリアなのデ、座るのが少し申し訳なくテ……
宿泊客はサワさんですシ、ボクはその付き添いですから、何の問題も無いと言えば、そうなのですケレド」
「私が宿泊客なんだから、そんなに気にしなくていいのに……」
おずおずとパーシー君に言われて周囲を見回すと、確かに長耳族や短耳族のお客さんが殆どだ。獣人族はパーシー君の他にはごく僅か。昨日の食事時よりも目立っている感じがある。
だとしても自分で言っている通り、このホテルの宿泊客は私で、パーシー君は私の付き添いなので、気にする必要はないと思うのだが。
「それにしても、パーシー君とパメラちゃんがドルテ語で話してるの、初めて聞いたかも。パメラちゃんも日本語は出来るんだよね?」
「ボク達一家ハ、家の中では日本語を話しますガ、外ではドルテ語を話すようにしているのデス。
獣人族で日本語を日常的に使う人ハ、ほぼいませんからネ。目立つのですヨ」
パーシー君曰く、お母さんは勿論、お父さんも日本語は日常会話なら問題ないそうで、家の中は日本語が飛び交っている状態なのだという。
パーシー君や彼のお父さんが働くギルドも、パメラちゃんが働くホテルも、職場環境的にドルテ語の読み書き会話は必須なため、自然とバイリンガルになったのだそうだ。
他にも、算数や四則演算の知識も、マー大公国の政治経済の知識もしっかり身についており、かなりちゃんとした教育をグロリアさんから施されていたのだとか。
流石は竜人族であるグロリアさんの薫陶を受けた人々。身分こそ高くないものの、教育水準がまるで違う。
そうしてパーシー君に家のことを話してもらっている中で、ふとパーシー君が目を見開いた。
「……あぁ、そうそう。家のことで思い出しましタ。サワさんの今後の宿泊先についてなんですケレド」
「うん?」
ソーセージを押さえていたフォークを軽く立てつつ話し始めるパーシー君に、スクランブルエッグを口へと運んでいた私が視線で先を促すと。
数瞬視線を下へと落としたパーシー君が、申し訳なさそうな表情で言葉を継いだ。
「その……サワさんヲ、ボク達レストン家の自宅ニ、お招きすることになりまシタ」
「……へ? パーシー君ちに?」
その発言に、私の目が大きく見開かれる。
グロリアさんのお屋敷に泊まるのでもなく、ホテルに連泊するのでもなく、まさかのパーシー君の家に泊まることになるとは。
予想外だ。というかその可能性を私の中で勝手に排除していた。
ごっくんと喉を鳴らしながらスクランブルエッグを飲み込んだ私に、パーシー君がゆるりと頷く。
「ハイ。ボク達は奥様のお屋敷からハ離れていますが、住んでいる場所そのものは伯爵家の直轄地なんデス。建屋も伯爵家の持ち物デス。
表向きはアータートン伯爵家ノ客人としてサワさんをお迎えして、寝起きする場所をボク達と一緒にスル、ということで決まったのデス……
アッ、大丈夫ですヨ、家の設備はフーグラーの一般家庭の範疇で整っていますシ、ちゃんとサワさんには個室をお貸ししますカラ。ベッドはホテルルのより小さいですケレド」
「まぁ……確かにパーシー君と寝食を共にするのが、一番面倒はないだろうけど……」
納得しながらバゲットに手を伸ばす私だ。
ホテル暮らしを続けるにしても、今朝のように部屋の周辺では私が応対する場面が出てきてしまうし、グロリアさんのお屋敷に泊まるとなると、場所が場所だけに息が詰まりそうだし、ヒューゴーの葬式から間を置いてない現状。ちょっと憚られる気もする。
その分、パーシー君の家ならパーシー君一家が全員日本語を喋れるし、伯爵家の敷地内だから下手なことも起こらないだろう。最適解な気がする。
バゲットにバターを塗りながらそう頭の中で整理していた私は、ふと先程のパーシー君の言葉を思い起こしてその手を止めた。
「……ってちょっと待って? アータートン伯爵家の客人? グロリアさんの客人じゃなく?」
「ハイ。アータートン伯爵家のお名前デお招きいただいていマス」
「つまり?」
「つまり……エート、そうですネ。サワさんは、フーグラー市ノinvitat de onoare……賓客ということになりマス」
言葉を選びながら話すパーシー君の発言に、私は思わず仰け反った。思わずバターナイフを取り落としそうになったくらいだ。
賓客。フーグラーの市長に、伯爵家に招かれた、賓客。何がどうしてそうなった。私はただの日本からの旅行者のはずなのに。
「うっそだぁー。私、ただ迷い込んできただけなのにー」
「ただ、奥様がサワさんを気にかけていらっしゃるのも事実ですからネ……
市のギルド職員であるボクが通訳に付いている都合上、市長である伯爵閣下としても、もてなさないわけニハいかないのでショウ。
マァ、昨日あんなことをサワさんに仰った手前、絶対に素直に歓迎はしないことと思いますガ」
そう苦笑しつつ言いながら、切り分けたソーセージをパーシー君は口に運ぶ。
まぁ、そうだろう。「パーシー君よりも優れた通訳を、我が家に来たらつけてやる」だなんて宣ったあのブレンドン閣下だ。パーシー君より優れた通訳がいないにも関わらずである。どの口がそう言うのか。
とはいえ、相手はこのフーグラー市の市長。接する機会があるというなら、ちゃんと挨拶はした方がよさそうなのは間違いない。
ソーセージを咀嚼して飲み込み、丁寧な所作でバゲットにバターを塗るパーシー君が、仄かに笑みを浮かべつつ私を見やった。
「ともあれ、チェックアウトしましたラ、一度レーマン通りにあるボクの家にご案内しマス。
服などの荷物をお部屋に置いてカラ、バックハウス通りの奥様のお屋敷に向かいまショウ。
奥様ト奥様のご子息様ト、合流する手はずになっていマス」
表面をカリッと焼き上げられたバゲットをかじるパーシー君に、同じようにバゲットを食んだ私が首を傾げる。
グロリアさんは昨日に話をした際、「案内する」とは言っていたけれど、グロリアさんの息子さんとも合流するとは知らなかった。
「ご子息様……息子さんも? なんで?」
「サワさんの護衛と、社会勉強を兼ねテ、だそうですヨ。サワさんがフーグラーを離れることがある場合に備えテ、とも言っていまシタ。
大丈夫デス、奥様並みに日本語が堪能デ、性根が穏やかな方ですカラ」
「ふーん……あ、それとパーシー君、どっかの早いタイミングでベンさんのお店寄りたいんだけど」
「フム、いいですヨ。ボクの家に向かう前にでも寄りまショウ。通りがかりにありますノデ」
そうして話しながら食事を進め、パメラちゃんがお茶を持ってきたところでも少し話をして。
私はパーシー君の手を借りながら、ホテルをチェックアウトする手続きを済ませ、宿泊費の8アルギンをお支払い。
二日間お世話になった「ホテルル・サルカム」を後にしたのだった。
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