上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第16話(1) 適任

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                  参

「失礼します。遅くなりました」

 勇次が敬礼して隊長室に入る。そこには既に万夜もいた。

「来たか……!」

「きゃっ⁉」

 勇次の顔を見るなり、御剣と万夜が一瞬驚く。

「どうかしましたか?」

「い、いや、貴様の顔、何だか腫れていないか?」

「気のせいです」

「気のせいではないと思うが……」

「気にしないで下さい」

「気にするなと言われてもな……」

「うっかり武枝隊の副隊長さんの胸を触ってしまって、思わずニヤついてた所に千景から思いっきりビンタを喰らったとは言えない……」

「口に出しているぞ」

「はっ!」

「はっ!じゃない。全く何をやっているのだ……」

 御剣が呆れ顔になる。

「破廉恥ぶりは相変わらずですわね……」

 万夜がため息をつく。

「いや、相変わらずって」

「そういえば、武枝隊の副隊長……火場から貴様宛に荷物が届いていたぞ」

「え? 俺宛にですか?」

「ああ、これだ」

 御剣が可愛くラッピングされた小さい箱を机の上に置く。

「こ、これは……?」

「どうやら中身はプロテインらしい」

「プ、プロテイン? なんでまた?」

「さあな、そんなことまでは知らん」

「むしろ何ですの? その可愛らしいラッピングは……」

 万夜が訝し気な表情になる。対照的に御剣は微笑を浮かべる。

「少なくとも、好ましく思われているのではないか」

「そ、そうなんですか……」

 勇次が戸惑い気味に笑う。万夜が唇を尖らせる。

「……なんだか面白くありませんわね」

「そう言うな、両隊の交流が深まるのは望ましいことだ」

「それはそうかもしれませんが……」

「と、ところで、俺が呼び出されたのは一体?」

 勇次が話題を変えるように御剣に尋ねる。

「そうだったな。万夜には先に話をしていた。続け様になって申し訳ないのだが……」

「もしかして……」

「ああ、そうだ。貴様には万夜の任務に同行してもらいたい」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」

 万夜が慌てたように声を上げる。御剣が首を傾げる。

「どうした?」

「どうしたもこうしたもありません! 何故に勇次様なのですか⁉」

「無論、貴様のことを信用していないわけではないが、一人ではなかなか厄介そうな任務だと思ったのでな……」

「だ、だからと言って……!」

「千景や億葉には悪いが、あいつらは適任とは言い難い」

「では隊長は!」

「私もあまり適任ではないだろう……別の用事もあるのでな」

「むう……そ、それでは愛さんは⁉」

「愛には別件を頼んである。今は不在だ」

「な、なんと……」

 万夜が天を仰ぐ。

「そこで、勇次の出番だ」

「いや、そうはならないでしょう! もっとも不適任ですわ!」

「おい、聞き捨てならないな……」

 万夜の言葉に勇次がムッとする。

「勇次様……」

「俺も妖絶講に入って、数か月が経った。これまでそれなりの経験を積んできたつもりだ。厳しい訓練だってこなしている」

「い、いいえ、別に力量不足の話をしているわけではないのです」

「足を引っ張るような真似はしない! 必ず役に立ってみせる!」

「うむ! その意気込みやよし!」

 御剣が勇次の言葉に満足そうに頷く。

「全然よくありません!」

「……心配するな、万夜。貴様の懸念していることに関してはちゃんと対応してある」

「……本当ですか?」

 万夜は疑いの眼差しを御剣に向ける。

「ああ、信用してくれ。しっかりと手配してある」

「もう手配済みなのですか……仕方がありませんね。時間もありません、わたくしは先に現地に向かっております。合流は明朝でよろしくお願いします。それでは失礼します」

 万夜が敬礼して、部屋を出ていく。御剣が勇次に告げる。

「今回の任務は……そうだな“粘り強さ”に関しての成長を期待したい」

「粘り強さですか……」

「そうだ、それでは任務の説明に入る……」

「……ここまででよろしいのですか?」

「ええ、今朝はちょっと歩きたい気分なので」

「かしこまりました。お気を付けて、いってらっしゃいませ」

「行ってまいります」

 翌朝、長野県のとある山中で高級車から降りてきたのは真白な制服に身を包んだ万夜であった。万夜は自らの通う学校に続くゆるやかな坂道を優雅な足取りで登る。

「おはようございます!」

「おはようございます。ご苦労様です」

「ありがとうございます!」

 立派な造りの校門近くで万夜は警備員に丁寧に挨拶する。

「風紀委員長様、ごきげんよう」

「苦竹さん、ごきげんよう」

 校門前で『風紀委員』と書かれた腕章を付けた見るからに真面目そうな生徒と挨拶をかわし、万夜は校舎に入る。そこから慣れた足取りで自らのクラスの教室に入る。

「皆様、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 クラスメイトに挨拶すると、万夜は自分の席につき、考えを巡らす。

(学校周辺にも怪しい気配は感じませんでしたわ……。まあ活動を活発化させるとしたら放課後の時間帯が最も可能性が高いのでしょうけど……出来ればそれまでに大体の見当はつけておきたいところですわね……)

「苦竹さん?」

「は、はい! なんでしょうか⁉」

 考えていたところに話しかけてきた前の席に座る女子に対し、万夜が慌てて答える。

「久しぶりにご登校されましたが、お体の方は大丈夫なのですか?」

「あ、ああ……ちょっと体調を崩しておりましたがもう大丈夫ですわ」

「それは良かったですわ。ああ、先生がいらっしゃったわ」

「それではホームルームを始めます……皆様に転校生を紹介します。入ってきて下さい」

「……ご、ごきげんよう。転校生の鬼ヶ島勇子です……」

「んなっ⁉」

 驚いた万夜が頭を机に勢いよく打ちつける。
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