64 / 123
第二章
第16話(2) ギリギリで生きていたいから
しおりを挟む
「? だ、大丈夫ですか、苦竹さん?」
担任の教師や周囲の生徒が心配そうに万夜を見る。
「し、失礼しました、ちょっと頭を滑らせただけです……」
「ふ、不思議な所を滑らせるのですね……ああ、鬼ヶ島さん、貴方の席はあそこです」
「は、はい」
裏返った声で返事した勇次が席につく。
「……鬼ヶ島さん、先生がお呼びですわ」
ホームルーム後、転校生にとって恒例である周囲の生徒からの質問責めにあっている勇次を万夜が言葉巧みに連れ出す。人気のない場所まで来て万夜が口を開く。
「……どういうことですの⁉」
「……こういうことだ」
勇次は低音ボイスで答える。
「姉様が言っていた手配ってそういうことですの⁉」
「学籍などは完璧に偽造してあるからバレる心配はないそうだ」
「外見でバレますわよ!」
万夜がパツンパツンの制服姿に身を包んだ勇次を指差す。
「え……ギリギリセーフじゃないか?」
「じゃないですわ。そもそもギリギリの時点でアウトなのですから」
「……結構な生徒数だし、一人位こういう奴がいても問題ないだろう?」
「問題ですわ……良いですか、勇次様。この学校はいわゆるお嬢様学校なのです」
万夜が両手を大袈裟に広げて話す。
「ああ、分かっている。その点に関しては俺も心配していたんだが、隊長が『ある意味適任だな』とおっしゃって……」
「どこが適任なのですか⁉」
「それは分からないが隊長が言うからには間違いない」
「なんなのですか、その隊長への全幅の信頼は……」
万夜が呆れた様子で呟く。
「万夜、これはあくまでも潜入捜査だからな」
「はあ……」
「要は目立たなければ良いんだ」
「もうかなり目立っていますわ……」
万夜はため息交じりで教室に戻ろうとする。
「あ、認めてくれるんだな」
「……相手の気を引いてくれれば、こちらもそれだけ動きやすいというもの……今日一日よろしくお願いしますわ」
「あ、潜入捜査は今日から5日間の予定だそうだ」
万夜は廊下の壁にドンと頭を打ちつける。
「い、5日間……別の意味で根絶されそうですわね……」
今後の学校生活、お嬢様学園には相応しくないマッチョな女装男性をフォローしつつ、自身の任務を遂行するのはかなり骨が折れる。万夜が暗澹たる気持ちで教室に戻る。
「……ふう、ここまではなんとかなっているな」
授業を三限目まで終えた勇次は小声で呟く。傍らに立つ万夜が応える。
「まあ、転校生には学校の雰囲気に慣れてもらうのが先でしょうから、教師の皆さんも無闇に当ててこなくて助かりましたね。教科書を朗読しなさいなんて言われたら、どうしようかとハラハラしていましたわ」
「この問いに答えなさいとかならともかく、朗読なら問題ないと思うが?」
「問題大ありですわ。終始裏声で英語の長文を朗読されたときには大騒ぎですわよ」
「そうかな? ……次は体育か」
「更衣室は女子のしかありませんから、皆が出た後にお使い下さい。出入り口はわたくしが見張っておきますから」
「それはすまない」
「……皆さん着替え終えましたね。それでは勇次さん、どうぞ」
更衣室を確認し、万夜は勇次を中に促す。
「今は勇子だ」
「どちらでもよろしいですから、早く着替えて下さい。もう時間がありません」
「し、しっかり見張っていてくれよ……」
「はいはい……これでは調査どころではありませんわ……」
万夜が更衣室のドアにもたれながらため息をつく。ジャージに着替えた二人は体育の授業に臨む。体育教師が生徒たちに声をかける。
「……よし! 今日はA組とB組による宿命のバレーボール対決を行う!」
「うおおおっ!」
生徒から雄叫びが上がる。勇次が小声で驚く。
「お、お嬢様学校じゃなかったのか?」
「勝者には豪華賞品だ……『学食一か月割引券』!」
「ふおおおっ!」
「『絶対に負けられない戦い』がここにはある!」
「くおおおっ!」
「教師が煽ってどうするのですか……」
万夜が頭を抱える。
「よし! それでは各自準備しろ!」
「苦竹さん!」
如何にも勝気そうな女子が位置につこうとしていた万夜に声をかける。
「……なんでしょうか」
「これまで我がA組は貴女たちB組に対して苦杯を舐め続けてきましたが……その負の歴史も今日でおしまいです!」
「随分と大げさな物言いですわね……」
「どうやらそちらも強力そうな新戦力を加えたようですね!」
勝気な女子が勇子(勇次)を指し示す。万夜がため息交じりで答える。
「新戦力って、単なる転校生ですわよ……って、そちらもですって?」
「そう! こちらには強力な新戦力が加わりました! さあどうぞ、林葉さん!」
「⁉」
左目に眼帯を付けたさほど長身ではないが細身でスラッとした体格の女性が姿を現す。
「初めまして……林葉笑美と申します……」
女性は丁寧に頭を下げる。オフホワイト色のセミロングの髪がかすかに揺れる。
「ちょ、ちょっと待った!」
万夜が声を上げる。勝気な女子が少し驚く。
「ど、どうしたのですか? 苦竹さん?」
「失礼! 林葉さん? こちらに! 勇次様も!」
「……」
「ああ、もう! 勇子さんもこちらにいらっしゃって!」
万夜は二人を体育館の隅に呼び寄せる。
「あ、貴女、見覚えがありますわ、武枝隊の方でしょう⁉ お名前は……そう、林根笑冬(はやしねえとう)さん! 何故こんな所にいるのです⁉」
林根と言われた女性は考え込むとかすかに電子音声が流れる。
『……極力目立つのを回避する為、上杉山隊との合流はぎりぎりまで遅らせるべきと判断。ここでの素直な肯定はベストとは言い難い……』
間を置いて女性が答える。
「……いいえ、私はごくごく普通の女子高生、林葉笑美です」
「ごくごく普通の女子高生はかすかに電子音声を流さないのですよ!」
「その眼帯には俺も……アテクシも見覚えがあるかと思ったんですが、他人の空似か、気のせいだったぜ……だっただすわよ」
勇子の呟きに万夜が突っ込む。
「こんな他人が居てたまりますか! 後、口調を無理やりお嬢様に寄せないで下さい!」
「そろそろ試合が始まりますので……失礼します」
林根が金属音をギシギシと鳴らしながら、自らのチームに合流する。
「もう十分過ぎるほど目立っていますわよ……」
万夜が頭を抱える。
担任の教師や周囲の生徒が心配そうに万夜を見る。
「し、失礼しました、ちょっと頭を滑らせただけです……」
「ふ、不思議な所を滑らせるのですね……ああ、鬼ヶ島さん、貴方の席はあそこです」
「は、はい」
裏返った声で返事した勇次が席につく。
「……鬼ヶ島さん、先生がお呼びですわ」
ホームルーム後、転校生にとって恒例である周囲の生徒からの質問責めにあっている勇次を万夜が言葉巧みに連れ出す。人気のない場所まで来て万夜が口を開く。
「……どういうことですの⁉」
「……こういうことだ」
勇次は低音ボイスで答える。
「姉様が言っていた手配ってそういうことですの⁉」
「学籍などは完璧に偽造してあるからバレる心配はないそうだ」
「外見でバレますわよ!」
万夜がパツンパツンの制服姿に身を包んだ勇次を指差す。
「え……ギリギリセーフじゃないか?」
「じゃないですわ。そもそもギリギリの時点でアウトなのですから」
「……結構な生徒数だし、一人位こういう奴がいても問題ないだろう?」
「問題ですわ……良いですか、勇次様。この学校はいわゆるお嬢様学校なのです」
万夜が両手を大袈裟に広げて話す。
「ああ、分かっている。その点に関しては俺も心配していたんだが、隊長が『ある意味適任だな』とおっしゃって……」
「どこが適任なのですか⁉」
「それは分からないが隊長が言うからには間違いない」
「なんなのですか、その隊長への全幅の信頼は……」
万夜が呆れた様子で呟く。
「万夜、これはあくまでも潜入捜査だからな」
「はあ……」
「要は目立たなければ良いんだ」
「もうかなり目立っていますわ……」
万夜はため息交じりで教室に戻ろうとする。
「あ、認めてくれるんだな」
「……相手の気を引いてくれれば、こちらもそれだけ動きやすいというもの……今日一日よろしくお願いしますわ」
「あ、潜入捜査は今日から5日間の予定だそうだ」
万夜は廊下の壁にドンと頭を打ちつける。
「い、5日間……別の意味で根絶されそうですわね……」
今後の学校生活、お嬢様学園には相応しくないマッチョな女装男性をフォローしつつ、自身の任務を遂行するのはかなり骨が折れる。万夜が暗澹たる気持ちで教室に戻る。
「……ふう、ここまではなんとかなっているな」
授業を三限目まで終えた勇次は小声で呟く。傍らに立つ万夜が応える。
「まあ、転校生には学校の雰囲気に慣れてもらうのが先でしょうから、教師の皆さんも無闇に当ててこなくて助かりましたね。教科書を朗読しなさいなんて言われたら、どうしようかとハラハラしていましたわ」
「この問いに答えなさいとかならともかく、朗読なら問題ないと思うが?」
「問題大ありですわ。終始裏声で英語の長文を朗読されたときには大騒ぎですわよ」
「そうかな? ……次は体育か」
「更衣室は女子のしかありませんから、皆が出た後にお使い下さい。出入り口はわたくしが見張っておきますから」
「それはすまない」
「……皆さん着替え終えましたね。それでは勇次さん、どうぞ」
更衣室を確認し、万夜は勇次を中に促す。
「今は勇子だ」
「どちらでもよろしいですから、早く着替えて下さい。もう時間がありません」
「し、しっかり見張っていてくれよ……」
「はいはい……これでは調査どころではありませんわ……」
万夜が更衣室のドアにもたれながらため息をつく。ジャージに着替えた二人は体育の授業に臨む。体育教師が生徒たちに声をかける。
「……よし! 今日はA組とB組による宿命のバレーボール対決を行う!」
「うおおおっ!」
生徒から雄叫びが上がる。勇次が小声で驚く。
「お、お嬢様学校じゃなかったのか?」
「勝者には豪華賞品だ……『学食一か月割引券』!」
「ふおおおっ!」
「『絶対に負けられない戦い』がここにはある!」
「くおおおっ!」
「教師が煽ってどうするのですか……」
万夜が頭を抱える。
「よし! それでは各自準備しろ!」
「苦竹さん!」
如何にも勝気そうな女子が位置につこうとしていた万夜に声をかける。
「……なんでしょうか」
「これまで我がA組は貴女たちB組に対して苦杯を舐め続けてきましたが……その負の歴史も今日でおしまいです!」
「随分と大げさな物言いですわね……」
「どうやらそちらも強力そうな新戦力を加えたようですね!」
勝気な女子が勇子(勇次)を指し示す。万夜がため息交じりで答える。
「新戦力って、単なる転校生ですわよ……って、そちらもですって?」
「そう! こちらには強力な新戦力が加わりました! さあどうぞ、林葉さん!」
「⁉」
左目に眼帯を付けたさほど長身ではないが細身でスラッとした体格の女性が姿を現す。
「初めまして……林葉笑美と申します……」
女性は丁寧に頭を下げる。オフホワイト色のセミロングの髪がかすかに揺れる。
「ちょ、ちょっと待った!」
万夜が声を上げる。勝気な女子が少し驚く。
「ど、どうしたのですか? 苦竹さん?」
「失礼! 林葉さん? こちらに! 勇次様も!」
「……」
「ああ、もう! 勇子さんもこちらにいらっしゃって!」
万夜は二人を体育館の隅に呼び寄せる。
「あ、貴女、見覚えがありますわ、武枝隊の方でしょう⁉ お名前は……そう、林根笑冬(はやしねえとう)さん! 何故こんな所にいるのです⁉」
林根と言われた女性は考え込むとかすかに電子音声が流れる。
『……極力目立つのを回避する為、上杉山隊との合流はぎりぎりまで遅らせるべきと判断。ここでの素直な肯定はベストとは言い難い……』
間を置いて女性が答える。
「……いいえ、私はごくごく普通の女子高生、林葉笑美です」
「ごくごく普通の女子高生はかすかに電子音声を流さないのですよ!」
「その眼帯には俺も……アテクシも見覚えがあるかと思ったんですが、他人の空似か、気のせいだったぜ……だっただすわよ」
勇子の呟きに万夜が突っ込む。
「こんな他人が居てたまりますか! 後、口調を無理やりお嬢様に寄せないで下さい!」
「そろそろ試合が始まりますので……失礼します」
林根が金属音をギシギシと鳴らしながら、自らのチームに合流する。
「もう十分過ぎるほど目立っていますわよ……」
万夜が頭を抱える。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる