63 / 123
第二章
第16話(1) 適任
しおりを挟む
参
「失礼します。遅くなりました」
勇次が敬礼して隊長室に入る。そこには既に万夜もいた。
「来たか……!」
「きゃっ⁉」
勇次の顔を見るなり、御剣と万夜が一瞬驚く。
「どうかしましたか?」
「い、いや、貴様の顔、何だか腫れていないか?」
「気のせいです」
「気のせいではないと思うが……」
「気にしないで下さい」
「気にするなと言われてもな……」
「うっかり武枝隊の副隊長さんの胸を触ってしまって、思わずニヤついてた所に千景から思いっきりビンタを喰らったとは言えない……」
「口に出しているぞ」
「はっ!」
「はっ!じゃない。全く何をやっているのだ……」
御剣が呆れ顔になる。
「破廉恥ぶりは相変わらずですわね……」
万夜がため息をつく。
「いや、相変わらずって」
「そういえば、武枝隊の副隊長……火場から貴様宛に荷物が届いていたぞ」
「え? 俺宛にですか?」
「ああ、これだ」
御剣が可愛くラッピングされた小さい箱を机の上に置く。
「こ、これは……?」
「どうやら中身はプロテインらしい」
「プ、プロテイン? なんでまた?」
「さあな、そんなことまでは知らん」
「むしろ何ですの? その可愛らしいラッピングは……」
万夜が訝し気な表情になる。対照的に御剣は微笑を浮かべる。
「少なくとも、好ましく思われているのではないか」
「そ、そうなんですか……」
勇次が戸惑い気味に笑う。万夜が唇を尖らせる。
「……なんだか面白くありませんわね」
「そう言うな、両隊の交流が深まるのは望ましいことだ」
「それはそうかもしれませんが……」
「と、ところで、俺が呼び出されたのは一体?」
勇次が話題を変えるように御剣に尋ねる。
「そうだったな。万夜には先に話をしていた。続け様になって申し訳ないのだが……」
「もしかして……」
「ああ、そうだ。貴様には万夜の任務に同行してもらいたい」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
万夜が慌てたように声を上げる。御剣が首を傾げる。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもありません! 何故に勇次様なのですか⁉」
「無論、貴様のことを信用していないわけではないが、一人ではなかなか厄介そうな任務だと思ったのでな……」
「だ、だからと言って……!」
「千景や億葉には悪いが、あいつらは適任とは言い難い」
「では隊長は!」
「私もあまり適任ではないだろう……別の用事もあるのでな」
「むう……そ、それでは愛さんは⁉」
「愛には別件を頼んである。今は不在だ」
「な、なんと……」
万夜が天を仰ぐ。
「そこで、勇次の出番だ」
「いや、そうはならないでしょう! もっとも不適任ですわ!」
「おい、聞き捨てならないな……」
万夜の言葉に勇次がムッとする。
「勇次様……」
「俺も妖絶講に入って、数か月が経った。これまでそれなりの経験を積んできたつもりだ。厳しい訓練だってこなしている」
「い、いいえ、別に力量不足の話をしているわけではないのです」
「足を引っ張るような真似はしない! 必ず役に立ってみせる!」
「うむ! その意気込みやよし!」
御剣が勇次の言葉に満足そうに頷く。
「全然よくありません!」
「……心配するな、万夜。貴様の懸念していることに関してはちゃんと対応してある」
「……本当ですか?」
万夜は疑いの眼差しを御剣に向ける。
「ああ、信用してくれ。しっかりと手配してある」
「もう手配済みなのですか……仕方がありませんね。時間もありません、わたくしは先に現地に向かっております。合流は明朝でよろしくお願いします。それでは失礼します」
万夜が敬礼して、部屋を出ていく。御剣が勇次に告げる。
「今回の任務は……そうだな“粘り強さ”に関しての成長を期待したい」
「粘り強さですか……」
「そうだ、それでは任務の説明に入る……」
「……ここまででよろしいのですか?」
「ええ、今朝はちょっと歩きたい気分なので」
「かしこまりました。お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「行ってまいります」
翌朝、長野県のとある山中で高級車から降りてきたのは真白な制服に身を包んだ万夜であった。万夜は自らの通う学校に続くゆるやかな坂道を優雅な足取りで登る。
「おはようございます!」
「おはようございます。ご苦労様です」
「ありがとうございます!」
立派な造りの校門近くで万夜は警備員に丁寧に挨拶する。
「風紀委員長様、ごきげんよう」
「苦竹さん、ごきげんよう」
校門前で『風紀委員』と書かれた腕章を付けた見るからに真面目そうな生徒と挨拶をかわし、万夜は校舎に入る。そこから慣れた足取りで自らのクラスの教室に入る。
「皆様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
クラスメイトに挨拶すると、万夜は自分の席につき、考えを巡らす。
(学校周辺にも怪しい気配は感じませんでしたわ……。まあ活動を活発化させるとしたら放課後の時間帯が最も可能性が高いのでしょうけど……出来ればそれまでに大体の見当はつけておきたいところですわね……)
「苦竹さん?」
「は、はい! なんでしょうか⁉」
考えていたところに話しかけてきた前の席に座る女子に対し、万夜が慌てて答える。
「久しぶりにご登校されましたが、お体の方は大丈夫なのですか?」
「あ、ああ……ちょっと体調を崩しておりましたがもう大丈夫ですわ」
「それは良かったですわ。ああ、先生がいらっしゃったわ」
「それではホームルームを始めます……皆様に転校生を紹介します。入ってきて下さい」
「……ご、ごきげんよう。転校生の鬼ヶ島勇子です……」
「んなっ⁉」
驚いた万夜が頭を机に勢いよく打ちつける。
「失礼します。遅くなりました」
勇次が敬礼して隊長室に入る。そこには既に万夜もいた。
「来たか……!」
「きゃっ⁉」
勇次の顔を見るなり、御剣と万夜が一瞬驚く。
「どうかしましたか?」
「い、いや、貴様の顔、何だか腫れていないか?」
「気のせいです」
「気のせいではないと思うが……」
「気にしないで下さい」
「気にするなと言われてもな……」
「うっかり武枝隊の副隊長さんの胸を触ってしまって、思わずニヤついてた所に千景から思いっきりビンタを喰らったとは言えない……」
「口に出しているぞ」
「はっ!」
「はっ!じゃない。全く何をやっているのだ……」
御剣が呆れ顔になる。
「破廉恥ぶりは相変わらずですわね……」
万夜がため息をつく。
「いや、相変わらずって」
「そういえば、武枝隊の副隊長……火場から貴様宛に荷物が届いていたぞ」
「え? 俺宛にですか?」
「ああ、これだ」
御剣が可愛くラッピングされた小さい箱を机の上に置く。
「こ、これは……?」
「どうやら中身はプロテインらしい」
「プ、プロテイン? なんでまた?」
「さあな、そんなことまでは知らん」
「むしろ何ですの? その可愛らしいラッピングは……」
万夜が訝し気な表情になる。対照的に御剣は微笑を浮かべる。
「少なくとも、好ましく思われているのではないか」
「そ、そうなんですか……」
勇次が戸惑い気味に笑う。万夜が唇を尖らせる。
「……なんだか面白くありませんわね」
「そう言うな、両隊の交流が深まるのは望ましいことだ」
「それはそうかもしれませんが……」
「と、ところで、俺が呼び出されたのは一体?」
勇次が話題を変えるように御剣に尋ねる。
「そうだったな。万夜には先に話をしていた。続け様になって申し訳ないのだが……」
「もしかして……」
「ああ、そうだ。貴様には万夜の任務に同行してもらいたい」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
万夜が慌てたように声を上げる。御剣が首を傾げる。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもありません! 何故に勇次様なのですか⁉」
「無論、貴様のことを信用していないわけではないが、一人ではなかなか厄介そうな任務だと思ったのでな……」
「だ、だからと言って……!」
「千景や億葉には悪いが、あいつらは適任とは言い難い」
「では隊長は!」
「私もあまり適任ではないだろう……別の用事もあるのでな」
「むう……そ、それでは愛さんは⁉」
「愛には別件を頼んである。今は不在だ」
「な、なんと……」
万夜が天を仰ぐ。
「そこで、勇次の出番だ」
「いや、そうはならないでしょう! もっとも不適任ですわ!」
「おい、聞き捨てならないな……」
万夜の言葉に勇次がムッとする。
「勇次様……」
「俺も妖絶講に入って、数か月が経った。これまでそれなりの経験を積んできたつもりだ。厳しい訓練だってこなしている」
「い、いいえ、別に力量不足の話をしているわけではないのです」
「足を引っ張るような真似はしない! 必ず役に立ってみせる!」
「うむ! その意気込みやよし!」
御剣が勇次の言葉に満足そうに頷く。
「全然よくありません!」
「……心配するな、万夜。貴様の懸念していることに関してはちゃんと対応してある」
「……本当ですか?」
万夜は疑いの眼差しを御剣に向ける。
「ああ、信用してくれ。しっかりと手配してある」
「もう手配済みなのですか……仕方がありませんね。時間もありません、わたくしは先に現地に向かっております。合流は明朝でよろしくお願いします。それでは失礼します」
万夜が敬礼して、部屋を出ていく。御剣が勇次に告げる。
「今回の任務は……そうだな“粘り強さ”に関しての成長を期待したい」
「粘り強さですか……」
「そうだ、それでは任務の説明に入る……」
「……ここまででよろしいのですか?」
「ええ、今朝はちょっと歩きたい気分なので」
「かしこまりました。お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「行ってまいります」
翌朝、長野県のとある山中で高級車から降りてきたのは真白な制服に身を包んだ万夜であった。万夜は自らの通う学校に続くゆるやかな坂道を優雅な足取りで登る。
「おはようございます!」
「おはようございます。ご苦労様です」
「ありがとうございます!」
立派な造りの校門近くで万夜は警備員に丁寧に挨拶する。
「風紀委員長様、ごきげんよう」
「苦竹さん、ごきげんよう」
校門前で『風紀委員』と書かれた腕章を付けた見るからに真面目そうな生徒と挨拶をかわし、万夜は校舎に入る。そこから慣れた足取りで自らのクラスの教室に入る。
「皆様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
クラスメイトに挨拶すると、万夜は自分の席につき、考えを巡らす。
(学校周辺にも怪しい気配は感じませんでしたわ……。まあ活動を活発化させるとしたら放課後の時間帯が最も可能性が高いのでしょうけど……出来ればそれまでに大体の見当はつけておきたいところですわね……)
「苦竹さん?」
「は、はい! なんでしょうか⁉」
考えていたところに話しかけてきた前の席に座る女子に対し、万夜が慌てて答える。
「久しぶりにご登校されましたが、お体の方は大丈夫なのですか?」
「あ、ああ……ちょっと体調を崩しておりましたがもう大丈夫ですわ」
「それは良かったですわ。ああ、先生がいらっしゃったわ」
「それではホームルームを始めます……皆様に転校生を紹介します。入ってきて下さい」
「……ご、ごきげんよう。転校生の鬼ヶ島勇子です……」
「んなっ⁉」
驚いた万夜が頭を机に勢いよく打ちつける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる