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前世を思い出した衝撃のあの晩から2日。
「温かみのある黄薔薇の愛らしいこと…」
ようやく 心配性のお父様から寝室を出るお許しが出て、公爵邸の自慢の庭園が一望できる第一サロンでティータイムを楽しむことが出来ている。
この庭園は、先々代の国王陛下の第三王女であった曾祖母様がグリサリオ公爵家へ降嫁されるにあたり、曽祖父様が当時の人気庭師を隣国から呼び寄せ作らせたものだ。
広大な庭園に色とりどりの薔薇が咲き誇り、その美しさと香りで幼い頃からいつもわたくしを楽しませてくれている。
土魔法と水魔法に優れた庭師達が、一年中薔薇を楽しめるよう尽力してくれているから、薔薇の王国と讃えられるわが聖セプタード王国の中でも有数の庭園だ。
(あぁ…。----何これー!まるでおとぎ話の世界じゃない!黄色い薔薇が一番多く植えてあるけど、クリーム色にレモン色に橙色まで、一体何種類あるの!?
庭師の水魔法を使った水やりなんてファンタジーそのものだし!魔法とかマジやばいやばい!!----と前世の「私」が心のままに叫んで走り回りたがるけれど落ち着かなくては…)
わたくしがそんな事をすれば、公爵邸は蜂の巣をつついたようになるだろう。
とにかく急いで王太子殿下との婚約を阻止するベく対策をとらなくてはいけないのに、また寝室のベッドに連れ戻されてはたまらない。
「やはりわたくし黄薔薇が一番好きだわ、赤薔薇(なんか)よりも…」
サロンからの景色を眺めながら紅茶を少し頂いて独りごちる。
王家の紋章も五大公爵家の紋章も全て薔薇にちなんだものだけれど、王家は赤薔薇、グリサリオ公爵家は黄薔薇と各家でシンボルとする薔薇の色が異なる。
赤薔薇には何の恨みもないが、これから婚約者である(まだ結んでいないけれど!)わたくしを裏切る(であろう!)王太子殿下のお顔が浮かびそうになり、意識して赤薔薇を視界から追いやる。
「ラリサ、わたくしこれからもずっとずっと、この黄薔薇たちに囲まれて暮らせたら素敵よね?」
側に控えてくれていた侍女のラリサに話しかけると、ラリサはその茶色の瞳を瞬かせた。
「…左様でございますね、お嬢様。お嬢様の眩いばかりの銀髪と月光を溶かしたような淡い金色の瞳には一番黄薔薇がお似合いですわ」
(うっ…。この美辞麗句を前世を思い出す前は当然のように受け取っていたんだったわ。わたくしも相当よね…)
平静を装って微笑み返す事にする。
「でも急にどうなさいました?もしかして、そろそろ王太子殿下とのご婚約も正式に決まる頃ですし…心細くおなりに?」
さすが乳母の娘で、わたくしが幼い頃から仕えてくれているラリサだ。
わたくしの心の機微に敏感に反応してくれる。
お父様はわたくしにとても過保護で甘かった。
咳一つでも大騒ぎをして側を離れず、家族との時間も決して惜しんだりなさらなかった。
わたくしが欲しがれば何でも与えてくださったけれど…。
その反面、公爵令嬢としての教養や立ち居振る舞い、矜持などについては厳しく躾けられた。
それは、大切にしているわたくしが「公爵令嬢」として社交界で恥をかかない様にとの親心だけでない。
いずれ同じ歳である王太子殿下の妃として王家からお声が掛かっても、すぐに対応出来るようにするため…。
(わたくしだって筆頭公爵家の娘として、その時には王家に身を捧げようと、血の滲むような努力をしてきたわ。でもわたくしの努力に見合う男ではなさそうだもの!)
ちょうどその時、瀟洒な窓ガラス越しに、サロンに入ってらしたお兄様の輝く銀髪が映った。
それに気付かない振りをして、わたくしは婚約阻止に向けて「最強のカード」を切ることにした。
「温かみのある黄薔薇の愛らしいこと…」
ようやく 心配性のお父様から寝室を出るお許しが出て、公爵邸の自慢の庭園が一望できる第一サロンでティータイムを楽しむことが出来ている。
この庭園は、先々代の国王陛下の第三王女であった曾祖母様がグリサリオ公爵家へ降嫁されるにあたり、曽祖父様が当時の人気庭師を隣国から呼び寄せ作らせたものだ。
広大な庭園に色とりどりの薔薇が咲き誇り、その美しさと香りで幼い頃からいつもわたくしを楽しませてくれている。
土魔法と水魔法に優れた庭師達が、一年中薔薇を楽しめるよう尽力してくれているから、薔薇の王国と讃えられるわが聖セプタード王国の中でも有数の庭園だ。
(あぁ…。----何これー!まるでおとぎ話の世界じゃない!黄色い薔薇が一番多く植えてあるけど、クリーム色にレモン色に橙色まで、一体何種類あるの!?
庭師の水魔法を使った水やりなんてファンタジーそのものだし!魔法とかマジやばいやばい!!----と前世の「私」が心のままに叫んで走り回りたがるけれど落ち着かなくては…)
わたくしがそんな事をすれば、公爵邸は蜂の巣をつついたようになるだろう。
とにかく急いで王太子殿下との婚約を阻止するベく対策をとらなくてはいけないのに、また寝室のベッドに連れ戻されてはたまらない。
「やはりわたくし黄薔薇が一番好きだわ、赤薔薇(なんか)よりも…」
サロンからの景色を眺めながら紅茶を少し頂いて独りごちる。
王家の紋章も五大公爵家の紋章も全て薔薇にちなんだものだけれど、王家は赤薔薇、グリサリオ公爵家は黄薔薇と各家でシンボルとする薔薇の色が異なる。
赤薔薇には何の恨みもないが、これから婚約者である(まだ結んでいないけれど!)わたくしを裏切る(であろう!)王太子殿下のお顔が浮かびそうになり、意識して赤薔薇を視界から追いやる。
「ラリサ、わたくしこれからもずっとずっと、この黄薔薇たちに囲まれて暮らせたら素敵よね?」
側に控えてくれていた侍女のラリサに話しかけると、ラリサはその茶色の瞳を瞬かせた。
「…左様でございますね、お嬢様。お嬢様の眩いばかりの銀髪と月光を溶かしたような淡い金色の瞳には一番黄薔薇がお似合いですわ」
(うっ…。この美辞麗句を前世を思い出す前は当然のように受け取っていたんだったわ。わたくしも相当よね…)
平静を装って微笑み返す事にする。
「でも急にどうなさいました?もしかして、そろそろ王太子殿下とのご婚約も正式に決まる頃ですし…心細くおなりに?」
さすが乳母の娘で、わたくしが幼い頃から仕えてくれているラリサだ。
わたくしの心の機微に敏感に反応してくれる。
お父様はわたくしにとても過保護で甘かった。
咳一つでも大騒ぎをして側を離れず、家族との時間も決して惜しんだりなさらなかった。
わたくしが欲しがれば何でも与えてくださったけれど…。
その反面、公爵令嬢としての教養や立ち居振る舞い、矜持などについては厳しく躾けられた。
それは、大切にしているわたくしが「公爵令嬢」として社交界で恥をかかない様にとの親心だけでない。
いずれ同じ歳である王太子殿下の妃として王家からお声が掛かっても、すぐに対応出来るようにするため…。
(わたくしだって筆頭公爵家の娘として、その時には王家に身を捧げようと、血の滲むような努力をしてきたわ。でもわたくしの努力に見合う男ではなさそうだもの!)
ちょうどその時、瀟洒な窓ガラス越しに、サロンに入ってらしたお兄様の輝く銀髪が映った。
それに気付かない振りをして、わたくしは婚約阻止に向けて「最強のカード」を切ることにした。
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