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わたくしは最強のカードを切ることにした。
それは前世を思い出してから、2日かけて練り上げた「ただの作り話」なのだけれど…。
お兄様に嘘を付く事には少し勇気が必要だけれど、妹が冤罪をかけられたあげく、悪役令嬢だと断罪され毒殺されるなんてお兄様も絶対望まないはず。
未来を変えるための必要悪なのだと、罪悪感を振り切る。
「実はねラリサ…わたくし、熱で魘されていた時に夢でお母様からお告げを受けたの…」
(わたくしの持つ最強の切り札は「亡きお母様」だもの)
「えっ、亡き奥様の!?」
「なっ…母上のお告げだって!?」
ラリサの後ろからジョージお兄様の驚いた声も聞こえてくる。
(そもそもお告げとは神や人ならぬ尊き存在から受けるもの…。でも亡くなったお母様の夢を見たと伝えただけではインパクトに欠けてしまう。確実に婚約を阻止するにはインパクトって必要だわ!)
お兄様の突然の登場に少し驚いたように後ろを振り返る。
「いや、脅かして済まない。エリーがサロンでお茶を楽しんでいると聞いてね、ちょうど声を掛けるところだったんだよ」
「いいえ、大丈夫ですわ。お兄様ごきげんよう」
わたくしの頬にいつもの挨拶のキスをして、お兄様が隣の椅子に座る。
あの夜、王立魔法学院の寄宿舎から駆けつけてくださったお兄様は、そのまま邸に滞在なさっているのだ。
「お兄様、ご心配をお掛けしてしまったけれど、わたくしただの風邪でしたのよ、そろそろ学院の方に…」
「学院の事なら問題ないよ、必要な履修は終わっているしね。それよりも夢で母上からお告げって…、一体どんな夢だったんだい…?」
「……。それは…」
「エリー?どうした?」
わざと言い辛そうに口籠ると、お兄様が身を乗り出してきた。
「まあ、例え夢とはいえ母上がエリーに変な事を仰るとは思えないけど…。僕に言えないような内容なのか?」
お兄様は気遣わしげに、その月明かりのようだと讃えられる澄んだ淡い金色の瞳を揺らしている。
(相変わらずね…。わたくしがお母様の名前を出すと、お父様もお兄様もその瞳に悲しみを湛えた色を浮かべてしまう。お二人にとってはいつまでも母の面影を知らない不憫で可哀想な子なのだわ)
「お兄様、夢に現れたお母様は決して王家には嫁がないようにとおっしゃったのです」
「……!」
一瞬その瞳を大きく見開いた後、訝しげな視線を向けるお兄様に、わたくしは畳み掛ける。
「あちらの肖像画と全く同じお姿でしたわ。でもわたくしを見つめる瞳は、まるで星降る夜空のように神秘的で…。絵で見るお母様よりも、もっとお美しかったわ」
作り話をしている罪悪感からこれでもかと褒め上げると、肖像画のお母様から何やら物言いたげな視線を感じる気がする…。
「そうか…。エリーは母上のお姿を絵でしか知らないからね…。君が夢で見た通り、まるで星空の瞬くような瞳の方だったよ」
「そうですのね。ラリサもそう思って?」
お兄様の分の紅茶を用意して端の方へ下がろうとするラリサを呼び止める。
「はい。もうそれは本当に絵では表せないほどお美しい瞳をお持ちで、乳母を務めさせて頂いた母もよく申しておりましたわ」
(そうよね、だって乳母のマーサに内緒で聞かされていたんだもの)
それは前世を思い出してから、2日かけて練り上げた「ただの作り話」なのだけれど…。
お兄様に嘘を付く事には少し勇気が必要だけれど、妹が冤罪をかけられたあげく、悪役令嬢だと断罪され毒殺されるなんてお兄様も絶対望まないはず。
未来を変えるための必要悪なのだと、罪悪感を振り切る。
「実はねラリサ…わたくし、熱で魘されていた時に夢でお母様からお告げを受けたの…」
(わたくしの持つ最強の切り札は「亡きお母様」だもの)
「えっ、亡き奥様の!?」
「なっ…母上のお告げだって!?」
ラリサの後ろからジョージお兄様の驚いた声も聞こえてくる。
(そもそもお告げとは神や人ならぬ尊き存在から受けるもの…。でも亡くなったお母様の夢を見たと伝えただけではインパクトに欠けてしまう。確実に婚約を阻止するにはインパクトって必要だわ!)
お兄様の突然の登場に少し驚いたように後ろを振り返る。
「いや、脅かして済まない。エリーがサロンでお茶を楽しんでいると聞いてね、ちょうど声を掛けるところだったんだよ」
「いいえ、大丈夫ですわ。お兄様ごきげんよう」
わたくしの頬にいつもの挨拶のキスをして、お兄様が隣の椅子に座る。
あの夜、王立魔法学院の寄宿舎から駆けつけてくださったお兄様は、そのまま邸に滞在なさっているのだ。
「お兄様、ご心配をお掛けしてしまったけれど、わたくしただの風邪でしたのよ、そろそろ学院の方に…」
「学院の事なら問題ないよ、必要な履修は終わっているしね。それよりも夢で母上からお告げって…、一体どんな夢だったんだい…?」
「……。それは…」
「エリー?どうした?」
わざと言い辛そうに口籠ると、お兄様が身を乗り出してきた。
「まあ、例え夢とはいえ母上がエリーに変な事を仰るとは思えないけど…。僕に言えないような内容なのか?」
お兄様は気遣わしげに、その月明かりのようだと讃えられる澄んだ淡い金色の瞳を揺らしている。
(相変わらずね…。わたくしがお母様の名前を出すと、お父様もお兄様もその瞳に悲しみを湛えた色を浮かべてしまう。お二人にとってはいつまでも母の面影を知らない不憫で可哀想な子なのだわ)
「お兄様、夢に現れたお母様は決して王家には嫁がないようにとおっしゃったのです」
「……!」
一瞬その瞳を大きく見開いた後、訝しげな視線を向けるお兄様に、わたくしは畳み掛ける。
「あちらの肖像画と全く同じお姿でしたわ。でもわたくしを見つめる瞳は、まるで星降る夜空のように神秘的で…。絵で見るお母様よりも、もっとお美しかったわ」
作り話をしている罪悪感からこれでもかと褒め上げると、肖像画のお母様から何やら物言いたげな視線を感じる気がする…。
「そうか…。エリーは母上のお姿を絵でしか知らないからね…。君が夢で見た通り、まるで星空の瞬くような瞳の方だったよ」
「そうですのね。ラリサもそう思って?」
お兄様の分の紅茶を用意して端の方へ下がろうとするラリサを呼び止める。
「はい。もうそれは本当に絵では表せないほどお美しい瞳をお持ちで、乳母を務めさせて頂いた母もよく申しておりましたわ」
(そうよね、だって乳母のマーサに内緒で聞かされていたんだもの)
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