14 / 34
14.
しおりを挟む
真っ赤に燃える薔薇のような赤髪が、視界に飛び込んできた。
(真紅の髪色…!?もしかしてエマ!?)
「あっ、あの、止めてちょうだい!」
「はっ、はい!」
焦って御者台に大きな声を掛けると、公爵家の御者が慌てながらも巧みな手綱捌きで馬車を止めた。
「きゃっ!」
「エリー!」
急なことでも御者は上手に止めてくれたが、少しガタッと揺れた車内で体が浮いてしまい、オリバー様に抱きとめられてしまう。
「も、申し訳ありません、急に…」
「僕は大丈夫だけど、突然どうしたの?」
オリバー様の腕に強く抱き込まれ、その宵闇色の髪がわたくしの頬に触れた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
(わ、わたくしオリバー様に抱きしめられて…!?
こんなこと殿下ともなかったのに!)
激しく混乱するけれど、オリバー様の息づかいや熱いほどの体温を直接に感じてしまい、身動き一つとれない。
(わたくし、どうしたら…!)
「あっ、あの離し…」
すると、御者や後方から隠れて護衛してくれていた騎士たちが、ドアの外から声を掛けてきた。
「お嬢様、アプロウズ様もお怪我ございませんか!?」
「いかがなさいました?何かございましたか?」
「エリザベス嬢も僕も大丈夫だよ」
オリバー様はそう伝えると、ようやく抱きしめていた腕を解いて、その美しい紺碧の瞳でわたくしを見据えると、銀髪を一房スルリと撫でた。
「エリー、どうしたの、何か気になるものでもあった?」
「えっ」
(そうだったわ!そうエマ!!
わたくしのバカ、ここは呆けている場合じゃ…!)
「そ、そうなんですわ、この辺りがなんだか興味深くて、降りたくなったんですの…!」
オリバー様は少し訝しげな視線を向けつつも、周囲の安全を確認して、下車を許してくださった。
エスコートされながら目抜き通りの石畳に降り立ち、急いで周囲を見渡したけれど、それらしき姿はもう見当たらない。
(いないわ…。顔は見えなかったけれど、綺麗な薔薇色の髪なんて、ヒロインの特徴にぴったり合うのに…まだどこかに…)
物語のヒロイン・エマは、その真紅の髪色と新緑のような瞳が美しいと讃えられていた。きっと目立つはずと、キョロキョロしていたらオリバー様に左手を握られた。
「ひゃっ!なに…を」
「迷子防止のためだよ、決して離さないでね」
「ま、迷子?わたくしなら大丈夫ですわ…!」
「エリー、ここからは僕らは少し羽振りの良い商家の婚約者同士だよ。僕のことはオーリと、いいね?」
そう言って勝手に決めて微笑むオリバー様を、ぽかんとして見つめ返してしまった。
(そんな…!結局、愛称で呼ばなきゃいけないの?)
「あの、他のお名前では…」
「だめだよ、もちろん」
これから婚約者探しをする身なのに、平民のフリをするために、結婚の見込みもない相手を愛称で呼ぶなんてと、がっくり肩を落とした。
「オリバーさ…ではなく、その、お、オーリは少し強引なのではありませ……いえ、強引よ」
「あはは、やった!やっと呼んでくれたね。さあ、パン屋を探すんだっけ?」
「…………はい」
はぐらかされたことにムッとしつつも、先程のエマらしき後ろ姿はもう見当たらないし、予定通りパン屋探しをしようと気を取り直す。
「目抜き通りの有名店がいいのかな、それとも」
「いえ、大通りから北西方面に外れた裏道にあるような…」
「これはまた、ずいぶん具体的だね。…初めてじゃないの?」
(あっ、うっかりしてしまったわ!わたくし、もっとぼかせば良かったのに…)
「もしかして、以前の婚約者と?」
なんだか急にオリバー様から剣呑な雰囲気を感じて、慌てて答える。
「い…いえ、初めてですわ。…じゃなくて、です。あの、以前噂で聞いたことがあって」
「そうなんだ。なら、いくつか思い当たるから、行ってみよう」
「えっ」
(何となく感じていたけれど、やっぱり下町に慣れてらっしゃる…?第一、オリバー様の平民風の服も、エリックがお兄様のクローゼットから出してきたものなのよね)
「なら、初めての下町デートは僕の為に取っておいてくれたんだね」
「デートではありませんっ!」
すっかり淑女の仮面を外してしまって言い返したけれど、握られた左手がこそばゆい気がして、隣を歩くオリバー様の横顔をそっと見つめた。
(真紅の髪色…!?もしかしてエマ!?)
「あっ、あの、止めてちょうだい!」
「はっ、はい!」
焦って御者台に大きな声を掛けると、公爵家の御者が慌てながらも巧みな手綱捌きで馬車を止めた。
「きゃっ!」
「エリー!」
急なことでも御者は上手に止めてくれたが、少しガタッと揺れた車内で体が浮いてしまい、オリバー様に抱きとめられてしまう。
「も、申し訳ありません、急に…」
「僕は大丈夫だけど、突然どうしたの?」
オリバー様の腕に強く抱き込まれ、その宵闇色の髪がわたくしの頬に触れた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
(わ、わたくしオリバー様に抱きしめられて…!?
こんなこと殿下ともなかったのに!)
激しく混乱するけれど、オリバー様の息づかいや熱いほどの体温を直接に感じてしまい、身動き一つとれない。
(わたくし、どうしたら…!)
「あっ、あの離し…」
すると、御者や後方から隠れて護衛してくれていた騎士たちが、ドアの外から声を掛けてきた。
「お嬢様、アプロウズ様もお怪我ございませんか!?」
「いかがなさいました?何かございましたか?」
「エリザベス嬢も僕も大丈夫だよ」
オリバー様はそう伝えると、ようやく抱きしめていた腕を解いて、その美しい紺碧の瞳でわたくしを見据えると、銀髪を一房スルリと撫でた。
「エリー、どうしたの、何か気になるものでもあった?」
「えっ」
(そうだったわ!そうエマ!!
わたくしのバカ、ここは呆けている場合じゃ…!)
「そ、そうなんですわ、この辺りがなんだか興味深くて、降りたくなったんですの…!」
オリバー様は少し訝しげな視線を向けつつも、周囲の安全を確認して、下車を許してくださった。
エスコートされながら目抜き通りの石畳に降り立ち、急いで周囲を見渡したけれど、それらしき姿はもう見当たらない。
(いないわ…。顔は見えなかったけれど、綺麗な薔薇色の髪なんて、ヒロインの特徴にぴったり合うのに…まだどこかに…)
物語のヒロイン・エマは、その真紅の髪色と新緑のような瞳が美しいと讃えられていた。きっと目立つはずと、キョロキョロしていたらオリバー様に左手を握られた。
「ひゃっ!なに…を」
「迷子防止のためだよ、決して離さないでね」
「ま、迷子?わたくしなら大丈夫ですわ…!」
「エリー、ここからは僕らは少し羽振りの良い商家の婚約者同士だよ。僕のことはオーリと、いいね?」
そう言って勝手に決めて微笑むオリバー様を、ぽかんとして見つめ返してしまった。
(そんな…!結局、愛称で呼ばなきゃいけないの?)
「あの、他のお名前では…」
「だめだよ、もちろん」
これから婚約者探しをする身なのに、平民のフリをするために、結婚の見込みもない相手を愛称で呼ぶなんてと、がっくり肩を落とした。
「オリバーさ…ではなく、その、お、オーリは少し強引なのではありませ……いえ、強引よ」
「あはは、やった!やっと呼んでくれたね。さあ、パン屋を探すんだっけ?」
「…………はい」
はぐらかされたことにムッとしつつも、先程のエマらしき後ろ姿はもう見当たらないし、予定通りパン屋探しをしようと気を取り直す。
「目抜き通りの有名店がいいのかな、それとも」
「いえ、大通りから北西方面に外れた裏道にあるような…」
「これはまた、ずいぶん具体的だね。…初めてじゃないの?」
(あっ、うっかりしてしまったわ!わたくし、もっとぼかせば良かったのに…)
「もしかして、以前の婚約者と?」
なんだか急にオリバー様から剣呑な雰囲気を感じて、慌てて答える。
「い…いえ、初めてですわ。…じゃなくて、です。あの、以前噂で聞いたことがあって」
「そうなんだ。なら、いくつか思い当たるから、行ってみよう」
「えっ」
(何となく感じていたけれど、やっぱり下町に慣れてらっしゃる…?第一、オリバー様の平民風の服も、エリックがお兄様のクローゼットから出してきたものなのよね)
「なら、初めての下町デートは僕の為に取っておいてくれたんだね」
「デートではありませんっ!」
すっかり淑女の仮面を外してしまって言い返したけれど、握られた左手がこそばゆい気がして、隣を歩くオリバー様の横顔をそっと見つめた。
91
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!
奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。
その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。
ちゅんりー
恋愛
隣国の第一王子・レモンの婚約者であったマーマレード・オレンジは、甘いものしか愛せない王子の心変わりと、甘ったるい声で媚びる令嬢シュガーの計略により、「可愛げのない、苦くて酸っぱい女」として婚約破棄され、国外追放を言い渡される。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる