悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは

文字の大きさ
15 / 34

15.

冬空のもと、オリバー様に手を引かれ高級店の建ち並ぶ目抜き通りを抜けた。

下町は小さな食堂や書店、雑貨店や職人の工房などが雑多に集まっていて、沢山の人が行き交い活気があった。

(どうしてもオリバー様とつないでいる左手に意識が行ってしまうわ、何だか胸が苦しい…どうして?) 

このままでいると、なんだか自分の心が訳のわからない感情に覆われそうで怖くなった。

(ええと、何か話題を…)

「あ、あのオリバ…、いえオーリはよくこの辺りに来るの?」

「うーん、まぁジョージや学院の連中と時々ね。社会勉強みたいなものかな」

「そう…お兄様も…」

(わたくし、本当に籠の鳥だったんだわ。
王都では王太子殿下の視察に同行したり、孤児院などへの慰問もしていたけれど、全部お膳立てされたもので、自分の足で歩き回るなんて考えたことも無かった)

「何か気に病んでそうだけど、エリーにはそんな顔しないで欲しいな」

「えっ?」

「籠の中の鳥は唯一無二の存在だったんだ、好き勝手な事をされたら周りは大変だよ。籠の中に留まり続けたのは、自分を律した正しい姿だったと思うな」

オリバー様はわたくしに言い聞かせるように、その紺碧の海のような瞳を優しげに細めた。

「……でも、もう唯一無二ではなくなりましたわ」

「突然籠の外に出て、身軽になって戸惑っているような、寂しい気もするような、ってとこかな?」

「ふふ、オーリは心の機微に聡いんですね」

すると、急にオリバー様が足を止めた。

「エリー限定だよ」

「……」

「信じてないって顔だ」

「だって理由がありませんもの。わたくしとの婚姻なんて、そちらのお家に何もメリットがありませんし」

「ずっと何年も報われない恋に苦しんできたけど、ようやく機会が巡ってきたんだ、って言ったら信じてくれる?」

こちらを窺うように見つめるオリバー様を、わたくしは強く見据えた。

「うそだわ。今までそんな素振りもなかったのに、なぜ急に…」

「いくら僕でも、婚約者のいる相手に迫ったりできないだろう」

「そ、それはそうかもしれませんが、普通はこう、抑えきれない感情があふれ出たりするものなのでは…?」

(そうよ!ずっとお兄様のご友人として節度のある態度だったもの。それなのにこんな、こんなの本気なわけないわよ…!)

思わず強い声で言い返してから、自分の状況を思い出した。

「あっ?わたくし…いえ、私すっかり言葉遣いが…?」

「今更平民風にしなくても大丈夫じゃない?
もともとエリー、美人でかなり目立ってるし」

「まさか、そんな…?」

周囲を見渡すと、街行く人々が皆こちらを見ていて、すっかり注目されていた。

少し離れた所で隠れて護衛をしてくれている騎士達も、心配そうに窺っている。

「ほらね」

オリバー様がその手を口元に当て、笑いながら言うと、見物していたらしき花屋の主人に声をかけられた。

「なんだなんだ、痴話喧嘩はもう終わりかい?仲直りに花でも贈ったらどうだい、色男の坊っちゃん!」

「い、いいえ、痴話喧嘩では…!」

「お貴族様のお忍びデートだろ?お熱いねぇ!」

(えっ!バレてる?)

「実はそうなんだ、プロポーズをなかなか受けて貰えなくてね」

「なっ、ちょっと、おり、オーリ!」

こんな道の往来で変なことを言い出すオリバー様を、慌てて止めようとするけれど、全く意に介さないようだ。

「何かアドバイスないかな?」

「そうかい、そりゃ可哀想だ!俺のカミさんもなかなか手強かったからなぁ、この店のでっかい花束で口説いたんだぜ!」

「じゃあ僕もそのご利益にあやかって、花束を作ってもらおうかな」

「おう!毎度あり!!上手くいくといいねぇ~」

わたくしが呆気にとられているうちに、すっかり商談は成立していた。

(オリバー様ってアプロウズ公爵家の嫡男よね?ずいぶん下町に馴染んでない!?
こっちが「宵闇の君」の本来の姿なの…?)

自分の知っているオリバー・アプロウズ様は、五大公爵家の嫡男という恵まれた立場と、その宵闇色の艷やかな黒髪に、紺碧の美しい瞳で社交界の人気の的だった。

(お兄様に比べて、確かに少し軽い感じの方だったけれど、でももっと貴公子然とされていたわよね…?)

「おり、オーリ!わたくし、今日はもうすでにお花はいただいて…」

戸惑う私を他所に、オリバー様はさっさとお支払いを済ませてしまった。

「ねえ、僕達パン屋を探してるんだ。だから花束は後で受け取りに来るのでもいいかな」

「それは構わねぇが、どんなパン屋だ?」

「エリー、どんなパン屋?」

(どうしよう…散策だと思われるように、少しはぐらかした方が…?)

「……ええと、こぢんまりとした、この辺りで人気の…」

「時間の無駄じゃない?僕は一緒にいられて嬉しいけど」

(散策じゃなくて目的地があるってバレてる!!)

お兄様と同じで、鋭さは公爵家嫡男の標準装備なのかと、誤魔化すのを諦めることにした。

「……その、店主が女性で、赤い髪の看板娘がいるようなパン屋が近くにありませんか」

「赤毛の看板娘…ああ!エマって娘のいるパン屋かい!?」
感想 7

あなたにおすすめの小説

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。