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しおりを挟む顔を耳まで真っ赤に染めて、慌てて腕で隠そうとするオリバー様に、先程までの雰囲気は消し飛んでいた。
「つ、つい、うっかり…。ちっ、違う…君が!
君が涙なんて見せるから、だから!」
見るからに動揺している姿に、まさかの想像が浮かんだ。
「あの…?…もしや、ここ最近の親しげなご様子は無理して演じて…?」
「うっ!べ、別に無理をしていた訳では……」
「やはり、こちらが素なんですの?どうしてわざと、気軽な感じになんて…?」
「……これまでの、将来の王太子妃とその次代を支える公爵子息と言う関係性を壊したかっただけだ。その…せっかく自由になった君に…強い印象を与えたかったから」
「……強い印象?」
よく理解できずに小首をかしげると、オリバー様はため息をつきながら、その額をわたくしの肩に乗せた。
「出会った時には、君はもうすでに王太子妃に内定してた。
だから近づきすぎて、僕の想いが君の負担にならないよう、これまでは距離をおいていたんだ…。
でもゆっくり距離を縮めていたら、他の誰かにまた奪われるのではと怖かった…」
「……その、では、オリバー様は、本当にわたくしを?」
「ずっと好きだ」
オリバー様はそう告げると、肩から顔をあげて切なそうに瞳を揺らしながら、その手を伸ばしてわたくしの頬に触れた。
その大きな手は、どこまでも温かかった。
「本当はずっと、どこかに攫ってしまいたかった。だが、王太子妃に相応しくあろうとする君の、その想いを踏み躙りたくなくて…諦めていたんだ」
オリバー様の言葉は、まるで降り積もる雪のように、心を覆っていくようだった。
心の中の、何もかもをオリバー様の雪が覆って、すべてが包まれていく不思議な感覚は、わたくしをひどく安心させた。
「わ、わたくし……全然知らなくて……」
「……エリーは殿下しか目に入っていなかったからね」
(王太子殿下を…?でも殿下にこんな風に心を乱されたことなんて無かったわ。ただ、王太子妃のお役目に相応しい自分になろうと…)
なにを話せばいいのか、自分の気持ちを上手く表せなくて戸惑っていると、オリバー様の人差し指が唇に触れ、言葉を止められた。
「……続きは後にしよう。どうやら馬車のスピードが落ちてきたようだ。」
「……!」
「馬車が目的地に着いたら、ジョージが一斉に捕物が始めるだろう。エリーも心積もりをしておくように」
「お兄様が?……さすがに護衛の騎士から事態が伝わっても、もう少し時間がかかるのでは」
「いや、先ほどのパン屋の周辺にジョージと近衛兵らが潜んでいたからね。とっくに一網打尽にする手配をしているだろう」
そう言えば、お兄様が革命組織の残党を洗い直させるとおっしゃっていたような…と思い出す。
(じゃあ、わたくし、お兄様が残党を捕まえるべく網を張っていたところに、間抜けにも乱入して…?)
陛下に進言して、自ら動くにしても早すぎるのでは…と、自分の愚かさとお兄様の有能さに頭をかかえた。
「目の前で君が拐われるのは、腹わたが煮えくり返っただろうな。でも手を出さなかったのは、僕が同行していたのと、泳がせて組織の潜伏先を一気に叩くためだろう。
僕は君の前で活躍できず、わざと捕まったのは不本意だったが。
ジョージの機嫌を損ねて、僕達の婚約の邪魔をされまくったら困るからね」
(わざと!?じゃあ気を失っていたのも演技!?)
呆然と見上げると、「宵闇の君」はその漆黒の前髪をかきあげ、紺碧の海のような瞳を甘く艶めかせ微笑んだ。
「エリーは僕が必ず守るけど、君も側から離れないようにね」
そう言ったオリバー様は、風を身に纏って魔法を発動させ、瞬く間にお互いの体に猿轡と縄を巻き戻した。
(あっ、そうよ!取り外しは魔法で自由自在だったのよね?
だったら、先ほども縄を解いてから、手を使えばよかったのでは…!?)
オリバー様がわたくしの猿轡を自らの口で外した件を、後で必ず追求しようと誓った時に、荷馬車はゆっくりと止まった。
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