悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは

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「先に縄を解けば良かった…?
ああ、きっとエリーの月の雫のような美しい涙で、気が動転していたんだね」

オリバー様はあの時は気付かなかったよ、と全く悪びれずに魅惑的な微笑みを浮かべた。

「…………」

わたくしは、グリサリオ公爵邸の庭園が一望できる第一サロンで、お兄様とオリバー様から事後報告を受けながら、一週間前の騒動を思い返した。

(あの後、オリバー様の予想通り、馬車から降ろされてすぐに……)

_____________


「おい、こいつらを降ろせ!早くなかでこの黒髪がアプロウズとどんな関係か、取り調べるぞ!」

「中にいる連中を呼んで、荷下ろしを手伝わせろ!」

「あたし、何人か呼んでくるよ」

コクトー男爵達はバタバタと慌ただしく動き始め、エマはその一つに束ねた美しい真紅の髪を大きく揺らしながら駆け出した。

「へへっ。しかし飛んで火に入る夏の虫とはこいつらの事だな、男爵」

「神様が俺達の味方ってことさ」

「違いない。貴族を人質にとれば隣国まで無事に逃げられそうだ」

一人の男はオリバー様の首元に短剣を当て、わたくし達を荷台から降ろした。

「おい女!お前が逃げ出したらこの男はズブっと一刺しだからな!!」

慌てて首を縦に振った。
オリバー様には心配いらないと言われているけれど、首元で光る短剣を見ると、心臓が嫌な音を立てた。

(大丈夫よね…?でも、万が一何かあったら…)

周りを見回すと、少し薄暗くなりかけていた空の下、木立のなかに建つ小さな邸が見えた。

(コクトー男爵の別邸かしら?…男爵家の屋敷にしては大きすぎる気もするけれど…。
物語ではあまり描写が無かったから、分からないわ…)

そして、なんとか風魔法で音を集めて、お兄様や近衛兵の気配を感じ取り、胸を撫で下ろした。

(良かった!前世を思い出してからは一度も使ってなくて不安だったから…)

はやる気持ちを落ち着かせながら、オリバー様の指示を繰り返す。

(ええと、まず合図と同時に風魔法で自分の縄を外して、火魔法で相手と距離を取る……。少しくらいは、わたくしも役に立たないと……!
だってこれでも「うる薔薇」のメインキャラだもの)

その時、オリバー様がその指先で合図を送ってきたのに気付き、風魔法を使うために掌に力を込めた。

オリバー様は、わたくしが縄を外したことに男が驚いて一歩後退ると、瞬く間に自らを拘束していた縄を外し、男から短剣を奪って相手を地面に叩き落とした。

「ぐぅっっ!!」

(早い……!わ、わたくし風魔法が使えて良かった…!ううん、使えるのは当たり前なんだけれど…)

コクトー男爵達が、倒れた音で異変に気付き、腰に佩いていた長剣を抜いて、こちらに向かって来るのが見え、急いでもう一度掌に力を込めた。

「エリー、下がって!」

「はい!」(次は火魔法よね)

自分の周りにまるで薔薇の花びらが舞うような火を纏った。

(出来たわ!)

オリバー様は、短剣でコクトー男爵達の剣を払い、キンッキンッと剣戟の音が聞こえてきて、身が震えたけれど、胸元で両手を握りしめ堪えた。

「くそっっ、お前ら何者だ!!」

そう言って大きく振りかぶった男爵の剣を、鍔元で受け止めながら、オリバー様は隙をついて腹部に膝で一撃を入れ、残りの男達もあっという間に制圧してしまった…。

(すごい!)

エマに連れられて屋敷から出てきた男達が、焦って一斉に逃げようとした時、よく知る声が大きく響いた。

「一人残らず捕らえろ!!」

「「「はい!」」」

いつの間にか、屋敷の周囲を取り囲んでいた近衛兵が一斉に姿を現した。


「エリー、もう大丈夫だよ。怖い思いをさせてしまってごめんね」

「オリバー様……」


頬に宵闇色の髪が触れ、フワッと優しい温もりに包まれたのを感じた次の瞬間には、お兄様のいつもの香りに抱きしめられていた。

「エリー!無事で良かった!怖かっただろう、可哀想に…」

「お、お兄様」

「お兄様が助けに来たからね、もう大丈夫だ」

「なっ、ジョージ!ここは控えるところだろう!」

お兄様に突き飛ばされたらしいオリバー様は、そう叫ぶと、先ほど制圧した男達を連れて行こうとする近衛兵に目を止めた。

「待て、そいつはここでたたっ斬る!」

「オリバー?止めは刺すな!まだ吐かせたいことが…!」

「エリーに縄をかけたのは、この男だ!
月の女神に涙を流させた罪は重い!
万死に値する!!」

「だから愛称呼びは……、何だと!?どけ、僕に殺らせろ!!」

「ジョージ!邪魔をするな!」

「「お二人とも!お止めください!!」」

……現場は逃げ惑う残党と、それを取り押さえる近衛兵に、揉めるお兄様とオリバー様、それを止めさせようとする近衛兵とで大混乱に陥った。

呆然としていたが、自分を抱きしめていたお兄様の腕から離れた事で正気を取り戻す。

(えっ!待って、待って!事件はこれで解決なの!?また、わたくし何もしていないわ…!)

愕然とするわたくしを尻目に、お二人は言い争いを続けたのだった…。

_____________


「…………お二人が揉めなければもう少し早く終わったのではないかしら…?」

つい思い出さなくて良かった事まで思い出し、遠い目になってしまう。

……遠い目になってしまうが、ここ数日でサロンから見える庭園に、青薔薇の植え込みが増えているような気がして、胸が高鳴るのを感じていた。

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