悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは

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番外編・王太子エドワードの憂鬱

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薔薇の王国と謳われる、聖セプタード王国の王太子エドワードは、朝から胸の痛みを感じていた。

幼い頃からの癖で、精神的に辛い時ほどお互い励まし合っていた、元婚約者の月の女神のような微笑みが目に浮かぶ。

「……リズは元気にしているんだろうか」

「…………殿下。グリサリオ公爵令嬢の件はもう……」

王宮の自室から執務室に向かう渡り廊下を歩きながら、つい呟いてしまった心の声に、側近のラリーが言葉を濁す。

「僕だって分かっているさ。そんな憐れみの目で見るな、元気か案じるぐらい別にいいだろう!
リズだって、エドはどうしているかと、きっと気に掛けてくれているはずだ!」

「ですが殿下……」

途中で言葉を切ったラリーを不審に思い顔を向けると、中庭の綺麗に咲き揃った赤い薔薇のアーチから、黒髪の男がこちらに向かって来ていた。

「…………オリバー」

その男は僕の前まで来て、膝をついて礼を取る。

この漆黒の髪に紺碧色の瞳を持つ男の名前は、オリバー・アプロウズ。

建国より王国を支える巨大な五柱、五大公爵家の一つアプロウズ家の嫡男だ。

…………そして、僕の元婚約者となったリズと、この春に婚約する男………でもある。

(普通、もっと身の置き所がなさそうな顔をしないか……?

こんな時でも、いつもの堂々とした態度で現れるとか……相変わらず嫌なヤツ……)

「王国の麗しき黄金の薔薇、王太子殿下にご挨拶いたします」

「……堅苦しい挨拶はよい」

片手を上げると、頭を上げ姿勢を直したオリバーと目が合う。

「先日、陛下からお聞きしたよ。エリザベス嬢と婚約を結ぶそうだね」

「はい、恐れながら不思議な縁を頂きまして…」

不思議な縁…………。

あれはまさに、青天の霹靂だった。

グリサリオ公爵家からの申し出で、驚く間もなく婚約破棄になり、僕がリズを失ってしまった原因。

何でも亡き公爵夫人が、夢のお告げで王家との婚姻を止めたとか……。

「随分と性急な話なんだな、さすがに驚いた。

………エリザベス嬢は、本来なら僕の・・妃となるはずだった女性だ、大切にするように」

オリバーの表情に、ふと腑に落ちるような感覚があり鎌をかけると、彼は不敵そうに口の端を上げた。

「…………殿下のお言葉は胸に。
必ずや私の・・妻となるエリザベス嬢を、生涯幸せにする事を誓います。どうぞご安心ください」

「…………………!」

(やっぱり!やっぱりそうだったのか!
この婚約は政略ではなく、以前からリズを………!

じゃあ、昔から僕に対してなぜか当たりが強かったのも……横恋慕だったんじゃないか!!)

お互い燃えるような恋とは違ったけれど、それでも二人で歴代の賢王のように、国の礎となろうと誓い合い、支え合ってきた。

今は変な夢で怯えていても、春から入学する王立魔法学院で友人として側にいれば…

いつかきっと、またリズの気持ちも変わる。
そう考えていたのに……!

それをこいつが横から……!!

「殿下、今回のグリサリオとアプロウズの婚姻に、眉をひそめる貴族も一部にはいるようですが……」

そう言って言葉を切り、目の前の男は紺碧の瞳でこちらを見据えてきた。

「……むしろ、この婚姻が成るからこそ、この先の殿下の治世が盤石になったのだと。

その様に、殿下にはお心安くお過ごし頂ければ、五柱の一つとして幸いでございます」

「…………はっ?」

「では、御前失礼致します」

マントを翻し立ち去るオリバーの後ろ姿を、信じられない思いで見送る。

黒髪が赤薔薇の生け垣に溶け込んでいくように消えると、ようやく正気を取り戻した。

「なっ!!ラリー、聞いたか!?
あいつ!……リズを手に入れる為に絶対、王位簒奪考えてたぞ!!」

「……サラリとやっちゃいそうですよね、オリバー殿なら。
本気で、本気でやばかったかと………。
殿下……命拾いしましたね……。
夢のお告げって、もしかして王家を守る為のものだったんじゃ……」

もし、運命が違っていて、アプロウズが反旗を翻す未来があったとしたならば、グリサリオは王家側に付いてくれただろうかと考え始め……止めた。

遠い目をして、魂が抜けたようなラリーを引き摺るようにして、執務室へ足を向ける。

「……リズ、今なにしてる……?
本当に君はあいつでいいのか?」

「殿下、流石にちょっと……。
もう前を向かれたほうが……僕なんてまだ震えが……」

側近のラリーに泣いて縋られていた僕は、何も気付いてなかった。

婚約者時代には、二人きりの時にお互いを「リズ」「エド」と呼び合っていた事を、オリバー・アプロウズに聞かれていた事に……。

そして、ちょうどその時、元婚約者のエリザベスが、なぜだかゾクッと寒気を感じて、首を傾げながら腕を擦っていた事に……。

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