28 / 34
番外編・公爵閣下の夢のお告げ1
しおりを挟む『私ね、婚約者の顔合わせで初めてお会いした時から、ずっとずっとリチャード様に恋してるの!
きっと、あの方がヨボヨボのお爺さんになっても大好きよ。
これはね、絶対なの!』
「だったら……どうして会いに来てくれないんだいシャーロット」
「……お父様?どうかなさったの?」
グリサリオ公爵邸のいくつかあるサロンの中で、亡きお母様が最も愛していたと言う第一サロン。
家族が揃った日には、こちらに自然と集まり食後のティータイムを楽しむことが多い。
その夜はあいにくの雨だったけれど、何だかお父様がいらっしゃる様な気がして足を運んでみると、そこには肖像画の前で項垂れたように佇む後ろ姿があった。
「……エリザベス、いや別に何でもないよ」
「ですが、お顔の色が少し悪いですわ……」
こちらを振り返ったお父様の寂しげな様子に、どうやって胸の内を聞き出そうかと思案しながら、その背中にそっと手を添えると、
「…………エリザベス、その、あのお告げの後もお母様は夢に出できてくれているかい?」
最近、オリバー様との結婚に向けて浮かれすぎていた罰なのか、わたくしはいきなり冷水をかけられてしまった。
「え?……ええと、お告げの後は安心なさったのか一度も無いかと」
「…………そうか」
「あの、お父様?」
「……いや、なぜ私の夢には一度も現れてくれないのかと寂しくてね……」
(……それは、それはお告げが嘘だからなのよお父様! でもそれを伝える訳にはいかないし……)
「きっと、わたくしの危険が去ったからですわ……だから」
「そうだな、母親として幼くして残した娘への強い想いが、夢に現れてくれたんだろう……。
だがもしかしたら、本当に手紙の通り私を想ってくれていたなら、私にも会いに来てくれるのではと、つい期待してしまったんだよ。
娘にこんな弱音を吐いて、まったく情けないお父様だな」
ははは、と力なく笑ったお父様に「夢でお会い出来なくても、きっと側にいて下さってるわ」とありふれた言葉を重ねるしか出来ず、
その夜の雨音は、まるでお父様の涙のように思えて、罪悪感で一睡も出来なかった。
_______________
「とっても綺麗だ、まるで月の女神が夜の海に包まれていくようだね」
そう言って、わたくしの部屋の鏡越しにこちらを見つめると、オリバー様はわたくしの結い上げた銀髪に、青薔薇を挿した。
胸元の淡いアイスブルーから、少しずつ色合いが濃くなり、ウエスト辺りからの宵闇色まで。
見事なグラデーションの青いドレスに、繊細な金糸の薔薇の刺繍が施され、思わず感嘆の溜息が出てしまう。
「なんて素敵なドレス……ありがとうございます」
「どういたしまして。こちらこそ、僕の贈り物を身に纏ってくれてありがとう」
つい先日、オリバー様とわたくしは、お父様とアプロウズ公爵閣下から婚約のお許しを頂き、内々に両家の顔合わせを行ったところだ。
「一緒に外出するのは無理でも、二人の時なら着て見せて貰ってもいいよね?」
と、青いリボンで綺麗に包装された箱を抱え、その紺碧の海のように美しい瞳で見つめてくるオリバー様に、わたくしも嬉しくてすぐに頷いてしまった。
(本当はこの機会に、来春の婚約式の招待客についてや、アプロウズ家について色々伺いたかったけれど、せっかくの贈り物だものね……)
「本音を言えば、僕のドレスを身に纏った君を、毎日外へ連れ出して自慢したいけどね」
「ふふ、アプロウズ公爵閣下とお父様から、陛下の承認が下り、公式発表するまでは控えるようにと、お言葉があったばかりですわ」
「春が待ち遠しすぎて、冬が嫌いになりそうだよ、エリー」
「もう、オリバー様ったら」
二人で笑い合っていると、まるで時間が止まってしまった世界で、雲の上にいるみたいな気持ちがする。
でも、ふと鏡に視線を戻し、幸せそうな顔をした自分の姿が目に映ると、また罪悪感が湧いてきてしまった…。
(……てっきりお母様の手紙で喜ん下さってると思っていたけれど、そうじゃなかったのね。
かえって恋しさが増してしまって、お辛そうだったわ。
それなのに元凶のわたくしが、こんな風に幸せだなんて……)
「……………………」
「エリー、どうしたの?」
「あの……もし発表前に変な噂が立ってしまったら、アプロウズ公爵ご夫妻に顔向け出来なくなってしまうわと思って」
「たぶん君の顔を曇らせているのはそれじゃないよね?」
つい悪足掻きをしたくなったものの、これ以上隠し事をすると、温い紅茶を何杯も飲むはめになるのは学習済みなので、早々と降参する。
「……わたくし、実はオリバー様にご相談したい事が……」
59
あなたにおすすめの小説
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる