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番外編・公爵閣下の夢のお告げ2
しおりを挟む「……わたくし、実はオリバー様にご相談したい事が……」
(……あっ!つい相談と言う言葉を使ってしまったけれど、自分に押し付けて解決させるつもりかと、誤解されてしまったらどうしよう……)
不安になり、恐る恐るオリバー様の反応を窺うと、思い掛けず穏やかな優しい瞳で微笑まれていた。
「ようやく口にしてくれたね」
「……え?」
「呪いが解けてきたかな」
「……なんて?」
「いや何でもないよ、エリーの心配事の相手は公爵閣下?それとも王太子殿下かな?」
小さな呟きでよく聞き取れず、聞き返したけれど、オリバー様はお話を続けてしまった。
「………わたくし、実は」
「ああ待って、名残惜しいけれど、先に侍女を呼んでそのイブニングドレスを着替えた方がいい。
僕はサロンで待たせて貰うから、後からおいで」
そう言って私の額に挨拶のキスをすると、オリバー様はサロンの方へ向かわれてしまった。
「……もしかして悩みがある事だけじゃなくて、コルセットを少しだけきつく締めてしまった事までお気付きに……?
そんな、まさかよね……」
まさか、と思いつつもほんの少しだけサイズアップしてしまったウエストに手を当て、青褪めるのだった……。
その後すぐ、侍女のラリサに着替えを手伝って貰いながらも、なぜオリバー様に筒抜けになってしまうのか考え込んでしまう。
「お嬢様ったら、殿下との婚約を破棄されてから何だか表情が豊かにおなりですね」
「ええっ?」
「ほら、そんな風にですわ!」
「そう、なのかしら?」
ラリサの指摘に、思わず頬に手を当てて触った。
「お嬢様は昔から、何でも卒なくこなしていらっしゃいましたけど、やっぱり王太子妃になるお立場で、気を張っていらしたんですね。
雰囲気も柔らかく戻られて、何もかも亡き奥様のお導きですわ」
「……自分では分からないけれど、そんなに変わった?」
「はい」
ラリサはクスクス笑いながら、本当に嬉しそうにわたくしを見て微笑んだ。
(もしかして、前世を思い出した影響からかしら……でも……)
わたくしが変わったと喜んでいるラリサに、淑女としては失格なのになぜ?と不思議な気持ちになる。
だけれど、最近の自分を振り返ると、変わったと言う事に、色々と思い当たる節があった。
(……確かに以前のわたくしなら、きっと一人で解決策を探していたわね。
淑女の微笑みで隠して、誰かに表情で気付かれる事も無かったもの……。
王太子殿下は、とても優しい婚約者だったけれど。
わたくしは辛い時や困った時、殿下に弱音を吐く事はあっても、全て頼って任せるなんてしなかった。
あくまで自分は、殿下をお支えして、お守りする立場なのだと弁えていたから……)
藍色の小花柄のデイドレスに着替えたわたくしは、オリバー様の待つサロンに向かいながらも、自分の足取りが重くなっているのを感じる。
(……いずれは殿下と共に、この聖セプタード王国の未来を担うのだと、重責に耐えていた過去の自分と比べて、今のわたくしはどうかしら……。
前世の記憶が戻ってからは、何もかもお兄様やオリバー様に解決して貰ってばかり。
いえ、でもそもそもあれは……打ち明けさせられたと言うか、圧で詰められたと言うか……。
でもこんな重荷を下ろして気の抜けてしまったわたくしになんて、オリバー様の妻が務まるの?
ううん、思い悩むよりはオリバー様に相応しい女性になれるよう、これからもっと努力するべきなんだわ……)
寝不足の頭だからか、思考のループにはまってしまっていたら、ふいに艷やかな声が耳に響く。
「どこへ行くの、僕の月のお姫様」
「…………!」
気が付くと、第一サロンの前の廊下を通り過ぎていたようだった。
「まあ、第一サロンの方にいらしたのね」
さも、最初から他のサロンへ向かうつもりだったかのように、動揺を見せず振り返ると、
「……王太子妃教育のなんと忌々しいことか」
「え?」
そこには先程の穏やかな春の海ではなく、真冬の仄暗く冷たい海を湛えた紺碧の瞳が、こちらを見つめていた。
(……ひっ!おおお怒ってらっしゃるわ!?なぜ?)
「さ、ささ寒……」
冷気を感じて、思わず二の腕を擦ってしまう。
「寒いの? 早くこちらにおいで、エリー」
オリバー様はわたくしを安心させるように優しく微笑むと、そっとわたくしの肩を抱いた。
「風邪を引くといけないから、早くサロンで温かい紅茶を頂こう。
……今夜はこちらで夕食をご一緒させて貰っても?」
「ぜ、ぜひ……(夜まで!?)」
(どっ、どうしてこうなるの!? 今回はわたくし嘘も隠し事もしていないのに……!!)
そうしてこの後、お父様の「夢のお告げ」の悩みから、オリバー様の妻に相応しい自分になろうと考えていた事、更には子供の頃から人参が苦手だと言う秘密まで打ち明けさせられたのだった…。
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