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第1章 カイト、五歳までの軌跡
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◾︎ダウニー3歳
ボクはダウニー、3ちゃいだよ。
ボクのおにいたまは、とーっても頭がよくて、優しくて、ボクのいちばーんだいちゅきな人なの。
ボクね、おにいたまと剣で騎士ごっこをするのが、だいすき。
いっちょに「えいっ、えいっ」ってするの、たのちいよ!
でもね、おにいたまはいつも負けちゃうの。ボクがちゅよいからね。
ボクが大きくなったら、おにいたまがおーたまになって、ボクはそのおにいたまを守る騎士になるのが夢なの。
◾︎ダウニー5歳
ボクは5歳になって、イカルダの女神様から魔法をもらったよ。
火と、雷と、氷の魔法ができるの。
魔力は貴族の中でも多いって言われた。うれしい。これで、おにいたまを守れる。
この前、おにいたまは父上と母上と一緒に、視察っていうお出かけに行った。
なんだかわからないけど、楽しそうだった。ボクも行きたかった。
でもね、おにいたまは父上と一緒に帰ってこなかったの。
父上がすっごく怒って、騎士さんをいっぱい連れてどこかに行った。
あとで聞いたら、おにいたまが誘拐されたんだって。
でも父上と騎士団が助けてくれた。ほんとうに、よかった。
悪い人なんて、ゆるさないっ。
ボクのだいじなおにいたまをさらった人、ぜったいゆるさないよっ。
ボクはもっともっと強くなって、おにいたまを守るんだ。
◾︎ジルバートside
私が誘拐犯にさらわれたとき、どうやら父上の影がついていたようで、連れ去られてから二時間ほどで無事に救出された。
城に戻ったとき、ダウニーはぐちゃぐちゃに泣きながら飛びついてきた。
どれほど心配したのか、抱きつく腕が震えていた。
あのときの弟は、しばらく私から離れようとしなかった。
その日を境に、ダウニーは剣や魔法の鍛錬にのめり込むようになった。
おそらく、私の誘拐が原因だろう。
もともとの才能も相まって、弟は瞬く間に頭角を現し、いつの間にか「国一番の剣士」と呼ばれるようになった。
世間では無敵の天才と称されるが、私の前では昔と変わらない。
「兄上、一緒にお茶を飲みましょう。私に計算を教えてください。歴史の覚え方のコツってありますか?」
時間があれば、弟は私の得意分野——学問や歴史——を尋ねてくる。
私は喜んで教えた。何時間でも。
兄弟のどちらも王位継承権があるため、
世間では“どちらにつくべきか”という声も出ているらしい。
頭脳派のジルバートか。
行動派のダウニーか。
……そんなことより、私はただ、弟と並んで歩ければそれでいい。
姉はとっくに継承権を放棄し、自由に生きている。
そのおかげで、私たち兄弟は、世間の話など関係なく、変わらず仲良く暮らしている。
そうして穏やかな日々が続いていたある日、それは本当に突然だった。
国境の向こうで、きな臭い動きがあるとは噂されていたが、まさか本当に隣国が兵を挙げて攻め入ってくるとは思わなかった。
王城は一気に緊張に包まれ、急ぎ軍議が開かれた。
指揮官として誰が戦場へ出るのか、その場は重苦しい空気に満ちている。
「……私が行きます」
手を挙げたのは、ダウニーだった。
当然、私は即座に反対した。
こんな危険な前線に、弟を立たせるわけにはいかない。
「だめだ、ダウニー。お前が行く必要はない」
何度言っても、弟の意志は微動だにしない。
剣を握る手は、もう幼かった頃のダウニーではなく、静かに燃えるような覚悟を宿していた。
さらに父上も、
「ダウニーの判断は妥当だ。実力もある」
と、淡々と告げた。
そして、ダウニーは出陣した。
結果は、見事な勝利。
それからというもの、ダウニーは幾度となく戦場に赴くようになった。
出た戦はすべて勝利へと導き、敵国の士気を削り、味方からは畏敬の念を込めていつしか 【孤高の大魔神】 と呼ばれるようになっていた。
孤高。
大魔神。
弟の名にそんな言葉が並ぶ日が来るとは、昔の私には想像もできなかった。
人々は彼の強さに喝采し、軍は彼を希望と呼び、若い騎士たちの多くは彼に憧れすら抱く。
けれどもだ!
どんなに強くなろうと、
どれほど崇められようと、
私にとってはただひとりの、泣き虫だった可愛い弟でしかない。
戦場に行くたび、胸が締め付けられる。
あの日、泣きながら私にしがみついてきた小さな腕の温度を、私は今でもはっきり覚えている。
「強くなったな、ダウニー」
そう言うと、弟は照れたように笑う。
——だが私は、やはり心配なのだ。
どれほどの力を持とうと、弟を失う恐怖だけは、決して慣れることがない。
ボクはダウニー、3ちゃいだよ。
ボクのおにいたまは、とーっても頭がよくて、優しくて、ボクのいちばーんだいちゅきな人なの。
ボクね、おにいたまと剣で騎士ごっこをするのが、だいすき。
いっちょに「えいっ、えいっ」ってするの、たのちいよ!
でもね、おにいたまはいつも負けちゃうの。ボクがちゅよいからね。
ボクが大きくなったら、おにいたまがおーたまになって、ボクはそのおにいたまを守る騎士になるのが夢なの。
◾︎ダウニー5歳
ボクは5歳になって、イカルダの女神様から魔法をもらったよ。
火と、雷と、氷の魔法ができるの。
魔力は貴族の中でも多いって言われた。うれしい。これで、おにいたまを守れる。
この前、おにいたまは父上と母上と一緒に、視察っていうお出かけに行った。
なんだかわからないけど、楽しそうだった。ボクも行きたかった。
でもね、おにいたまは父上と一緒に帰ってこなかったの。
父上がすっごく怒って、騎士さんをいっぱい連れてどこかに行った。
あとで聞いたら、おにいたまが誘拐されたんだって。
でも父上と騎士団が助けてくれた。ほんとうに、よかった。
悪い人なんて、ゆるさないっ。
ボクのだいじなおにいたまをさらった人、ぜったいゆるさないよっ。
ボクはもっともっと強くなって、おにいたまを守るんだ。
◾︎ジルバートside
私が誘拐犯にさらわれたとき、どうやら父上の影がついていたようで、連れ去られてから二時間ほどで無事に救出された。
城に戻ったとき、ダウニーはぐちゃぐちゃに泣きながら飛びついてきた。
どれほど心配したのか、抱きつく腕が震えていた。
あのときの弟は、しばらく私から離れようとしなかった。
その日を境に、ダウニーは剣や魔法の鍛錬にのめり込むようになった。
おそらく、私の誘拐が原因だろう。
もともとの才能も相まって、弟は瞬く間に頭角を現し、いつの間にか「国一番の剣士」と呼ばれるようになった。
世間では無敵の天才と称されるが、私の前では昔と変わらない。
「兄上、一緒にお茶を飲みましょう。私に計算を教えてください。歴史の覚え方のコツってありますか?」
時間があれば、弟は私の得意分野——学問や歴史——を尋ねてくる。
私は喜んで教えた。何時間でも。
兄弟のどちらも王位継承権があるため、
世間では“どちらにつくべきか”という声も出ているらしい。
頭脳派のジルバートか。
行動派のダウニーか。
……そんなことより、私はただ、弟と並んで歩ければそれでいい。
姉はとっくに継承権を放棄し、自由に生きている。
そのおかげで、私たち兄弟は、世間の話など関係なく、変わらず仲良く暮らしている。
そうして穏やかな日々が続いていたある日、それは本当に突然だった。
国境の向こうで、きな臭い動きがあるとは噂されていたが、まさか本当に隣国が兵を挙げて攻め入ってくるとは思わなかった。
王城は一気に緊張に包まれ、急ぎ軍議が開かれた。
指揮官として誰が戦場へ出るのか、その場は重苦しい空気に満ちている。
「……私が行きます」
手を挙げたのは、ダウニーだった。
当然、私は即座に反対した。
こんな危険な前線に、弟を立たせるわけにはいかない。
「だめだ、ダウニー。お前が行く必要はない」
何度言っても、弟の意志は微動だにしない。
剣を握る手は、もう幼かった頃のダウニーではなく、静かに燃えるような覚悟を宿していた。
さらに父上も、
「ダウニーの判断は妥当だ。実力もある」
と、淡々と告げた。
そして、ダウニーは出陣した。
結果は、見事な勝利。
それからというもの、ダウニーは幾度となく戦場に赴くようになった。
出た戦はすべて勝利へと導き、敵国の士気を削り、味方からは畏敬の念を込めていつしか 【孤高の大魔神】 と呼ばれるようになっていた。
孤高。
大魔神。
弟の名にそんな言葉が並ぶ日が来るとは、昔の私には想像もできなかった。
人々は彼の強さに喝采し、軍は彼を希望と呼び、若い騎士たちの多くは彼に憧れすら抱く。
けれどもだ!
どんなに強くなろうと、
どれほど崇められようと、
私にとってはただひとりの、泣き虫だった可愛い弟でしかない。
戦場に行くたび、胸が締め付けられる。
あの日、泣きながら私にしがみついてきた小さな腕の温度を、私は今でもはっきり覚えている。
「強くなったな、ダウニー」
そう言うと、弟は照れたように笑う。
——だが私は、やはり心配なのだ。
どれほどの力を持とうと、弟を失う恐怖だけは、決して慣れることがない。
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