ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ

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~ひとつ屋根の下に贈る5つのお題2 より~

一、ドアを開ければヤツがいる

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またまたお題に挑戦です。
そして第一話は…雲雀の話です(笑)
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 週末、峰岸雲雀は地元に帰ることにした。
 泊まるのはもちろん実家だが、一番の目的は姉の千鶴だ。
 千鶴に頼まれていた同人誌。さらに雲雀が「姉ちゃんこれも好きそう…」と買い足した同人誌を渡しに行くのである。
 郵送という手もあるが、雲雀は自分の手で渡したかった。
 直に会って話したかったし、喜ぶ顔を見たい。
 『シスコンですが何か…?』を地で行く雲雀は、うきうきしながら重い荷物を持って地元へと向かう電車に乗った。
 そして、一度実家に荷物を置いた雲雀は、同人誌の詰まった紙袋(底が抜けないよう厚手かつ持ち手が頑丈な物)と、途中のケーキ屋で買ったシュークリームを手土産に柏木家を訪れた。
 姉には、今日訪れる旨を伝えていない。
 サプライズを狙ったのである。
 不在ならば出直すし、土産を渡してちょっと話すくらいの時間ならとれるだろう。
(…あの先生の新作手に入ったって言ったら、姉ちゃん喜ぶだろうなあ…)
 紙袋の中には、千鶴の大好きなBL同人誌がどっさりだ。
 その重みも、姉の喜びを思えば苦ではない。
 上機嫌の雲雀はこれまたうきうきしながら柏木家を訪れ、インターフォンを押して次の瞬間…。
「あっ!」
 はっとした。
 そうだった。この家は姉の家だが同時にあのいけすかない…。

「…はい。どちらさま…ああ! こんにちは、雲雀君」

 柏木正宗の、家なのだった。
(ちっ! 今日は土曜日だったか…)
 大学が休みの週末はイコール高校教師の義兄の休みでもある。
「…ドーモ。姉ちゃん、います?」
 にこやかに出迎えてくれた義兄に対し、お前なんかに用はねーんだよ姉ちゃん出せやゴラァ! なふてぶてしい態度で、雲雀は問う。
 せめて応対に出たのが姉なら良かったのに。
 そうしたらこの男と会話することも無かったのに。
 雲雀はぶすくれながら、思う。
 彼は忘れていなかった。
 いや一生忘れないだろう。
 この男が最愛の姉にやりやがった悪行つまりいちゃいちゃの数々を。
(一生許さん!!)
「…実は、ちょっと体調を崩しててね。休んでるんだ」
「えっ!!」
 それは聞き捨てならない。
「だっ、大丈夫なのかよ…ですか」
 動揺のあまり、無理な敬語を使っておかしくなった。
「うん。本人は、少し休めば治るって言ってるんだけど…」
 雲雀の天敵、柏木正宗は義弟が手に持っている物に目をやって、「それ、千鶴さんに? 渡しておこうか?」と聞いた。が。
「いえっ!! 直接渡したいんで、見舞ってもいい…デスカ!」
 未だ夫に腐女子であることを隠しているらしい姉のために(本当はばらして破局させてやりたい気もするがそれでは姉が傷つくし万が一それを乗り越えて二人の絆がより強固になるのも癪だし何より自分達だけの…いう甘美な秘密をコイツに教えてやりたくない!!)、この荷物を預けるわけにはいかない。
 それに、姉の具合が悪いと聞いて、すごすご帰れるか!!
 勇む雲雀に、正宗は「千鶴さんも喜ぶと思うよ」と言って、迎え入れた。
 そして雲雀は、初めて柏木家の二階に上がり、千鶴が休んでいるという夫婦の寝室に足を踏み入れたのだが…。
「……………」
 雲雀はまず、夫婦が毎夜使っているのだろうダブルサイズのベッドに絶句した。
 いや、わかっていたけど…。
 わかっていたけど目の当たりにすると妙に生々しいというか意識してしまうというか。
 あ…このベッドで姉ちゃん毎晩…と思うと頭痛がする。
 というか一つのベッドを二人で使うんじゃなくて夫婦別のベッドを使っていて欲しかった!! と思う雲雀であった。
「え!? 雲雀!! どうしたの急に!!」
 そのダブルベッドに横になっていた千鶴が、夫に連れられて現れた弟の姿に驚きの声を上げる。
「姉ちゃん!! いや、例のアレ持って来たんだけど、そしたら具合悪くして休んでるって言うから」
 雲雀はすぐに姉の傍に駆け寄って、千鶴にだけちらっと紙袋の中身を見せると、それをベッドの脇に置いた。
 そしてもう一つ持っていたケーキ屋の箱を見せ、「これ、お土産のシュークリームな」と。
「姉ちゃん好きだろ、シュークリーム」
「ありがとう! うわわ…嬉しいよ!!」
 姉の喜びように、雲雀は満面の笑みを浮かべた。
 これが見たくて帰って来たのだ。良かった。
 それに…。
「姉ちゃん、具合悪いって聞いたけど結構元気そうだな。安心した」
 顔色も悪くないし、と雲雀。
 だが千鶴は…。
「うぐっ」
 罰が悪そうに、呻く。
「?」
「いや…あの…その…」
 姉の様子がおかしい。
「やっぱりどっか悪いのか…?」
「ち…ちがくて…。あの、悪いっちゃ悪いんだけどまったく心配いらないというか一過性のものというか…」
「…?」
 一過性のもの…?
 風邪だろうか。
 よく見れば、姉の頬が赤く染まっている。
「ちゃんと薬は飲んだのか?」
「いや飲むほどじゃ…。湿布張ってるから大丈夫…」
「湿布? どっか痛めたのか…?」
 首を傾げる雲雀に、千鶴はぼそりと小さな声で…。
 それはもう小さな、蚊の鳴くような声で、言った。

「腰が、痛いだけだから…」

 KOSHI が 痛い だけ ダカラ…。
 こし、腰が痛い…。
 恥ずかしそうに顔を赤くして言う、姉。
 申し訳なさそうな、でもどこかすっきりしたような顔の天敵。
 そして昨日は金曜日。翌日の土曜(つまり今日)は天敵の休日で…。
(あっ、あんのやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!)
 ヤったのか!!
 ヤりまくったのか!!
 姉ちゃんの腰がガッタガタになるほどヤリやがたったのか強姦魔めええ!!(違う)
 怒りに震え、言葉も出ない雲雀に何も知らない千鶴は言う。
「心配いらないからさ。雲雀はゆっくりしていきなよ」
「ぐぐぐ…っ」 
「雲雀君、よかったら下でお茶でも飲んでいかないか? 千鶴さんも、飲むでしょう?」
 姉弟のやり取りを温かく見守っていた正宗が、気を利かせて誘う。
「わーい! もらったシュークリーム、さっそく食べましょう!」
「ここに持って来ましょうか?」
「いえ! 本当にもう大丈夫ですから。下に行きますよ」
 どうやらベッドで寝ていたのは、千鶴の希望と言うよりは心配した正宗が寝かせていた…というのが正しいらしい。
(…こいつ、まじで…)
 まじで、死ねばいいのに!!
 姉に背に手を当てて、起き上がるのを助けてやる正宗。
 元凶はお前だろうが!! と叫びたい気持ちを必死に堪え、口元を引き攣らせる雲雀。
 それでも彼が、目の前の天敵に殴りかからないのは…。
 自分が持ってきたシュークリームを引っ掴んで、その眼鏡めがけて投げつけないでいるのは…。
 姉が…。

『へへへ。正宗さんね、一人っ子だったから、雲雀の事本当の弟みたいに思えるって。可愛いって言ってくれたよ。なんか…嬉しいねえ…』

 初めての顔合わせの後。そう言って姉が微笑ったからだ。
 心底嬉しそうに、していたからだ。
 最愛の姉が、この男の事を本当に愛している(気に食わないことこの上ないが)からだ。
 だから雲雀は、姉のために。
 天敵への憎しみと殺意を、表には出さない。(隠し切れてはいないが)
 柏木正宗死んじまえ! と思う一方で、姉ちゃんを不幸にしたら許さねえ!! とも思う。
(…あー、こいついっそ男と浮気でもして(そうしたら姉ちゃんむしろ喜ぶしな)離婚しねえかなそしたら俺が予定通り姉ちゃんを一生養って守ってやるのにそれでこいつはどっか知らない所で勝手に野たれ死ねばいいんだそうだそれが良いそれが最高のハッピーエンド…)
 雲雀はぶつぶつと心の中で不穏なことを呟きながら、表面上はにこやかに姉と義兄と一緒に土産のシュークリームを食べた。
 シュークリームの数は五個。
 自分が二つ。
 姉が二つ。
 仕方ないから義兄が一つの計算だったが、千鶴は二つを雲雀にやって、一つを自分。
 そして一つを正宗にやって、余った一つを…。
「はんぶんこしましょーね。正宗さん」
 と言って、二つに割って手渡した。
 その時の姉の笑顔が可愛くて、雲雀は心底「畜生!!」と思った。

 そんなある日の、土曜日の話。



 
 
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