クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

文字の大きさ
7 / 87

人間関係の構築の難しさ

しおりを挟む
 「四宮くん……?」

「春樹でいいよ、裕貴」

 目の前の男子――四宮春樹が、軽く微笑みながら手を差し出してきた。

 俺は戸惑いながらも、その手を握る。

 彼の手は温かく、力強かった。

「俺と話すの、初めてだよな?」

「ま、まあ……そうだね」

 ぎこちない会話。微妙な沈黙。

 だが、それを破るように春樹が口を開いた。

「裕貴さ、佐々木さんと仲良いよな?」

「えっ……そ、そうなのかな」

「だって、今日の朝一緒に登校してただろ?」

「あ……」

 なるほど。傍から見れば、そう映るのか。

 だが――

「でも、俺と佐々木さんは……ただの友達だよ」

 そう言うと、春樹は「そっか」と呟き、次の言葉を放つ。

「じゃあ、別に俺が佐々木さんと付き合っても問題ないわけか」

「――!」

 心臓が大きく跳ねた。

 冗談、じゃないよな?

「ど、どういう意味……?」

「え? いや、俺さ、佐々木さんのこと気になってるんだよね」

 春樹の声は飄々としていたが、その目には本気の光が宿っていた。

 ――この人が、佐々木さんと付き合う?

 自然と、心の中に重たい感情が広がる。

 俺なんかより、春樹の方がずっと彼女には相応しい……そんな考えが頭をよぎった。

 納得するべきなのに、何故か悔しくてたまらない。

「まあ、このことは誰にも言うなよ? 俺とお前だけの秘密な」

 春樹はそう言って、軽く拳を突き出してきた。

 だが――

「……」

 俺は何も言えず、ただ黙り込むことしかできなかった。

 その時。

「――何してるの?」

 凍りつくような鋭い声が響いた。

 振り向くと、そこには不機嫌そうな顔をした佐々木悠里が立っていた。

「おう、佐々木さんじゃん」

 春樹が気さくに話しかける。

 だが、悠里の目は鋭く、冷たかった。

「貴方も、もしかして裕貴くんをいじめてる人?」

「は?」

 一瞬、春樹の顔が驚きに歪む。

「いじめる? 俺が? いやいや、俺は裕貴と仲良くなりたかっただけだって」

「裕貴くん、それ本当?」

「う、うん。別に悪いことをされたわけじゃないし、普通に良い人だよ」

 それを聞いた悠里は、しばらく春樹を見つめていたが、やがて少しだけ険を解いた。

「……ならいいけど」

「ま、佐々木さんの気分を害したなら、俺はここで引かせてもらうよ」

 春樹は軽く手を挙げ、友人たちの方へと去っていった。

 去り際、俺に向けて小さく笑う。

 (――覚えとけよ、この勝負)

 そんな意味を含んだ、静かな笑みだった。



  午前中の授業が終わり、購買へ向かった俺は、売店のパンや食べ物を眺める。

 だが――どれもカロリーが高く、脂質の多いものばかり。

 俺は静かにため息をついた。

「今日は昼飯抜きでいいか……」

 そう思い、購買を出ようとした時だった。

「――ようやく見つけた!」

 慌てたような声が聞こえる。

 振り向くと、そこには少し息を切らした佐々木悠里がいた。

「佐々木さ――」

「もう、悠里でいいよ」

 彼女は不機嫌そうに言いながら、俺の胸に何かを押し当てる。

 ――弁当だった。

「これ……?」

「私が作ってきたやつ。ダイエット中でしょ? だから、カロリーとか脂質とか考えて作ったんだよ」

「え……」

 思わず言葉を失う。

「じゃ、私はもう食べちゃったから先に行くね!」

 そう言って、悠里は走り去っていった。

 だが――

 その後ろ姿は、どこか照れているようだった。



  弁当を食べる場所を探していると、突然、背後から声がかかった。

「お! 裕貴じゃないか!」

 ――沢田先生だった。

 俺のクラスの担任であり、どこか姉御肌な雰囲気を持つ女性教師。

「せ、先生?」

「昼飯はまだか? お! 弁当か。どうだ、暇な先生と一緒に食べないか?」

「せ、先生と!?」

「そんな驚くなよ。ほら、いい場所があるからついてこい」

 そうして俺は、先生と一緒に昼食を取ることになった。



「ここはいいぞ。海も見えて、ゆっくりと飯が食える」

 屋上に出ると、そこには心地よい潮風が吹き抜けていた。

「ほら、座れ」

 先生はベンチに腰掛け、俺も隣に座る。

「学校は楽しいか?」

 弁当を開けながら、先生は気さくに聞いてきた。

「まあ……そこそこですかね」

「そうか。でもな、私は知ってるぞ」

 先生の目が、真剣になる。

「お前が一年の時、ほとんど学校に来てなかったことを」

 ――あの記憶が蘇る。

 俺を嘲笑う声、蹴られる感触、誰も助けてくれなかった日々。

「やっぱり、ダメですよね……学校を休むなんて」

「……いや、違う」

 先生はしばらく俺を見つめた後、静かに言った。

「学校は、ただの学び舎だ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……?」

「大事なのは、そこにいる人間関係だ。お前がどう生きるかは、お前次第だよ」

「……」

「でも、最近は佐々木と仲良くしてるみたいだな」

 俺は弁当に視線を落とす。

「……はい」

「社会に出ても出なくても、人間関係は避けては通れない。今のうちに、信頼できる仲間を作っておけ」

 先生の言葉が、心に響く。

 俺は、ゆっくりと弁当を口に運んだ。

 ――優しい味がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...