クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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告白は拒まれ、彼は拒まなかった

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「て、転校って……どういうこと?」

 俺は動揺を隠そうと必死に声を押し殺しながら、問いかけた。

 佐々木さんは視線を逸らし、夕闇の中でどこか儚げな笑みを浮かべていた。

「私の家、ね……昔からあまり裕福じゃなかったの。でも、最近はそれがさらに悪化しちゃって」

 静かな声だった。けれど、その一言ひとことが俺の胸を締めつけていく。

「だからね、私……家のこともあるし、家族のこともあるし……もう、あまり自分の気持ちに甘えていられないの」

 言葉を選ぶようにしながら、佐々木さんは続けた。

「だから、ごめんね。裕貴くんとは……付き合えない。そんな余裕、私にはないの」

 夜空に打ち上げられた花火が、鮮やかに空を染める。その光に照らされた彼女の表情は、どこまでも綺麗で――どこまでも遠かった。

 胸の奥に広がっていくのは、どうしようもない虚しさだった。

「……っ」

 言葉が出なかった。ただ、頬を伝う涙が止められなかった。

「ご、ごめん……。ちょっと顔、洗ってくる!」

 情けないほどに動揺したまま、俺は彼女のもとから走り去った。



 ――その声を、私は聞いてしまった。

「ご、ごめん……。ちょっと顔、洗ってくる!」

 花火の音と歓声の中でも、あの声だけははっきりと届いた。

 私――神木蘭は、あえて近づくことはせず、人混みの影で立ち止まっていた。姿は見えなくても、分かる。あの声は、裕貴だ。

 悠里の転校。裕貴の告白。そして――拒絶。

 知ってた。分かってた。けど、それでも。

(……どうすればいいの、私)

 胸が締めつけられて、呼吸が浅くなる。

 でも今、彼が必要としているなら、私は――。



 水道の蛇口をひねると、冷たい水が勢いよく飛び出した。

 俺はそのまま顔を濡らす。涙を隠すために、泣いていたことをごまかすために。

 でも。

 鏡に映った自分の顔は――全然、隠しきれてなかった。

 涙の跡。腫れた目。震える唇。

(……俺、フラれたんだ)

 あんなに努力して。自信だって、少しは持てるようになって。隣に並んで笑えるようになったと思ったのに――

「何泣いてんの? 裕貴」

 背後から、聞き慣れた声がした。

 振り返ると、そこには神木さんが立っていた。浴衣姿のまま、柔らかく微笑んでいる。

「神木さん……俺、フラれました」

 精一杯の強がりで、俺は笑おうとした。でも、喉の奥から洩れる声はひどくかすれていて、笑顔はきっと歪んでいたと思う。

「やっぱり俺ってダメダメですね。頑張ったのに、伝えたのに、何も届かなかった……」

 言葉にした瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

「裕貴は、ダメなんかじゃないよ」



 ずるい。私は今、とてもずるい。

 でも、そう思いながらも、私は彼に近づいた。

 そして、そっと――彼を抱きしめた。

「裕貴は、ちゃんと頑張ったよ。誰よりも、まっすぐに」

 彼の頭を、自分の胸に引き寄せて、優しく撫でる。

 拒まれるかと思った。でも、彼は拒まなかった。力なく、でも確かに、私の胸の中に身を委ねてくれた。

 こんな慰め方、ずるい。分かってる。

 でも、今の裕貴を放っておいたら、きっと壊れてしまう。

 だから私は、彼の痛みに寄り添う。

「ねえ、泣きたいときは泣いていいんだよ。私の前では、強がらなくていいんだから」

 彼の体が小さく震えた。その震えを抱きしめながら、私は自分の胸の奥に芽生えた感情を、否定しなかった。

 ――この想いは、いつか届いてほしいと願ってしまったから。
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