54 / 87
それでも差し伸べたい
しおりを挟む
私は、彼の告白を――拒んでしまった。
本当は、拒みたくなんてなかった。心のどこかでは、ずっと待ち望んでいた言葉だったはずなのに。
でも、私にはその言葉を受け取る資格なんてないと思ってしまった。
いま、彼がどんな表情をしているのか、どんな思いでその場にいるのか。それを想像するのが怖くて、私は丘の上で、ただ花火が打ち上がっていく空を見つめていた。
(私は……甘えすぎていた)
彼に頼ってばかりだった。寄りかかって、逃げて、自分の問題すらまともに向き合わずに。でも、これ以上、彼を巻き込んでしまうわけにはいかない。――これは、私の人生なのだから。
だけど。
そうやって強がれば強がるほど、胸の奥で何かが痛んだ。まるで、心の一部がひとつ、ひとつと削れていくような痛みだった。
※
俺は、情けない。
あんな言葉を投げかけて、あんなにまっすぐな想いを伝えたのに……振られた瞬間、俺の足は止まっていた。
でも、そんな俺を、神木さんは優しく受け止めてくれた。
彼女の声も、表情も、仕草も、全部が救いのように優しかった。
「ありがとう、神木さん。もう大丈夫だから」
そう言って身を引こうとした瞬間、彼女は俺の体をぎゅっと強く抱きしめてくれた。
「大丈夫じゃないでしょ……。前にも言ったじゃん。少しは私を頼って、って」
「でも、俺――」
「いいの。今だけでいい。……裕貴が悲しむ姿、見てられないの。だって私は……裕貴を、男として認めてるから」
その言葉が、心に染みた。俺を責めるでも、慰めるでもなく、ただ受け入れてくれる神木さんの想いが、確かに届いた。
けれど、その優しさの中で甘えきるわけにはいかなかった。
(――俺は、まだ伝えたいことがある)
ふと、佐々木さんの言葉が頭の中に蘇る。
『友達以上の何かだったら……』
「神木さん、俺……もう一度、佐々木さんのところに行ってきます」
「……もう大丈夫なの?」
俺は、涙の乾いた目で神木さんを見つめ、しっかりとうなずいた。
「うん。ありがとう。俺、行くよ」
「……そっか。じゃあさ、話が終わったら、また一緒に屋台回ろ? みんなで」
神木さんは、まるでいつものように笑ってくれた。俺はその優しさに応えるように、「うん、分かった」とだけ言って、再び丘の上へと駆け出した。
※
夜風が少し強くなり、花火の音に混じって、遠くの祭囃子がかすかに耳に届く。
俺はただ、まっすぐ丘を目指した。
その先に、彼女がいると信じて。
やがて、夜空にひときわ大きな花火が上がった。金色の閃光が夜空を裂き、その輝きが、丘の上に佇む彼女の姿を照らし出した。
「……佐々木さん」
彼女は、そっと振り返る。目が合った瞬間、なぜか少しだけ泣きそうになった。
「裕貴くん……」
俺は、言葉を選ばず、まっすぐ彼女の前へと進んだ。
「さっきの答え……ちゃんと聞かせてくれて、ありがとう。辛かったけど、それでも、伝えられてよかった」
「……どうして」
「俺は、佐々木さんが……大切だから。逃げたくなかった。どんな答えでも、ちゃんと向き合いたかった」
佐々木さんは小さく唇を噛みしめ、目を伏せた。
「……私、怖かったの。裕貴くんに頼ってばかりで、自分の弱さから目を逸らしてるんじゃないかって。だから……」
「それでも、俺は傍にいたい。佐々木さんが不安なら、一緒に不安になる。悩んでるなら、一緒に悩む。――そのくらい、君のことが大事なんだ」
ふっと彼女が顔を上げる。瞳には、涙の名残と、微かな笑み。
「……私、まだちゃんとは応えられないけど……それでも、もう少しだけ……傍にいてくれる?」
「もちろんだよ。何度でも言う。佐々木さんが、俺を見てくれるまで――俺は、諦めない」
夜空に、再び花火が咲いた。
その下で、俺たちはそっと見つめ合い、小さな笑みを交わした。
――まだ始まったばかりの、かけがえのない夏の記憶が、ここから刻まれていく。
本当は、拒みたくなんてなかった。心のどこかでは、ずっと待ち望んでいた言葉だったはずなのに。
でも、私にはその言葉を受け取る資格なんてないと思ってしまった。
いま、彼がどんな表情をしているのか、どんな思いでその場にいるのか。それを想像するのが怖くて、私は丘の上で、ただ花火が打ち上がっていく空を見つめていた。
(私は……甘えすぎていた)
彼に頼ってばかりだった。寄りかかって、逃げて、自分の問題すらまともに向き合わずに。でも、これ以上、彼を巻き込んでしまうわけにはいかない。――これは、私の人生なのだから。
だけど。
そうやって強がれば強がるほど、胸の奥で何かが痛んだ。まるで、心の一部がひとつ、ひとつと削れていくような痛みだった。
※
俺は、情けない。
あんな言葉を投げかけて、あんなにまっすぐな想いを伝えたのに……振られた瞬間、俺の足は止まっていた。
でも、そんな俺を、神木さんは優しく受け止めてくれた。
彼女の声も、表情も、仕草も、全部が救いのように優しかった。
「ありがとう、神木さん。もう大丈夫だから」
そう言って身を引こうとした瞬間、彼女は俺の体をぎゅっと強く抱きしめてくれた。
「大丈夫じゃないでしょ……。前にも言ったじゃん。少しは私を頼って、って」
「でも、俺――」
「いいの。今だけでいい。……裕貴が悲しむ姿、見てられないの。だって私は……裕貴を、男として認めてるから」
その言葉が、心に染みた。俺を責めるでも、慰めるでもなく、ただ受け入れてくれる神木さんの想いが、確かに届いた。
けれど、その優しさの中で甘えきるわけにはいかなかった。
(――俺は、まだ伝えたいことがある)
ふと、佐々木さんの言葉が頭の中に蘇る。
『友達以上の何かだったら……』
「神木さん、俺……もう一度、佐々木さんのところに行ってきます」
「……もう大丈夫なの?」
俺は、涙の乾いた目で神木さんを見つめ、しっかりとうなずいた。
「うん。ありがとう。俺、行くよ」
「……そっか。じゃあさ、話が終わったら、また一緒に屋台回ろ? みんなで」
神木さんは、まるでいつものように笑ってくれた。俺はその優しさに応えるように、「うん、分かった」とだけ言って、再び丘の上へと駆け出した。
※
夜風が少し強くなり、花火の音に混じって、遠くの祭囃子がかすかに耳に届く。
俺はただ、まっすぐ丘を目指した。
その先に、彼女がいると信じて。
やがて、夜空にひときわ大きな花火が上がった。金色の閃光が夜空を裂き、その輝きが、丘の上に佇む彼女の姿を照らし出した。
「……佐々木さん」
彼女は、そっと振り返る。目が合った瞬間、なぜか少しだけ泣きそうになった。
「裕貴くん……」
俺は、言葉を選ばず、まっすぐ彼女の前へと進んだ。
「さっきの答え……ちゃんと聞かせてくれて、ありがとう。辛かったけど、それでも、伝えられてよかった」
「……どうして」
「俺は、佐々木さんが……大切だから。逃げたくなかった。どんな答えでも、ちゃんと向き合いたかった」
佐々木さんは小さく唇を噛みしめ、目を伏せた。
「……私、怖かったの。裕貴くんに頼ってばかりで、自分の弱さから目を逸らしてるんじゃないかって。だから……」
「それでも、俺は傍にいたい。佐々木さんが不安なら、一緒に不安になる。悩んでるなら、一緒に悩む。――そのくらい、君のことが大事なんだ」
ふっと彼女が顔を上げる。瞳には、涙の名残と、微かな笑み。
「……私、まだちゃんとは応えられないけど……それでも、もう少しだけ……傍にいてくれる?」
「もちろんだよ。何度でも言う。佐々木さんが、俺を見てくれるまで――俺は、諦めない」
夜空に、再び花火が咲いた。
その下で、俺たちはそっと見つめ合い、小さな笑みを交わした。
――まだ始まったばかりの、かけがえのない夏の記憶が、ここから刻まれていく。
13
あなたにおすすめの小説
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました
田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。
しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。
だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。
それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。
そんなある日、とある噂を聞いた。
どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。
気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。
そうして、デート当日。
待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。
「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。
「…待ってないよ。マイハニー」
「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」
「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」
「頭おかしいんじゃないの…」
そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる