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短命な青春
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帰りのバスは、行きよりも少しだけ静かだった。
窓の外を流れる風景とは対照的に、車内には穏やかな空気が漂っている。
旅の疲れ、満足感、そして――それぞれが心に抱えた想いの名残が、ぼんやりと滲んでいた。
俺は窓際の席に座り、移り変わる景色をぼんやりと眺めていた。
隣には、佐々木さん。
彼女は目を閉じていたけど、呼吸のリズムは落ち着いていて、眠っているわけじゃないのは分かった。
あの告白を、忘れられるわけがない。
春樹の、あの真っすぐすぎる想い。
自分でも驚くほど潔くて、まっすぐで――だからこそ、心に残る。
(……春樹、お前はやっぱり、すごいよ)
きっと辛かったはずなのに、最後まで笑って、正面から想いを伝えた。
断られても、後悔しないように。
格好悪くないように。
春樹らしく。
「……裕貴くん」
不意に佐々木さんの声が聞こえて、俺は視線を向けた。
彼女は目を開けていて、もう窓の外ではなく、俺を見ていた。
「春樹くんのこと……聞いてた?」
「うん。少しだけ、だけど。……全部聞こえてたよ」
彼女は静かに視線を落とす。
膝の上で握られたその手が、小さく震えていた。
「私、ちゃんと断ったつもりだけど……あの笑顔が、なんだか余計に、つらくて」
その声は、優しさと苦しさが混ざったような響きだった。
俺は言葉を選びながら、そっと彼女の手に自分の手を重ねた。
「大丈夫。春樹なら、きっと乗り越えるよ。……アイツ、そういうやつだから」
「うん……そう、だよね」
静かに頷いた彼女の手は、ゆっくりと力を抜いていった。
ふたりでただ並んで座る、その穏やかな時間。
重なった手から、少しだけ熱が伝わってきて――それだけで、なんだか安心できた。
※
学校に戻ると、沢田先生に呼び出されていた。
「すまんな、急に呼び出したりして」
校舎裏にいた沢田先生は、珍しく真面目な表情だった。
けれど、目元にはどこか「やり切った大人」の余裕も漂っている。
「で、人間関係の進捗を聞こうじゃないか」
そう言って、自販機で買った缶ジュースを俺に手渡す。
「色々ありました。……告白されたり、したり、ですかね」
俺の言葉に、沢田先生はにやりと笑う。
「そうか、色々あったんだな。はぁ~、青春してんな~。羨ましいぞ、この野郎!」
ぐいっと俺の肩をつついてから、少し真顔に戻る。
「それで? 佐々木とは、付き合ってるのか?」
「……え、どうしてそうなるんです?」
「いや、なるだろ普通。自然な流れってやつだよ」
「……佐々木さんには、夏休みに一度振られてるんです。だから、俺からもう一度告白するのも、おこがましいかなって……」
俺は頭をかきながら答えた。
「確かにそう思うのも分かる。でもな……いいのか? お前たちが楽しんでるその“青春”ってのは、ほんとにあっという間に終わっちまうぞ」
先生は空を見上げるようにして、少しだけ声を落とす。
「儚くて、寂しくて、だけど楽しい。……セミよりも短命な時間だ。だからこそ、後悔のない選択をしろ」
そう言って、先生は立ち上がり、真剣な表情で俺を見つめた。
「先生……」
「自宅まで送ってやるよ。その代わり、聞かせてくれないか? お前の“青春”ってやつをさ」
「……嫌ですよ。恥ずかしいに決まってんじゃないですか」
そんな軽口を交わしながら、俺は沢田先生の車で帰宅することになった。
※
帰宅後。
俺はベッドの上で、天井を見上げていた。
疲れているはずなのに、眠気はこなかった。
春樹のこと。佐々木さんのこと。神木さんのこと。
そして――自分の気持ちのこと。
(……俺は、どうしたいんだろう)
誰かのことを傷つけたくない。
でも誰かを選ぶって、それは――他の誰かを“選ばない”ってことだ。
それが、こんなにも苦しいなんて。
そんなとき、不意にスマホが震えた。
画面には、「佐々木悠里」からのメッセージ。
『今日はありがとう。また明日、学校で。……ちゃんと、笑えるといいな』
たった一文。
だけど、それだけで――胸の奥が、じんわりとあたたかくなった。
(……うん。明日、ちゃんと笑えるように)
そのために、俺もちゃんと、自分の気持ちに向き合わなきゃいけない。
そう思いながら、俺はそっと目を閉じた。
長くて、少しだけ切なくて、それでも大切だった修学旅行が――静かに幕を閉じていった。
窓の外を流れる風景とは対照的に、車内には穏やかな空気が漂っている。
旅の疲れ、満足感、そして――それぞれが心に抱えた想いの名残が、ぼんやりと滲んでいた。
俺は窓際の席に座り、移り変わる景色をぼんやりと眺めていた。
隣には、佐々木さん。
彼女は目を閉じていたけど、呼吸のリズムは落ち着いていて、眠っているわけじゃないのは分かった。
あの告白を、忘れられるわけがない。
春樹の、あの真っすぐすぎる想い。
自分でも驚くほど潔くて、まっすぐで――だからこそ、心に残る。
(……春樹、お前はやっぱり、すごいよ)
きっと辛かったはずなのに、最後まで笑って、正面から想いを伝えた。
断られても、後悔しないように。
格好悪くないように。
春樹らしく。
「……裕貴くん」
不意に佐々木さんの声が聞こえて、俺は視線を向けた。
彼女は目を開けていて、もう窓の外ではなく、俺を見ていた。
「春樹くんのこと……聞いてた?」
「うん。少しだけ、だけど。……全部聞こえてたよ」
彼女は静かに視線を落とす。
膝の上で握られたその手が、小さく震えていた。
「私、ちゃんと断ったつもりだけど……あの笑顔が、なんだか余計に、つらくて」
その声は、優しさと苦しさが混ざったような響きだった。
俺は言葉を選びながら、そっと彼女の手に自分の手を重ねた。
「大丈夫。春樹なら、きっと乗り越えるよ。……アイツ、そういうやつだから」
「うん……そう、だよね」
静かに頷いた彼女の手は、ゆっくりと力を抜いていった。
ふたりでただ並んで座る、その穏やかな時間。
重なった手から、少しだけ熱が伝わってきて――それだけで、なんだか安心できた。
※
学校に戻ると、沢田先生に呼び出されていた。
「すまんな、急に呼び出したりして」
校舎裏にいた沢田先生は、珍しく真面目な表情だった。
けれど、目元にはどこか「やり切った大人」の余裕も漂っている。
「で、人間関係の進捗を聞こうじゃないか」
そう言って、自販機で買った缶ジュースを俺に手渡す。
「色々ありました。……告白されたり、したり、ですかね」
俺の言葉に、沢田先生はにやりと笑う。
「そうか、色々あったんだな。はぁ~、青春してんな~。羨ましいぞ、この野郎!」
ぐいっと俺の肩をつついてから、少し真顔に戻る。
「それで? 佐々木とは、付き合ってるのか?」
「……え、どうしてそうなるんです?」
「いや、なるだろ普通。自然な流れってやつだよ」
「……佐々木さんには、夏休みに一度振られてるんです。だから、俺からもう一度告白するのも、おこがましいかなって……」
俺は頭をかきながら答えた。
「確かにそう思うのも分かる。でもな……いいのか? お前たちが楽しんでるその“青春”ってのは、ほんとにあっという間に終わっちまうぞ」
先生は空を見上げるようにして、少しだけ声を落とす。
「儚くて、寂しくて、だけど楽しい。……セミよりも短命な時間だ。だからこそ、後悔のない選択をしろ」
そう言って、先生は立ち上がり、真剣な表情で俺を見つめた。
「先生……」
「自宅まで送ってやるよ。その代わり、聞かせてくれないか? お前の“青春”ってやつをさ」
「……嫌ですよ。恥ずかしいに決まってんじゃないですか」
そんな軽口を交わしながら、俺は沢田先生の車で帰宅することになった。
※
帰宅後。
俺はベッドの上で、天井を見上げていた。
疲れているはずなのに、眠気はこなかった。
春樹のこと。佐々木さんのこと。神木さんのこと。
そして――自分の気持ちのこと。
(……俺は、どうしたいんだろう)
誰かのことを傷つけたくない。
でも誰かを選ぶって、それは――他の誰かを“選ばない”ってことだ。
それが、こんなにも苦しいなんて。
そんなとき、不意にスマホが震えた。
画面には、「佐々木悠里」からのメッセージ。
『今日はありがとう。また明日、学校で。……ちゃんと、笑えるといいな』
たった一文。
だけど、それだけで――胸の奥が、じんわりとあたたかくなった。
(……うん。明日、ちゃんと笑えるように)
そのために、俺もちゃんと、自分の気持ちに向き合わなきゃいけない。
そう思いながら、俺はそっと目を閉じた。
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