バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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あの日の答え

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「おーい、みんな! そろそろ上がらない?」

 日も暮れてきた頃、須藤さんがプールサイドで呼びかける。

「そうだな、そろそろ上がるか」

 司くんがその場を仕切るように声を上げ、僕は白瀬さんと話しながら、司くんの元へ集まる。

「それじゃ、そろそろ行くか」

「やった! 肉、肉!」

「やったね、紗良!」

 有村さんが白瀬さんに語りかける。
 僕はそんなみんなが喜ぶ光景を眺めていた。

 白瀬さんも嬉しそうに笑っている。
 その笑顔が夕陽に照らされて、いつもより眩しく見えた。

 そして、僕たちは更衣室で私服に着替えた。

 ※

「おお! ここでするのか!」

 司くんが興奮気味に言う。
 すると、須藤さんがふふんとドヤ顔をする。

「でしょ? ここ結構有名な場所なんだよ」

 そう言って、バーベキュー場が映ったスマホ画面を見せる。
 画面には星五つのレビューがずらりと並んでいた。

「さすが、奏!」

「奏、マジ神!」

 そんなことを話していると、海斗くんと光くんが既に準備を始めていた。
 黙々と準備している彼らに僕も加わる。

「炭持ってくるよ」

「頼んだ、光」

 炭を取りに向かった光くんを背に、僕と海斗くんは準備を進める。
 一方、白瀬さんたちも食材の用意をしている。

 なんかいいな、協力してる感じがあって……。

 黙々と進めながら準備を終えると、ちょうどいいタイミングで光くんが戻ってくる。
 そして火をつけて、網の上に肉を置いていく。

「いいな、うまそう」

「司、よだれ出てるよ」

 相変わらず仲のいい須藤さんと司くん。
 僕はそんな二人を見ながら、一番初めに焼けた肉を取った。

 焼肉のタレをつけて、それを口に入れる。
 肉汁がじゅわっと口いっぱいに広がる。

「おいしい!」

「でしょ? やっぱり僕の目に狂いはなかったね!」

「さすが光、滅茶苦茶うまい」

 海斗くんもそう言って、焼けた肉を頬張っている。
 みんながおいしそうに食べている中、僕の肩を誰かがつつく。

 ふと振り返ると、そこにはラフな格好をした白瀬さんがいた。
 いつもと違う、ゆるっとしたパーカー姿。
 その少し緩んだ襟元から覗く鎖骨に、思わず目が行きそうになって慌てて視線を戻す。

 彼女は何か言いたげな顔をしている。

「ちょっと……付き合ってほしいんだけど」

 頬を赤らめて言う白瀬さん。
 そんな可愛い彼女のお願いに、僕は頷くことしかできなかった。

 周りのみんなは肉に夢中で、僕たちのやり取りには気づいていないようだ。
 そして僕は彼女に手を引かれて、施設の外に出た。

 夜景がきれいだ。
 星空もきれいで、つい見とれてしまう。
 遠くから聞こえる仲間たちの笑い声が、心地よいBGMのように響いている。

「ねえ、有馬っち」

「なんですか?」

「その……有馬くんとは色々なことをしてきた気がするの」

 有馬くん?
 困惑する僕。
 いつもの「有馬っち」じゃない呼び方に、心臓が跳ねる。

 頬を赤らめている白瀬さん。
 その顔を見て、僕も自然と緊張してきた。

「私が自分の演じ方が分からなくなって、困っているときも、有馬くんは私に言ってくれたよね。それも自分の一部だって……」

 白瀬さんは綺麗な銀髪をいじりながら言う。

「だから、その……ありがとう」

 そして、僕の両手を彼女が握りしめた。

 ――次の瞬間、僕の唇に彼女の唇が重なった。

「――ッ」

 時間の感覚が遅く感じる。
 まるでスローモーションになった世界にいるようで、それでいて心臓が今にも爆発しそうだ。

 柔らかくて、温かい。
 それだけで頭が真っ白になる。

「これが……私の答えだよ」

 しばらく動けなかったし、言葉も出なかった。
 白瀬さんはそんな僕を見て、少し困ったように笑っていた。

 そして僕はようやく理性を取り戻し、自分は白瀬さんの行動の意味に気づいた。

 答え――それは僕があの日、彼女にした告白の答え。

 あの時の白瀬さんは『答えを待っていて』と言っていた。
 そして今、僕は答えを受け取った。

「なんか言ってよ……私だけ恥ずかしいんだけど」

 どこかすねたように言う白瀬さん。
 その表情があまりにも可愛くて、僕はもう我慢できなかった。

 僕はそんな可愛い白瀬さんを抱き寄せた。

「――ちょ!?」

「こちらこそ……よろしくお願いします」

 言葉にならないほどの幸福感。
 僕は絞り出した言葉を彼女に伝えた。

「こちらこそ、よろしくね……蓮」

 ようやく聞けた彼女の告白の答え。
 僕は幸せ者だ。

 白瀬さんの細くて華奢な体を、僕はしばらく抱いていた。
 すると、白瀬さんも僕を静かに抱きしめ返してくれた。
 その腕に込められた温もりが、これが夢じゃないことを教えてくれる。

 この夏、僕の恋は実った。

 バイト先で出会った白瀬さん。
 彼女は僕にたくさんのものをくれた。

 だから僕はこの人との恋を、一生大事にしていこうと思う。
 僕たちを照らす星空に誓って――。

「ねえ、蓮」

「ん?」

「もう少しだけ……このままでいい?」

 彼女の声が、僕の胸元で小さく響く。

「ああ、いいよ。好きなだけ」

 僕はそう答えて、彼女を抱く腕に少しだけ力を込めた。
 
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