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31.リュシフェルの後悔
しおりを挟む僕にとって、サラーシュは妹みたいな存在だった。
幼い頃から懐いていて、後を追って来る姿が可愛かった。
それは、歳を重ねても変わらないと思っていた。
「リュシフェル様を好きになって十年目です!」
はにかむサラーシュは、美しい子になった。
輝く笑顔、艶やかな唇、しなやかな体に似合わない膨らんだ胸元。
ダメだ、危ない。
初めてサラーシュが女に見えた。
だから、なるべく避けた。
誰にも気付かれないよう、極力今まで通りに見えるように、二人きりの時は素っ気なくした。
その頃には、リサーナとの婚約が進んでいた。
次男の僕は、どのみち婿入りするしかない。
マクレガン公爵家は魅力的だ。
リサーナも容姿端麗で、稀に見る才女なのに、人柄は穏やかだ。
誰が見ても欲しい女性に決まってる。
リサーナから告白された時は、嬉しかった。
彼女とあたたかい家庭を築き、幸せになる未来が見えた。
「私達のことは、サラーシュには言わないでおきましょう。可哀想だから。」
リサーナの提案には、疑問も持たずに同意した。
どうせ子どもの初恋だ。
僕が結婚すれば諦めるだろう。
その程度しか考えなかった。
というよりも、考えないようにしていたのか。
酷く冷たくしたわけではない。
言葉で否定したこともない。
嘘も付いていない。
頭を撫でることはあっても、体に触れることはなかった。
だから、婚約を発表した時のサラーシュを見るまで、傷付けていた自覚はなかった。
あぁ、僕の婚約で、サラーシュが悲しんでいる…
正直嬉しかった。
決して気付かれてはいけない気持ちだけど。
サラーシュ、僕を思って泣いてくれ!とまで思った。
それなのに、ある日サラーシュは消えた。
そして、次に現れた時は人妻だった。
僕を愛した君は、何処に行ってしまったのだろう。
そんなのダメだ。
サラーシュは生涯僕を愛せ。
身勝手な衝動を抑えきれず、庭園のガゼボに向かった。
そこで見たものは、僕を愛していないサラーシュだった。
そもそも真実の愛ではなかった。
そこに在ったのは、簡単に捨てられる幼い日の思い出だけだった。
愛し愛されることを知ったサラーシュは、もう僕の知らない女だった。
ケガをさせて、ごめんよ。
綺麗になったのは、ヴィルヘルムのおかげなんだね。
もう関わらないよ。
そんなふうに思っていても虚しいだけ。
だって、サラーシュはもう僕のことは考えないから。
嫌われるよりも、つらいのは忘却。
僕が痛みさえ残せなかった君からは、生涯消えぬであろう痛みをもらったんだね。
傷口に蓋をして、知らない振りをして生きていく。
それが僕の贖罪。
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