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40.愚かな罪
しおりを挟む項垂れるルーセントと、そんな弟を見つめるエステファンは、応接室に残った。
「なぁ、ルーセント。お前が素直な性格なのは、子どもの頃からよく知っているが、何故キャメロン公爵の言うことを真に受けた?」
ルーセントはゆっくり顔を上げて答えた。
「どうせ皇太子にも皇帝にもなれないし、レナリアと結婚すれば次期公爵だから、人脈が広がれば有利だと思って…」
「だからって、女性と親しくする必要があったのか?」
「キャメロン公爵が令嬢と仲良くなれば親も取り込めると…」
「で、実際、お前は一年で何を成し遂げたのだ?俺の耳には派手な女性関係しか聞こえて来なかったが?」
「…………」
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「まさか!?」
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「分かりません…」
「お前がロザリンドの次に手を出して、やり捨てたリリティア・オーランド侯爵令嬢はな、俺と婚約する筈だったんだよっ!やっと好きになれる女性を見つけたのに!!お前が遊びで寝たんだよ!父上が影に調査させて、それが分かった時の俺の気持ちと父上の落胆振り、お前には分からないだろう。俺の見る目が無かったんだろうと、諦めるまで苦しかった。お前のお遊びが、一体何組の婚約者や恋人達をぶっ壊した?俺ですら、こんな気持ちになるのに、レナリア嬢はどうだったんだろうな?なぁ、ルーセント、お前もこの痛みを知るがいい。今頃、お前の愛するレナリア嬢は、ジークフリードの腕の中だよ。パーティでの二人の寄り添う姿を見たか?信頼し合ってて、最高に似合ってたよ。お前が入り込む隙なんて無い位にな!」
エステファンは、ルーセントの言葉を聞かずに、部屋を出て行った。
(俺は…何てことをしてしまったんだ…レナリア…兄上…)
ルーセントは、己の行いの愚かさを初めて知ることとなった。
エステファンが穏やかな表情の下に隠していた苦しみに全く気付かなかったし、知ろうとも思わなかった。
エステファンが今の今まで心の傷を隠して、弟の愚行に耐え、堂々とした振る舞いを崩すことなく行動してきたその姿こそが、きっと次期皇帝に相応しいのだろう。
そして、どんなに手を伸ばそうと、レナリアは決して自分の手に入らないと悟った。
二人の間には、幼い頃から育んできた絆が確かにあった。
あたたかい眼差しと小さな手、優しい心根。
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ルーセントは、パーティで気付いていた。
レナリアには、もう自分への感情が無いことに。
恨みつらみをぶつけたり、泣き喚いたり、怒りや悲しみという感情が残っているなら、まだ想いは消えていない。
しかし、レナリアの瞳にはジークフリードしか映っていなかった。
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パーティの間、レナリアと一度も目が合わなかったルーセントは、ジークフリードに強烈な嫉妬を感じていた。
(これが身を焼かれる程の感情なのか…レナリア…レナリア…)
しかし、どんなに心が焼き切れそうに痛くても、もうレナリアは自分の手の届かない存在になったと自覚した。
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