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39.アウェイなルーセント
しおりを挟むレナリアとジークフリードがいちゃこらしていた頃、ルーセント殿下は皇宮の応接室で、エステファン殿下に噛み付いていた。
「兄上、昨夜のレナリアとあの公子の結婚は認められません!レナリアは俺と結婚する筈だったじゃないですか!?」
エステファン殿下は、呆れ顔でルーセント殿下を見ている。
「お前って奴は…まだレナリア嬢に想いがあったんだ。一年以上も放置しといて?どういうこと?」
「それは、社交に力を入れて、公爵家同士のバランスを取る為で…」
「はぁぁぁ…バカか?お前は…」
長い溜め息の後、エステファン殿下は側近に声を掛けた。
「お二人をお連れしろ!」
ルーセント殿下は、レナリアとジークフリードが入って来るかとドアを凝視したが、入って来たのは別の人間だった。
「何故、セルフォート公爵と夫人が!?それに陛下と皇后陛下も?」
「公爵、夫人、座ってください。父上と母上も。」
エステファン殿下に促され、四人はソファに腰を下ろした。
そして、ホルヘン皇帝が口火を切る。
「ルーセント、率直に言う。お前はレナリアとは結婚出来ない。彼女は正式にジークフリードの妻となった。この事実は、私、皇帝の名において、絶対に覆されない。」
「しかし、父上!」
「お前がしてきたことを振り返ってみろ!お前が一目惚れしたから結んだ婚約なのに、この一年以上、お前はレナリアに何をしでかしたんだ!?公爵令嬢が平民になる覚悟で、家を捨てたんだぞ?」
「レナリアが…?家を捨てた…?」
そこで、黙っていたウィルヘルムが口を開く。
「そうです。レナリアは、令嬢達と親密な殿下の行いに戸惑い、精神的に疲弊して、家を出ました。その時、護衛騎士のジークフリードだけを連れて行きました。」
「それなら、ジークフリードとデキてたってことじゃないか!」
「違います。ジークフリードが上手く身分を偽っていた為、公子であることが分かったのは、つい最近のことです。ジークフリードが平民だと、私もレナリアも思っていました。レナリアはジークフリードを家族のように信頼していたとは思いますし、そもそもレナリアは婚約中に不貞を働くような娘ではありません。幼い頃から殿下を慕い、それが親愛の情なのか、恋愛なのかは分かりませんが、レナリアなりに殿下と添い遂げる覚悟で居たと思います。しかし、他の令嬢と戯れる殿下を信じることが難しくなったのです。しかも!それをあと一年も続けるとなると、例え愛していたとしても無理でしょう?」
ウィルヘルムの言葉には、鋭い刃物のような緊張感が漂っていた。
「しかし!レナリアと結婚することで、五大公爵家のバランスが!」
「うるさい、バカたれっ!!」
ホルヘン皇帝は立ち上がって怒鳴った。
「誰がお前に公爵家のバランスを取れと言うた!?そもそもバランスなど取らんでいいのだ!お互いを牽制して、競争意識を煽ってこそ、帝国は繁栄するのだ!皆でぬるま湯に浸かっていたら、国は滅びる!!お前は、そんなことも分からんのかっ!!」
「でも… キャメロン公爵が…」
「まだ言うか!お前は、キャメロン公爵に利用されただけだ。レナリアとの婚約を無きものとし、ロザリンドとお前を結婚させ、キャメロン公爵家を筆頭にしたかっただけだ。」
ルーセント殿下は、最初の勢いが無くなり、俯いて唇を噛んだ。
「ルーセント殿下、レナリアの母としてお願い致します。あの子はジークフリード公子様を心から愛しています。どうか、あの子の幸せをそっとしておいていただけませんか?」
「レナリアが…ジークフリードを…」
「はい。ジークフリードはレナリアの傷付いた心に寄り添ってくれました。ルーセント殿下にレナリアが街で土下座をしたそうですね?あの時、レナリアはジークフリードを守ることに集中したのです。大切な人を守る為なら、土下座も厭わないほどに。ルーセント殿下には、レナリアの気持ちが分からないかもしれませんが…愛することとは、お互いに尊敬し守ることだと、私は思います。」
そして、ここまで一切口を出さなかったセラフィ皇后は、ルーセントの頬を打った。
「…母上……?」
「ルーセント、母ではなく一人の女性としてあなたに言います。あなたが良かれと思ってしてきたことは、人として最低です。その傲慢な手に、残ったものは何ですか?皇子の恥晒しな外聞と、婚約者を失ったという事実。レナリアだけでなく、周りも傷付けたということを、あなたはきちんと受け止めなさい。そして、あなたの母として言うなら、完全に子育てを失敗しました。素直で優しい子だと過信したのは、親の責任でもあります。」
自分の悪行と現実を突き付けられたルーセント殿下は、そのまま項垂れた。
「ウィルヘルム、ヘライザ、不詳の息子が多大な迷惑を掛けた。申し訳ない。」
ホルヘン皇帝とセラフィ皇后、エステファン殿下は、頭を下げた。
「ホルヘン皇帝陛下、セラフィ皇后陛下、エステファン殿下、どうぞ頭をお上げください。レナリアは、彼女なりの幸せを守っていきたいだけだと思います。どうか、どうか、静かに見守っていただけましたら何よりです。」
「分かった。私が責任を持って、レナリアを見守ろう。クロムウェル公国とも、良好な縁を繋いでくれたレナリアとジークフリードに感謝する。」
こうして、ホルヘン皇帝の確約を取り付けたウィルヘルムとヘライザは、応接室を出た後、ガッツポーズをした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガッツポーズ…
貴族はやりません…
ゆるゆるな設定なので、ご勘弁ください。
何か、させてみたかったのです。(〃ω〃)
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