【完結】 その身が焼き切れるほどの嫉妬をあなたにあげる

紬あおい

文字の大きさ
39 / 50

39.アウェイなルーセント

しおりを挟む

レナリアとジークフリードがいちゃこらしていた頃、ルーセント殿下は皇宮の応接室で、エステファン殿下に噛み付いていた。

「兄上、昨夜のレナリアとあの公子の結婚は認められません!レナリアは俺と結婚する筈だったじゃないですか!?」

エステファン殿下は、呆れ顔でルーセント殿下を見ている。

「お前って奴は…まだレナリア嬢に想いがあったんだ。一年以上も放置しといて?どういうこと?」

「それは、社交に力を入れて、公爵家同士のバランスを取る為で…」

「はぁぁぁ…バカか?お前は…」

長い溜め息の後、エステファン殿下は側近に声を掛けた。

「お二人をお連れしろ!」

ルーセント殿下は、レナリアとジークフリードが入って来るかとドアを凝視したが、入って来たのは別の人間だった。

「何故、セルフォート公爵と夫人が!?それに陛下と皇后陛下も?」

「公爵、夫人、座ってください。父上と母上も。」

エステファン殿下に促され、四人はソファに腰を下ろした。
そして、ホルヘン皇帝が口火を切る。

「ルーセント、率直に言う。お前はレナリアとは結婚出来ない。彼女は正式にジークフリードの妻となった。この事実は、私、皇帝の名において、絶対に覆されない。」

「しかし、父上!」

「お前がしてきたことを振り返ってみろ!お前が一目惚れしたから結んだ婚約なのに、この一年以上、お前はレナリアに何をしでかしたんだ!?公爵令嬢が平民になる覚悟で、家を捨てたんだぞ?」

「レナリアが…?家を捨てた…?」

そこで、黙っていたウィルヘルムが口を開く。

「そうです。レナリアは、令嬢達と親密な殿下の行いに戸惑い、精神的に疲弊して、家を出ました。その時、護衛騎士のジークフリードだけを連れて行きました。」

「それなら、ジークフリードとデキてたってことじゃないか!」

「違います。ジークフリードが上手く身分を偽っていた為、公子であることが分かったのは、つい最近のことです。ジークフリードが平民だと、私もレナリアも思っていました。レナリアはジークフリードを家族のように信頼していたとは思いますし、そもそもレナリアは婚約中に不貞を働くような娘ではありません。幼い頃から殿下を慕い、それが親愛の情なのか、恋愛なのかは分かりませんが、レナリアなりに殿下と添い遂げる覚悟で居たと思います。しかし、他の令嬢と戯れる殿下を信じることが難しくなったのです。しかも!それをあと一年も続けるとなると、例え愛していたとしても無理でしょう?」

ウィルヘルムの言葉には、鋭い刃物のような緊張感が漂っていた。

「しかし!レナリアと結婚することで、五大公爵家のバランスが!」

「うるさい、バカたれっ!!」

ホルヘン皇帝は立ち上がって怒鳴った。

「誰がお前に公爵家のバランスを取れと言うた!?そもそもバランスなど取らんでいいのだ!お互いを牽制して、競争意識を煽ってこそ、帝国は繁栄するのだ!皆でぬるま湯に浸かっていたら、国は滅びる!!お前は、そんなことも分からんのかっ!!」

「でも… キャメロン公爵が…」

「まだ言うか!お前は、キャメロン公爵に利用されただけだ。レナリアとの婚約を無きものとし、ロザリンドとお前を結婚させ、キャメロン公爵家を筆頭にしたかっただけだ。」

ルーセント殿下は、最初の勢いが無くなり、俯いて唇を噛んだ。

「ルーセント殿下、レナリアの母としてお願い致します。あの子はジークフリード公子様を心から愛しています。どうか、あの子の幸せをそっとしておいていただけませんか?」

「レナリアが…ジークフリードを…」

「はい。ジークフリードはレナリアの傷付いた心に寄り添ってくれました。ルーセント殿下にレナリアが街で土下座をしたそうですね?あの時、レナリアはジークフリードを守ることに集中したのです。大切な人を守る為なら、土下座も厭わないほどに。ルーセント殿下には、レナリアの気持ちが分からないかもしれませんが…愛することとは、お互いに尊敬し守ることだと、私は思います。」

そして、ここまで一切口を出さなかったセラフィ皇后は、ルーセントの頬を打った。

「…母上……?」

「ルーセント、母ではなく一人の女性としてあなたに言います。あなたが良かれと思ってしてきたことは、人として最低です。その傲慢な手に、残ったものは何ですか?皇子の恥晒しな外聞と、婚約者を失ったという事実。レナリアだけでなく、周りも傷付けたということを、あなたはきちんと受け止めなさい。そして、あなたの母として言うなら、完全に子育てを失敗しました。素直で優しい子だと過信したのは、親の責任でもあります。」

自分の悪行と現実を突き付けられたルーセント殿下は、そのまま項垂れた。

「ウィルヘルム、ヘライザ、不詳の息子が多大な迷惑を掛けた。申し訳ない。」

ホルヘン皇帝とセラフィ皇后、エステファン殿下は、頭を下げた。

「ホルヘン皇帝陛下、セラフィ皇后陛下、エステファン殿下、どうぞ頭をお上げください。レナリアは、彼女なりの幸せを守っていきたいだけだと思います。どうか、どうか、静かに見守っていただけましたら何よりです。」

「分かった。私が責任を持って、レナリアを見守ろう。クロムウェル公国とも、良好な縁を繋いでくれたレナリアとジークフリードに感謝する。」

こうして、ホルヘン皇帝の確約を取り付けたウィルヘルムとヘライザは、応接室を出た後、ガッツポーズをした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ガッツポーズ…
貴族はやりません…
ゆるゆるな設定なので、ご勘弁ください。
何か、させてみたかったのです。(〃ω〃)
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。 絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。 王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。 最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。 私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。 えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない? 私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。 というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。 小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。 pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。 【改稿版について】   コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。  ですが……改稿する必要はなかったようです。   おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。  なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。  小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。  よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。   ※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。 ・一人目(ヒロイン) ✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前) ◯リアーナ・ニクラス(変更後) ・二人目(鍛冶屋) ✕デリー(変更前) ◯ドミニク(変更後) ・三人目(お針子) ✕ゲレ(変更前) ◯ゲルダ(変更後) ※下記二人の一人称を変更 へーウィットの一人称→✕僕◯俺 アルドリックの一人称→✕私◯僕 ※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

この愛は変わらない

豆狸
恋愛
私はエウジェニオ王太子殿下を愛しています。 この気持ちは永遠に変わりません。 十六歳で入学した学園の十八歳の卒業パーティで婚約を破棄されて、二年経って再構築を望まれた今も変わりません。変わらないはずです。 なろう様でも公開中です。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

処理中です...