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10.夫がおかしい
しおりを挟む倒れてから五日。
アヴィスがおかしい。
事ある毎に私の傍に来て、愛を囁いている。
まるで人が変わってしまったように。
今もベッドの傍に付きっきりだ。
「あの…どうしたんですか…?そんなに気を遣わなくていいですよ?」
「何で?愛しい妻に何かしてあげたいって変?」
「愛しいって…それ、私のことじゃないですよね…」
「いや、君だよ、ノアリス。」
「私、倒れた時、頭でも打ったのでしょうか?それとも、夢?」
「夢じゃない。今から、ちゃんと話すから聞いて欲しい。」
真面目な顔で、私をじっと見つめた。
タチアナに兄弟ともに、いいように騙されていたこと、与えた住まいには男と住んでいたこと、その後の処分に至るまで、包み隠さずアヴィスは話してくれた。
「ノアリス、本当にすまない。君に大変失礼なことばかりしてきた。今更言っても信じられないかもしれないが、俺は君を愛してる。」
目の前に居る人の言葉が、すぐには信じられなかった。
「それは、一緒に暮らして芽生えた家族愛とかであって、男女の愛ではないのだと思います。私は今まで通りで充分ですよ?怖いのです。男女の愛はいつか冷めてしまうかもしれない…」
「信じられないのは当たり前だよな。ゆっくりでいいから、俺を見てくれないか?」
「そこまで仰るなら…分かりました…」
アヴィスは嬉しそうに私を見て、手を取り指先に口付けた。
「ノアリスの世話を焼きたいんだが、湯浴みしないか?汗をかいていたようだから。」
「えっ!?そ、それは…」
「全部見たことあるんだから、大丈夫だ!」
(大丈夫の使い方がおかしい…というかアヴィス様がおかしい…)
「ほら、行くぞ!」
嬉々として、私を抱き上げて運んで行った。
「気持ちいいだろ?全部洗ってやるから任せろ。」
ここは大人しくすることにした。
久しぶりの湯浴みだし、とにかく気持ちいいのは本当だ。
「あのぅ、何故アヴィス様まで全裸?」
「濡れるから!あと、ちょっとだけ不埒な気持ちが…」
その不埒、この後すぐに実感した。
私を後ろから抱いて、湯船に浸かりたかったらしい。
「ノアリスの抱き心地、最高だ。俺に寄り掛かっていいからな!」
確かに楽で気持ちいいけど、下腹に当たる塊が恥ずかしくて、顔が赤らむ。
「耳が真っ赤だけど、のぼせた?」
「いぇ…違います…当たるんです…あ、あなたの…」
「あっ…こ、これは自然現象だ。気にしないでくれ。」
下手くそ過ぎる言い訳に、思わず吹き出してしまう。
「ぷっ、ふふふふふっ!何ですか、それ!あははっ!!」
アヴィスはぎゅっと抱き締めて、耳元で囁く。
「やっと笑ったね。その顔が見たかったんだ。愛してる…ノア。」
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