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241.【三木プロダクション】
しおりを挟む雅臣「こ、ここが……」
俺は思わず声を漏らした。
椿町の方だと言う三木先輩に着いてきたが、名古屋駅の喧騒を抜けた先に現れたビルは雑多な街並みにそぐわないほど洗練されていた。
三木「さぁ、入って」
〝三木プロダクション〟と刻まれた看板が掲げられた新社屋は、つい最近建て替えられたばかりだという。
ガラスと鋼が織りなすモダンな外観は、陽光を鏡のように反射しまるで別世界への入口のようだった。
雅臣「す、すごいですね……」
三木「大したことはない。さ、行くぞ」
三木先輩は軽く笑ってエレベーターに乗り込むが、まずガラス張りのエントランスから差し込む光が白を基調としたロビーをまばゆく照らし、舞台のスポットライトみたいに空間を際立たせていた。
3階に到着すると今度は壁一面に広がる巨大なミラーと天井から吊り下げられたモダンな照明、そして床に敷かれた光沢のあるタイル。
あまりの華やかさに圧倒されながら、どこか現実離れした空間に興奮してキョロキョロと見渡してしまう。
廊下の奥に目をやると、全身鏡の前でポーズを磨くモデル志望らしき少女がいるが……。
あ、あの子、頭が俺の拳くらいしかないぞ!?
それによく見れば練習室でダンスレッスン中のアイドルグループらしき人たちのスタイルも異次元すぎる……!!
その足の長さや頭、顔の小ささに、ガラス越しに映る自分の姿が急に平凡であまりにもスタイルが悪い気がして情けなくなってしまった。
………。
………いや、いやいや。
比較して落ち込む必要なんてないだろ。
俺は一般人じゃないかと気を引きしめる為にすぐさま頭の中で蓮池を思い浮かべてみた。
〝陰キャはすぐハシャぎやがる〟
〝事務所歩いとるだけでタレント気取りか!〟
程よい罵声を想像したら一気に冷静になって落ち着いた。
テレビっ子でミーハーな俺が芸能プロダクションに来てテンションが上がるのは仕方がないが、もう少し気持ちを落ち着けないと。
脳内蓮池のおかげで気を取り直すことができて胸を撫で下ろす。
三木「ここで少し待ってて貰ってもいいか?少しだけ仕事があってな」
雅臣「もちろん待ちます!すみません忙しいのに……」
三木「気にするな。コーヒー飲むか?」
雅臣「ありがとうございます」
そのまま客間へと通されソファに腰をかける。
ふと視線を落とすとガラス製のテーブルには業界誌やタレントのポートフォリオがさりげなく置かれていて、夢の第1歩を踏み出す場所であることを静かに物語っていた。
三木「横の部屋で子役指導の手伝いがあるんだ。30分もかからないと思うから自由に過ごしててくれ」
雅臣「わ、わかりました」
コーヒーを置いた三木先輩が客間から出て行くが、家業とはいえ高校生なのに仕事をしているなんて改めて考えると途方もなくすごいことだ。
タレントのスケジュール調整やクライアントとの打ち合わせなど、きっと俺には想像もつかない仕事をこなしながら先輩は勉強も部活も涼しい顔で両立している。
テストはほとんど100点で学年1位、少し前までは合唱部で部長まで務めていて……。
俺なんて日常生活で手一杯なのに、こうして相談に乗ってくれる余裕まで持ち合わせてるなんて次元が違いすぎる。
己の未熟さにため息しか出ず少しでも相談内容をまとめようと頭を巡らせていると、スタジオの扉の隙間から子供の弾んだ声が漏れ聞こえてきた。
「はるちゃんおはよー!!」
三木「おはようございます、だろ?」
「はるちゃんこれなんてよむのー?」
三木「次の台本か…読み仮名振っておいてあげる。さぁ練習再開だ」
スタジオの扉の隙間から子供たちが目を輝かせて先輩の指導に耳を傾けてる気配が伝わってくる。
何かの劇の練習だろうか?
複数いる子供1人1人のセリフを丁寧に導く三木先輩の声には、高校生の域を超えた頼もしさがあった。
雅臣「ん……?」
ふとガラス製のテーブルに置かれた冊子に目が留まる。
そのうちの1つはこの前二階堂さんのところで見たスタイルブックだった。
そこには梓蘭世の名前が記載されていいて、肝試しの時の姿が脳裏に浮かぶ。
あの頃の梓蘭世もこんな風に三木先輩に台本の読み方を教わっていたのだろうか。
事務所の柱として君臨していたのに、今は自分の進むべき道を模索する梓蘭世の姿が子供の無垢な声と重なる。
芸能界への復帰を考えている梓蘭世も、事務所を継ぐために努力する三木先輩も、華道で頂点を目指す蓮池も。
皆、自分の未来をしっかり見据えてるのに俺だけがあまりにも漠然としすぎて焦燥感に駆られてしまう。
自由だからこそ、自由すぎて何を選べばいいのか分からないなんて____。
色々なことを考えながらコーヒーを1口飲むと、客間の扉が突然開いた。
三木先輩が戻ってきたのかと顔を向けると、
「……誰?」
「失礼だよ。ここにいるんだから___」
「あぁ!新しいスタッフさんか!!おはようございます!!」
明らかに一般人ではない輝きとオーラを持つ2人がいきなり中へ入ってきた。
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