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278.【何がそんなに嫌なのか】
しおりを挟む蘭世「まじで騎馬戦なんか普通に忘れてたわ」
三木「ついでにこのまま9月の練習日とかも決めてしまおうか」
三木先輩は立ち上がってマーカーを手に取りホワイト
ボートに向かった。
夕太「ほんじゃ騎馬戦から決めよう!」
蘭世「つってもそんなんもう決まってね?デブが下」
楓「……あんたほんと嫌味な人ですね、俺が下確定って言いたいんですか?」
蘭世「いや?でんだけじゃねーよ」
梓蘭世は頬杖つきながら順に指を差していく。
蘭世「まず三木さんが1番前で威圧する、そんで左下のでんが煽り散らかす。右下は弱そうな雅臣で油断させる、土台はこれで決まり」
……酷い言われようだな。
身長的に俺を含めたその3人なのは分かるが、デブに油断させる係って……。
柊は三木先輩からペンを奪うとホワイトボードの右端にそれぞれの名前を書いていくが、わざと俺の所だけ
『雅臣:油断させる係』と書き足している。
海外アニメのカナリアのように鼻歌混じりで口を尖らせているが、どうせ弱そうな俺が狙われて集中攻撃を
受けると思ってるんだろう。
蘭世「ほんで1番上は猿みたいに暴れる夕太、確定」
これしかないと言わんばかりの梓蘭世にもう少しマシな言い方があるだろとため息をついた。
夕太「何だよ人を小さいみたいにさー」
蘭世「事実だろ」
だがニヤリと笑う梓蘭世の言葉に、蓮池がピクリと肩を震わせるのを俺は見逃さなかった。
忘れていたが、蓮池は身長の話になると妙に敏感になるんだよな。
眉間に皺が寄って唇がキツく引き結ばれるのを見て、
何故そんなに難しい顔をするのかやっぱり分からなかった。
梅生「でもサイズ的にもいいんじゃない?下は安定してるし柊も運動神経よさそうだし」
夕太「よし!!じゃあ俺が上で___」
楓「ダメだよ夕太くん」
部屋が一瞬、静まり返った。
蓮池の目はホワイトボードの前で張り切る柊を強く
見つめている。
楓「危ないよ。……梓先輩、あんた軽いんですから自分が上行けばいいでしょう」
雅臣「いやそれは……」
俺は思わず口を挟んだ。
柊と運動部では余りにも体格差があるし蓮池が心配する気持ちも分からなくもない。
ただ梓蘭世は確かに細いが身長も結構あって、しかも
公には活休中とはいえ三木プロ所属の芸能人だ。
もし騎馬戦で体格のいい運動部の連中にもみくちゃに
されたら傷がついて事務所的に大問題なのでは……。
色々な考えが目まぐるしく頭の中を駆け巡る中、三木
先輩が即座に首を振った。
三木「それは止めてくれ。悪いけど蘭世はうちの商品
だからな」
楓「……なら、俺は出ません」
雅臣「えっ……!?」
蓮池は自分の意思を変える気がないとばかりに口を
真一文字に結んで黙り込んでしまう。
こいつがこんなにも露骨に嫌悪を滲ませる顔をするのは久しぶりで、張り詰めた空気を纏う姿に言葉が出ない。
小柄な幼馴染が怪我するんじゃないかと心配なんだろうけど、正直そこまで心配することか?
蓮池の指はテーブルの縁を強く握り、爪が木に食い込む音が微かに聞こえた。
夕太「いいよ、でんちゃんは出なくて!俺は上でハチマキもぎ取りまくるから!!」
楓「いやそうじゃなくて、」
幼馴染の心配とは裏腹に柊はブンブンと腕を振り回してやる気を見せているが、蓮池の表情はますます曇る
ばかりだ。
夕太「それにでんちゃん、ワークショップあるし仕事柄手は傷つけられないもんね」
……ああ、そういう理由もあるのか。
大袈裟かもしれないけど、いけばなを生業として生徒
までいる以上骨折でもしたら指導も出来なくなる。
梅生「それなら俺が下やるよ」
楓「でも……」
一条先輩は代わるよ、と立ち上がって蓮池の肩をポンと叩くがまだ納得がいかないのか渋い顔をしていた。
蓮池の声には強い拒否感が滲んでいて、柊が騎馬の上に乗るなんて絶対に嫌だと言わんばかりの顔だ。
蘭世「梅ちゃんまじ?大丈夫?」
梅生「細すぎる蘭世よりは戦力になるだろ」
ポロシャツの袖をまくってほとんど無い力こぶを見せる一条先輩に柊がふざけてぶら下がろうとしている。
楓「あの、」
蘭世「でんうるせぇよ。んじゃこれで決定な。完璧な
騎馬戦パーティーだわ」
三木先輩がホワイトボードにサラサラと書き加え、
とりあえず一旦は決まった。
楓「……夕太くん、気を付けてね」
夕太「教師狙い一択じゃね!?」
蓮池の心配そうな声が届いてないのか柊はさっそく
騎馬戦での戦略を考え始めている。
心配性の幼馴染を置いてけぼりにして、負けず嫌いの
柊は絶対勝つと意気込んでいた。
梅生「頑張ろうな、俺たち文化部でも優勝の可能性は
あるからさ。去年も優勝文化部だったよな?」
蘭世「アイ研よ、アイドル研究会。それこそ1番に教師陣からハチマキもぎ取って文化部も全滅させてたろ」
夕太「へぇー!意外!!でも夢あるね」
三木「あぁ、そういえば土産を渡そうと思ってな」
それぞれ話が盛り上がるうちに、蓮池の不安そうな顔は無いものとされてしまった。
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