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295.【失礼な人】
しおりを挟む「き、き、君、」
雅臣「は、はい?」
蓮池の仕事相手は俺を見た瞬間、明らかに動揺していた。
目を見開いたまま言葉を失っている様子に俺までなんだか落ち着かなくなってくる。
その様子に気づいた蓮池が俺に気づくと顔を顰めて盛大にため息をついた。
楓「てめぇ何他人の家で逢い引きしとんだ、ババアも
不倫しとんなよ」
雅臣「は、はぁ!?お前は本当に何てこと言うんだよ!!」
「あらあら……」
一応客人らしき人がいると言うのに何故こいつは通常
運転で罵倒してくるんだ!
しかも毎回俺が熟女好きみたいな扱いをするのもいい
加減にしろ!!
学校なら即座に言い返すところだけど、さすがに人前で揉めるのはよくないとぐっと我慢して飲み込んだ。
「あ、あの……」
雅臣「はい?」
呼ばれて視線を戻すと、蓮池の仕事相手も同業者なのか着物姿だった。
淡い墨色の紬は逸品でざらりとした質感が渋く上品で
背の高い彼にとても良く似合っている。
蓮池に負けず劣らず目を引く存在だと眺めていると、
向こうから俺に1歩近づいてきた。
「もしかして君は藤__痛っ!?」
……が、何故か蓮池は一条先輩の如くそのつま先をグリグリと踏みつけた。
「楓くん!?急に何するんだよ!?」
楓「桜山、今日の打ち合わせキャンセルしてもいいん
だぞ」
「え!?ダ、ダメだよ。それは困るよ」
楓「なら先に外へ出てタクシー呼んでこい。俺が個室で予約した店に行きたいだろ?」
仕事相手に随分な言い方だが、蓮池に冷たく指示を出されても積もる話があるのか桜山と呼ばれる人は大喜びしている。
「分かった、楓くんの気が変わらないうちに呼んでくるね。__失礼しました」
桜山さんは痛がりながらも嬉しそうに踵を返し、去り際に蓮池のお母さんには深く一礼した。
だが、俺に対してだけは上から下まで舐めるように眺めてくるのは何故なんだろう。
……失礼な人だな。
嫌悪が伝わったのかさすがに桜山さんも我に返ったようで、自分にも頭を下げて急いで母屋を出ていった。
見た目は上品なのに、随分落ち着かない人だ。
だがよく良く考えれば自分も名古屋に来たばかりの頃は似たような視線を誰彼構わず向けていたわけで……。
蓮池が「ジロジロ見るな」と怒っていたのは、受け取る側がこんなに不愉快な気持ちになるからだったのかと猛省した。
楓「……悪い」
蓮池はため息をつきながら自分の仕事相手の不備を代わりに謝ってくれるが、いつもとは打って変わった殊勝さに驚いてしまう。
雅臣「い、いやいや、別に気にしなくても大丈夫だから!!それに今から予定があるんだろ?早く行った方がいいんじゃないか?」
楓「……そうする、じゃあな」
あまりの素直さに早歩きで仕事に向かう蓮池の背中をしばらくポカンと見つめるが、
「__さ、お茶をいれますね」
雅臣「え?あ、は、はい……」
蓮池のお母さんに促されて、この家に上がらせて貰った理由を思い出した。
ただ蓮池がいなくなった今、正直どうやって1人でこの家でお茶をご馳走になればいいのか分からない。
途方に暮れてしまって、曖昧に微笑むしかなかった。
______
_______________
……。
………………。
気まずい。
通されたのは以前泊まった時と同じ座敷で、総檜の
一枚板のローテーブルが相変わらず美しい光沢を放っている。
棚の上には幼い柊と蓮池のツーショット写真がそのまま飾られていて、緊張しながら正座をしてもてなしを
待った。
「ゆっくりしていってくださいね」
雅臣「は、はい……」
気持ちは有り難いが……帰りたい。
薄紫の湯呑みに注がれた煎茶は本当に美味しくて香りも立っているけれど、やっぱり蓮池のお母さんと2人きりだなんて落ち着かなくて困ってしまう。
何を話せばいいんだと視線をさ迷わせるが、やはりここは共通の話題しかないだろう。
雅臣「は、蓮池と柊は仲がいいんですね」
写真立てを見ながらさり気なく会話をすると、蓮池の
お母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「ずっと一緒なんですよ。私と夕太くんのママが同級生でね……」
雅臣「え!そうなんですか?」
蓮池流は蓮池のお祖父さんが現家元で多分お父さんが
次の跡継ぎだ。
となるとこのお母さんは嫁入りされた方なんだと改めて納得する。
元々名家の出身なのかご婦人は品が良くいつも穏やかで、反対に柊の母親は5回結婚……いや、5人出産というだけかもしれないが、5人とも相手は違うわけで……。
正直正反対な2人の相性は合うのだろうかと考えてしまうが、俺と柊だって友達として最初から全てが上手くいった訳では無い。
きっと蓮池のお母さんも自分に無い魅力を柊のお母さんに感じているのだろう。
雅臣「写真のこの子、蓮池なんですね」
話題を変えると、幼い頃の息子を見た蓮池のお母さんはにっこり微笑んだ。
「可愛いでしょう?可愛くて可愛くて、つい甘やかし
ちゃって……私の教育が悪かったの」
ふう、と困ったようにため息をつくご婦人に俺は慌ててそんなことないですと小さく手を振った。
きっとブランドも買い放題、自由奔放と言えば聞こえがいいがわがまま放題にさせた自覚があるのだろう。
俺にも暴言を吐いたりとび森の島を荒らしたり蹴飛ばしたりとやりたい放題だが、蓮池にはちゃんと素敵な
ところがたくさんある。
雅臣「はす……楓くんは優しいですよ。俺が体調悪い時に見舞いに来てくれたり、俺の死んだ母親を気遣ってくれたり」
「あら、教えてくれて嬉しいわ……ありがとう。
さて、そろそろインコ達にごはんをあげないと」
雅臣「えっ」
「奥の部屋でインコを3匹飼っているんですよ。夕太くんのお願いだから皆でお世話していてね?」
ふふふと笑いながら蓮池のお母さんは立ち上がるが、
俺の中では疑問が渦巻く。
何で柊が頼んだからって、蓮池家全員がインコの世話をするんだ?
てっきり蓮池だけが世話しているのかと思ったが、この言い分だと蓮池のお母さんもお父さんもお爺さんも
お世話をしているようで……。
いや、ペットも家族なんだから皆で世話するのは当たり前で、でも何となく引っかかる言葉に俺は首を傾げてしまう。
「おかわりもありますからね。ここにあるお菓子も
好きなだけ食べてくださいな」
雅臣「い、いや!!本当にお気遣いなく___」
「楓!!!楓はどこへ行った!!!」
お茶のおかわりを入れに蓮池の母親が立ち上がった瞬間、鬼の形相で杖をついたお爺さんが現れた。
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