山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
130 / 394

柊夕太の悶々日和1

しおりを挟む



夕太「ふふ……」


つい思い出笑いしてしまうくらい気分がいい。

アフタヌーンティーは美味しかったし、2人と色んな話もできたし。

でんちゃんといて食べ物以外の話題があんなに沢山出るなんて全部雅臣のおかげだ。

しかも話題が尽きなかったと軽い感動を覚えながら名観ホテルのロビーを出ると夕方近くになっても日差しが眩しい。

会計を済まして帰ることになったけど、3人とも東山線藤が丘方面行きに乗るとはいえ俺だけ栄で降りるから1区間しか乗らない。

さっきまでキンキンにクーラーが効いたラウンジにいたせいか体はすっかり冷えきっていて、俺は栄まで歩いて帰ることにした。

ギリ耐えれる暑さだし消化させがてら駅まで歩くと伝えれば2人に正気かという顔をされちゃったけど、手を振ってバイバイした。

ホテルを出てから広小路通りを栄に向かってずんずん歩いていく。


…………。


冷えた身体に暑さがちょうど良く足取り軽く歩いていたけど、2人きりにして大丈夫だったかな?


…………まぁ、いっか。


何となく2人は前よりいい感じだし大丈夫だよな!

一瞬心配になって交差点前で立ち止まったけど、気を取り直して俺はまたずんずん歩き出す。

相変わらず2人の相性は良いとは言い難いけれど、でんちゃんがお見舞いに行った日から明らかに2人の関係性が変わって見えた。

……いやぁ、それにしてもあのでんちゃんが本当にお見舞いに行くとはね。

でんちゃんはハッキリ〝お見舞いに行った〟とは言わなかったけど、電話を貰った俺はピンときたよ。

あまのじゃくな幼馴染を思いながらそのまま真っ直ぐ10分程歩くと、コメナの姉妹店〝和喫茶おこげ庵〟が見えてきた。

外に貼ってある看板のメニューをつい立ち止まって見てしまう。

あんみつやわらび餅に焼き団子、きしめんにレトロスパゲティ…こっちは和風喫茶なんだよね。

そういえば雅臣ってこの間のコメナも初めてっぽかったしおこげ庵なんか絶対知らないだろうな……。

雅臣はああ見えて割とフッ軽だし、今度はここに誘ってみるのもありだよねとまた駅に向かって歩き出す。


…………。


でんちゃんも誘えば一緒に来るかな?


まあでんちゃんは絶対茶屋ヶ坂のおこげ庵がいいって聞かないんだろうけど。

頑なに盛り方が違うとか量がどうとかうるさい幼馴染を思い出してつい頬が緩む。

目の前の信号がちょうど青に変わって、渡ってから何かいるものがあるか姉ちゃん達に聞いてみようと思いつく。

早速スマホを開いて姉ちゃん達と俺のグループチャットに打ち込めむと半数の既読がついた。

もし4人とも欲しいものが来たら……まぁその時はその時で。

とりあえず暑いので地下街に入ると相変わらず謎センスの服屋が乱立していて面白い。


えっと……あれ、さっき何考えてたんだっけ?


あ!そうそう、でんちゃんがお見舞いに行った奇跡についてだ。

姉ちゃん達の返信を待って適当に歩きながら涼んていると、この間の出来事を思い出した。

雅臣が熱を出した時にしつこくお見舞いの催促をしたんだけど、でんちゃんは変に落ち込んだ声で電話を切ったからちょっとびっくりしたんだよな……。

でもその後でんちゃんから電話を貰った時の声はとても明るくて、どうやって聞き出したのか分かんないけど雅臣が自分の父親を〝とっと〟と呼んでるらしいとビッグニュースまで教えてくれた。

電話越しの幼馴染はきっとすごく小馬鹿にした顔で笑ってるんだろうな、と想像がつくくらい楽しそうな声色で……。

普段のでんちゃんからの電話なんて要件くらいしかないのに、俺達の間にこんな話題が出るなんてと飛び上がってバンザイしたいくらいだった。

悟られないようにその時は必死に平静を装ったけど、あの雅臣がって想像すると面白すぎてつい爆笑してしまった。

雅臣は割と顔に出るタイプだし、その時の感情が丸わかりなんだよなー。

〝俺は気高く生きてますので君達みたいなバカとは関わりませんよ〟くらいカッコつけてたのに、よりにもよってその雅臣が子供みたいな呼び方をしてるなんて。

でんちゃん風に言うと雅臣は気取り散らかしてるが正解なんだけど、


夕太「……おっとっと、ふふ…」


聞いた瞬間も大ウケだったのに何回思い返しても面白い。

でんちゃんはどこからかけてきたのか電波が謎に悪くブツギレの通話で全貌がよく見えなかったけど、新しいおもちゃを見つけたみたいに楽しそうに話す幼馴染に行かせて良かったと胸を撫で下ろしたのを思い出す。


………もちろん、くどいくらい見舞いに行けって連絡入れてたのには理由があるんだよ。


俺は前からでんちゃんにはもっと世界を広げて欲しいと願っていたんだ。

その方が本人のためにも華のためにもいいとずっと思っていたんだけど、頑なな幼馴染は俺にそれを言わせなかった。

話をしようにも〝あの事〟があってからでんちゃんの心は完全に閉ざされてしまった。

だから雅臣をコテンパンにしたと聞いた時、でんちゃんが俺以外の人と関われるまたとないチャンスだと思ったんだ。


____でんちゃんの世界はあまりにも狭い。


でんちゃんの世界にはずっと華か俺しかなくて、あまりの視野の狭さにさすがに良くないよなと気がついた時にはもう遅かった。

でんちゃんはいつも俺ばかり見てて……多分俺のことしか考えていない。

どうにか俺から目を逸らさせたくて色々やってきたんだけど、でんちゃんの気持ちは変わらない。

俺は〝幼馴染〟という関係は変えたくないけど、もっと違う関係性に変わりたくなった。

雅臣を見てたら余計にそう思ったんだ。

それを上手く伝える方法が分からなくて、考えれば考えるほど俺達は全く身動きが取れなくなってしまった。

だから初めて雅臣を見た時に、こいつしかいないと思ったんだ。

きっかけはどうであれ幼馴染の癇に障るだろうという直感は大当たりして、でんちゃんの意識は見事に俺から逸れてくれた。

本当に俺以外の人に素で話すでんちゃんを久しぶりに見たなと今日の軽い口喧嘩を思い出して立ち止まる。

雅臣が1言うと100で返すでんちゃんは俺といる時なんかよりずっと自然体で、そんな2人を見て心底いいなと思ってしまった。


だって、でんちゃんは俺には何も言わないから。


本当に言いたいことがあっても、俺には絶対に雅臣相手みたいに言い返してこない。

どうしてかなんて理由が分かってるからもどかしくなる。


夕太「うぉ!」


スマホの着信音で俺の意識は引き戻される。


〝三越地下1階ジョアンナでプチクロワッサン買ってきて〟

〝ミニカヌレも頼んだ〟

〝ローストビーフも〟

〝キッシュがいい〟


夕太「弟使い荒すぎる!!」


画面の通知を長押しして開くと、姉ちゃん達からの怒涛の返事につい声を荒らげてしまった。

でも言い出しっぺは俺だし、と諦めて三越に向かって歩き出す。

ホテルから栄まで15分くらいの距離だったけど、程よく肌が汗ばんでいたから地下街の冷房が心地良かった。


……あ、ディッパードン!


元クリスタル広場の角地に青い看板のクレープ屋の前は割と賑わっていた。

新しく出来たんだ……、今度梅ちゃん先輩に教えてあげるついでにまたサークルの皆で食べに来てもいいな。

小さいエスカレーターを上がりながらショーウィンドウに飾られた花を眺めて三越に入るとまたでんちゃんのことを思い出した。


『いけばな界で頂点を取る』


でんちゃんの夢を今日初めて聞いて、俺は本当に心の奥底から安心したんだ。


……そうだよ。


でんちゃんは道を逸れてはいけない。

でんちゃんは華の世界で真っ直ぐ前だけを見て、正しい道を歩いてほしい。

いつまでもあの記憶に囚われないで、そして俺なんかに気を取られないで、でんちゃんには真っ当に生きて欲しい。

心の奥底からそう思ってしまった。

俺達の間で将来の話が出るなんて奇跡に近いし、でんちゃん自らの口で夢を語れたのは、そしてそれを聞けたのはやっぱり雅臣のおかげだと口元が綻ぶのがわかる。

夕方ということもあって買い物客が多い中、改めて雅臣って良い奴だなと小さく何度も頷いた。

最初は見てるだけで何も行動しない図々しくてでんちゃんの癇に障りまくる奴が俺達の間に入ってくれてラッキーくらいの感じだったけど……。

雅臣のおかげでいつの間にか俺もでんちゃんも互いのことだけを考えなくなった。

間に誰か1人入るだけで少しは重たい空気が緩和されるかもと思ってたけど、こんなにも分かりやすくいい方向に変わっていくのは予想外だった。

やっぱり俺って見る目ありすぎじゃない?

目的のパン屋に到着しバニラクロワッサンとチョコクロワッサンを30個ずつ包んでもらうと、スマホがブーブーとうるさい。


〝今どこ?車だから拾うけど〟


いち姉ちゃんだ!神!超ラッキー!

通知を見てガッツポーズをしすぐに返信すると30分後にプリンセス大通りで拾ってもらえることになった。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

処理中です...