山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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柊夕太の悶々日和2

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いちねぇが迎えに来るまで時間潰しにゲーセンでも寄ろうとまた地上に上がると、


夕太「あっっ……づい……」


外に出て歩くと余りの暑さに声が出るが、素早く待ち合わせ場所に1番近いゲームセンターに入って種類が豊富なUFOキャッチャーを眺める。


夕太「やっちゃおっかな」


さすがに涼むだけってのも悪いしな。

いいのがあったら1回やろうと1000円を崩してブラブラ歩く。


夕太「あ!とび森じゃん!」


可愛い小さなマスコットが目に入って、ポケットの小銭を取りだした。

〝とびちれどうぶつの森〟は大人にも子供にも大人気のコミュニケーションゲームで、いち姉ちゃんがハマってたから俺もやってみたんだけどすぐ飽きた。

俺にはちまちま部屋とか作るの向いてないなーってつくづく思ったんだけど、そういえば雅臣ってゲームとかやるのかな?

多分だけど、雅臣はとび森好きそう。

流行りの音楽と賑やかな音を聴くと自然と楽しくなってきて、今度雅臣に聞いてみようと早速100円を投入口に突っ込むとUFOキャッチャーは緩やかに動き出した。

真顔のクロヒョウのキャラクターが何となく雅臣に見えて狙いを定めると、


夕太「あっ、惜しい…もう1回」


アームが緩い気がして今度は一度に500円入れてクレーンを動かした。

ガラス越しにクロヒョウを眺めて、改めて雅臣がいてくれて本当に良かったと思う。

ちょうどいいだけの存在じゃない、良い奴だなって今日話してて心から思ったんだよね。

あのでんちゃんが絆されたのもなんか分かる気がするくらい、雅臣はいつでも真っ直ぐに物事を良く捉える努力をする。

アフタヌーンティーでの雅臣との会話を思い起こしながらゆっくりアームを動かしていく。

華なんか別に興味無いだろうに、社交辞令でもなく本気で見に行きたいって言ってくれるとことか。

でんちゃんの酷い言い草にいつもイラついてるくせに、客寄せに使われてることを怒ったり心配しちゃうとことか。


夕太「……あ!!くそ……」


雅臣のことを考えながらボタンを押すとせっかく胴体を掴んで持ち上げたクロヒョウが目の前で落っこちた。

うわ!ムカつくなー!!雅臣のくせに……!!

すっかりクロヒョウが雅臣に思えてきて、何だかめちゃくちゃ腹が立ってきた。

絶対取ってやるともう1度狙いを定めてアームを降ろすがまた失敗。

すました顔のクロヒョウはますます雅臣に見えてきて、何だよカッコつけのくせに……と思うけどそれももう嫌いじゃなかった。

自分で作った弁当を嬉しそうに分けてくれたり、俺の家の事情を聞いても引かないし無駄に踏み込んで来ることもしない。

しかもちょっと聞けば俺ん家がおかしいなんてすぐ分かるのに、色んな言語が覚えられていい環境だと言う。


普通、そんなこと言えないよ。


クレーンを動かす手を止めて、雅臣のことばかり考えてる自分に笑いながらぬいぐるみの山を眺めた。

そんな風に言って貰えたのは日本では初めてで少し感動してしまった。

姉ちゃん達の父ちゃんは今は皆海外にいて、それぞれ遊びに行く時に俺も一緒に着いて行くし家族仲だって悪くない。

でもそんなことを知らない周りは、俺の環境を表面だけ見て叩きまくるくせして知りたがる。

そのほとんどが日本人で、どうしてそんなに俺自身のことよりも俺に付随するものに興味が湧くのか意味が分からなかった。

だから今日雅臣が上手い具合に旅行の話に持っていってくれて、俺自身の話をしようとしてくれたその気遣いが本当に嬉しかった。

雅臣は俺を話すのが上手いって褒めてたけど、そんなの全然大したことじゃないよ。

他人の家の歪さを知ったら普通流すか付き合わないか深堀するかのどれかなのに、雅臣は気にせず対等に接してくれる。



___その方がずっと凄いことなんだよ。



本当に良い奴だから何としてもクロヒョウを取って、お礼代わりに雅臣にあげようと決めるけど、


夕太「あ!!」


せっかくクロヒョウを掴んだのにごろんと後ろに転がってしまった。

その代わりにタグが引っかかったのは左口角の上がったまるまる太ったマヌルネコ。


夕太「……え、ぇぇえ?こっちじゃないよ」


マヌルネコはぶら下がったまま重たそうにドスンと穴に落ちた。

落ち口に手を突っ込んで取り上げるとその顔が何となくでんちゃんに思えてくる。

ぷくぷくで可愛いマヌルネコは小さい頃のでんちゃんにそっくりだった。

つい高い高いをするように天井を向いて持ち上げるが、一瞬パッと両手を離して落ちたマヌルネコをもう1度胸に抱きとめた。


夕太「……重くないよ、でんちゃん大丈夫だよ」


あの時に戻って子供の頃のでんちゃんに何度もそう言ってあげたい。

そうしたら俺達は今、友達でいられたんだろうか?

昔から俺はでんちゃんとこれからどうしていきたいのかをずっと考えている。

俺はでんちゃんにいつまでも過去を引きずって欲しくないのに、でんちゃんは頑なにあの瞬間に拘って心を閉ざしている。

怒らせたら本当の気持ちを言うんじゃないかとわざと煽ってもでんちゃんは絶対に本音を言わない。

多分、口にしたらきっと余計なことまで言っちゃいそうで、でんちゃんの中で色んな気持ちが相俟って俺には何も言えないんだと思う。

俺もできることならそれを聞きたくないから、どうしたらいいのか分からなくてから回りしてばかり。


でも…でんちゃんにはもっと広い世界を見て欲しい、でんちゃんは道を逸れず真っ直ぐ華の道だけを進んで欲しい。


俺はでんちゃんと______



一旦マヌルネコを横のゲームの台に乗せて、もう1度クロヒョウを取ろうと気合いを入れる。


俺は今日、自分の気持ちがハッキリしたんだ。


ラウンジで雅臣とでんちゃんが言いたい放題やり合ってるのを見て、俺は心底雅臣が羨ましかった。

俺は欲張りだからどうにか今の幼馴染の関係を保ちつつ、でんちゃんと本当の友達になりたいと本気で思った。


夕太「雅臣ー、頼むから捕まってよ」


そう呟きながらレバーを掴んで再びチャレンジだと、アームが雅臣をがっちり掴めるようよく狙いを定めながら動かしていく。


……どの道、俺とでんちゃんは別々の道を歩くことになる。


大人になって学歴も生きる道も違ってしまうのなら、俺はどうしても幼馴染のポジションだけは無くしたくないと最後の願いを賭けて同じ高校を選んだ。

中3の時、高校も一緒の学校に行こうって言ったらでんちゃんは悲しそうな顔をしながらどうしてと訝しんでいた。

きっと今でもおかしいと思ってるよな。

俺は学校のレベルを下げてでもでんちゃんといたかったんだよ。

もしでんちゃんの蟠りを残したまま離れ離れになったら、2度とこの形に戻れない気がしてあの時の俺は必死だった。

梅ちゃん先輩のことは後付みたいなもので、もどかしい気持ちで入学式を迎えたけれど、


夕太「……やった!?」


雅臣が捕まって穴に落ちてきた瞬間、横に置いたマヌルネコと目が合う。


『夕太くんってすぐ熱くなるから』


まるででんちゃんにそう言われたみたいな気持ちになった。


夕太「そうだよ、俺ってすぐ熱くなるからさ」


落とし穴からクロヒョウを取り出しこれで雅臣に渡せると2匹を抱きしめ外に出ようとすると、俺の考えは突然劈く音に遮られた。

事故だ!の一声でゲームセンター内は騒然となり、どの人もゲームの手を止めて外に出る。

もしかして姉ちゃんかと俺も慌てて覗きに行ったけど、どうみても別の車でとりあえず安心した。

一方通行を逆走した車と車が盛大にぶつかったようで、野次馬しに行く人達と遠くから聞こえる救急車の音に周りは大騒ぎになった。

姉ちゃんに事故があったから別の場所で拾って、と送るとしばらくしてから地図が送られてくる。

錦通で拾ってくれるみたいで2匹のぬいぐるみを抱き締め、俺は何とも心が動かないままゲームセンターを後にして錦通に向かってずんずん歩き出す。

目の前で事故が起きてもどこか冷静になっちゃうのはしょうがないことだよな。

人の命は一瞬で消えて無くなってしまうのに人間って欲深いんだ。

1度生き延びると人は図々しくなるんだよ。


夕太「……知ってた?」


マヌルネコの眉間をつついてみるけどもちろん黙ったまだった。


…………。


多分今のでんちゃんは、俺の一言をきっかけに人生を変えてしまう気がする。

俺の言葉に全てが懸かってると考えたら、結局でんちゃんにどう切り出していいのかまた分からなくなってしまったんだ。

そして高校3年間、どう過ごそうかと考え悩んでいた入学式で俺らの前に現れたのは長い髪を靡かせた雅臣だった。


夕太「本当は……俺は……」


クロヒョウとマヌルネコを交互に見て、ごっつんと合わせる。



夕太「俺はでんちゃんと幼馴染を超えた、本当の友達になりたいんだけどな」



静かな俺の呟きは喧騒にかき消される。

2つのマスコットを抱えたまま、俺はいち姉ちゃんと待ち合わせした場所へずんずん歩いた。

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