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ことの顛末
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楽しみにしていた二泊三日の修学旅行はあっという間に幕を閉じた。
「あーあ、結局 “進展しない” かぁ」
京都駅の新幹線で、荷物を下ろしながら、愛子がぼやいた。
それが自分と和貴をさしていることに気づかないわけがない。
(もう、みんな言いたい放題なんだから)
一昨日の晩『その後どうなったか』を話してから今日まで、暇さえあればああしろ、こうやって誘えだの余計なお世話を焼かれっぱなしだったのだ。
物事には流れというものがある。ことが済めばいいというものでもないだろう。
キスにすら至らなかった結末がそんなに気に入らないのだろうか。
「がっかりだよねぇ。二泊もしたのに」
「そんなこと言われても……」
しかたがないじゃないかと、深雪はうなだれた。
「好きだ」と愛を囁かれて、あの時は自然な流れで、キスをするのだと自分でもわかって目を閉じた。
恥ずかしさよりも、その瞬間を待ちわびる気持ちの方が強かった。
むしろ、深雪だってしたかったのだ。あのままなら間違いなくそうなっていただろう。
……珍客が登場しなければ。
「カップルのラブシーン邪魔するなんてどんなガキよねー。空気読めないってゆーか」
「子供は空気読まなくない? あの時間に外でほっといた親が間違ってるよー」
「いや、親御さんも必死に探してたみたいだし、悪気はまったくないはずだよ……?」
確かに希少なチャンスを奪われて、がっかり感は否めなかった。だが言葉の通りそうなのだ。
深雪は迷い後の両親を弁護しながら、昨夜のハプニングを思い返した。
「ねーっ、お兄ちゃんたちちゅーしてるのぉ?」
鼻先に吐息が触れるくらいの距離で、大きな声に弾かれるように二人は身を離した。
声の発せられた足元を見ると、3,4歳くらいの女の子がこちらを指差していた。
観光ルートから少し外れた暗がりに、どうしてこんなに幼い子が子が一人でいるのかわからなかった。
そもそも、気持ちも浮ついていて、迅速な判断ができない。
が、それでも一人残して逃げてはいけないのだけは分別がついた。
そこから境内に引き返して、二人は保護者探しに尽力をした。
無事に親子が再開した後は、益々時間に追われてムードもへったくれもなかった。
放課後のクラブといい、またしても邪魔が入るとは……
なんともトホホな話だった。
「まあまあ、ともかく私の勝ちだね。ごちそうさま」
「ちぇー」
「友香ちゃん!?」
回想に耽っていた深雪は、意外なセリフに現実に引き戻される。
振り向くと友香が、三人からお菓子をせしめていた。
和貴との関係が進むかどうか、どうやら四人で賭けをしていたらしい。
「友香ちゃんまで何やってるの?」
「アハハ、いいでしょ。ちゃんと分けてあげるから。けどこうも予想通りだとちょっと怖いわ」
ひょっとして、三人があんなに和貴との進展を炊きつけてきたのはこのせいだったのだろうか。
「それもあるけどね。けど浜崎の気持ち考えたら可哀そうでさあ」
深雪があきれていると、極細ポッキーを手にした美波が顔をのぞかせる。
「あれ、そーとー我慢してるよ、昨日見てて思ったけど。少しは植田さんから行ってあげないと」
「我慢??」
「昨日一日班行動で一緒だったでしょ? どんな人なんだろって興味津々で観察してたんだけどさー」
「あ、私も! こんな近くで見れてラッキーって、めっちゃ注目してたよ!」
「背ぇ高いし、半端ないイケメンじゃん。愛子だけじゃなくて他校の生徒もけっこーチラチラ見てくんの。私もちょっとくらい話してみたいな~なんて期待してたんだけど、あれはひどいね!」
「えっ?」
酷いと指摘を受けて、深雪はたじろいだ。何か酷いことをしただろうか?
「まー、神社にもお土産にも目をくれず、ずっと植田さんのこと見てるんだもん。〝どんだけ好きなの?”って何度突っ込みたくなったか。しかも、すっごく分かり易くて」
「むしろあれはウケたよね。植田さんの手が空くの、ずっと狙ってんの。そんで、結局何もしないんだけどさ、アレ、絶対手を握ろうとしてたよね??」
美波が同意を求めると、愛子は大いに頷き、一斉に笑い合った。
きゃはははっ、と女子高生らしい高いトーンが車両を走り抜ける。
「そうなの? 和貴君、そんな感じだった?」
思い当たるフシもなく、深雪は昨日の詳細を思い出そうと頭を捻った。
「あっ、もしかして、お土産持ってくれたのとか……?」
「単に荷物を持ってあげようとしただけかもしれないけどね」
友香が首をすくめながら、シートに身を沈める。
「いーや、あれは絶対手を繋ぎたかったんだって。高岡さんも余計な事いわないの。植田さんが鈍すぎて、浜崎が可哀そうだよ! 言っとくけど私、男子なんか応援したことないよ」
「ええ……っ?」
そうなのかな、と今度は真剣に考えた。
深雪が買い物をする度、和貴は律義に袋を持ってくれた。あれが、まさか。全部、私の右手を空けるため……?
あんまり簡単にそそのかされてはよろしくない。
けれど今日は瞬時に答えが出た。
よし、じゃあ今日の帰りは私から手を握ってみよう。
「うん。そうしよう!」
……もしも和貴の両手が荷物で埋まってなければ、だけど。
深雪はカバンに入りきらない土産物のビニール袋を腕にかけ、こぶしを握った。
ちょっと弱気なのが珠に傷だ、と自分でもわかっている。
東京行きののぞみ122号は、音もなくスーッと線路を滑り出した。
深雪もやっとシートに座り、改めてこの旅を振り返る。
修学旅行だったのに、クラスの異なる和貴とほとんど一緒にいられて、よかったのだろうかと不安になるくらい楽しかった。
びっくりするような事件があったのに無事に仲直りできて、改めて絆が深まった気がする。
友香が席を離れた隙に、首元のペンダントを持ち上げて掌に載せてみる。
四葉のモチーフにはめ込まれた紅い石が、光を受けて輝いている。
昨日もさんざん、あちこちお参りしたくせに、深雪はまた光に向かってお祈りをした。
これからもずっと……、ふたりが仲良く一緒にいられますように。
「あーあ、結局 “進展しない” かぁ」
京都駅の新幹線で、荷物を下ろしながら、愛子がぼやいた。
それが自分と和貴をさしていることに気づかないわけがない。
(もう、みんな言いたい放題なんだから)
一昨日の晩『その後どうなったか』を話してから今日まで、暇さえあればああしろ、こうやって誘えだの余計なお世話を焼かれっぱなしだったのだ。
物事には流れというものがある。ことが済めばいいというものでもないだろう。
キスにすら至らなかった結末がそんなに気に入らないのだろうか。
「がっかりだよねぇ。二泊もしたのに」
「そんなこと言われても……」
しかたがないじゃないかと、深雪はうなだれた。
「好きだ」と愛を囁かれて、あの時は自然な流れで、キスをするのだと自分でもわかって目を閉じた。
恥ずかしさよりも、その瞬間を待ちわびる気持ちの方が強かった。
むしろ、深雪だってしたかったのだ。あのままなら間違いなくそうなっていただろう。
……珍客が登場しなければ。
「カップルのラブシーン邪魔するなんてどんなガキよねー。空気読めないってゆーか」
「子供は空気読まなくない? あの時間に外でほっといた親が間違ってるよー」
「いや、親御さんも必死に探してたみたいだし、悪気はまったくないはずだよ……?」
確かに希少なチャンスを奪われて、がっかり感は否めなかった。だが言葉の通りそうなのだ。
深雪は迷い後の両親を弁護しながら、昨夜のハプニングを思い返した。
「ねーっ、お兄ちゃんたちちゅーしてるのぉ?」
鼻先に吐息が触れるくらいの距離で、大きな声に弾かれるように二人は身を離した。
声の発せられた足元を見ると、3,4歳くらいの女の子がこちらを指差していた。
観光ルートから少し外れた暗がりに、どうしてこんなに幼い子が子が一人でいるのかわからなかった。
そもそも、気持ちも浮ついていて、迅速な判断ができない。
が、それでも一人残して逃げてはいけないのだけは分別がついた。
そこから境内に引き返して、二人は保護者探しに尽力をした。
無事に親子が再開した後は、益々時間に追われてムードもへったくれもなかった。
放課後のクラブといい、またしても邪魔が入るとは……
なんともトホホな話だった。
「まあまあ、ともかく私の勝ちだね。ごちそうさま」
「ちぇー」
「友香ちゃん!?」
回想に耽っていた深雪は、意外なセリフに現実に引き戻される。
振り向くと友香が、三人からお菓子をせしめていた。
和貴との関係が進むかどうか、どうやら四人で賭けをしていたらしい。
「友香ちゃんまで何やってるの?」
「アハハ、いいでしょ。ちゃんと分けてあげるから。けどこうも予想通りだとちょっと怖いわ」
ひょっとして、三人があんなに和貴との進展を炊きつけてきたのはこのせいだったのだろうか。
「それもあるけどね。けど浜崎の気持ち考えたら可哀そうでさあ」
深雪があきれていると、極細ポッキーを手にした美波が顔をのぞかせる。
「あれ、そーとー我慢してるよ、昨日見てて思ったけど。少しは植田さんから行ってあげないと」
「我慢??」
「昨日一日班行動で一緒だったでしょ? どんな人なんだろって興味津々で観察してたんだけどさー」
「あ、私も! こんな近くで見れてラッキーって、めっちゃ注目してたよ!」
「背ぇ高いし、半端ないイケメンじゃん。愛子だけじゃなくて他校の生徒もけっこーチラチラ見てくんの。私もちょっとくらい話してみたいな~なんて期待してたんだけど、あれはひどいね!」
「えっ?」
酷いと指摘を受けて、深雪はたじろいだ。何か酷いことをしただろうか?
「まー、神社にもお土産にも目をくれず、ずっと植田さんのこと見てるんだもん。〝どんだけ好きなの?”って何度突っ込みたくなったか。しかも、すっごく分かり易くて」
「むしろあれはウケたよね。植田さんの手が空くの、ずっと狙ってんの。そんで、結局何もしないんだけどさ、アレ、絶対手を握ろうとしてたよね??」
美波が同意を求めると、愛子は大いに頷き、一斉に笑い合った。
きゃはははっ、と女子高生らしい高いトーンが車両を走り抜ける。
「そうなの? 和貴君、そんな感じだった?」
思い当たるフシもなく、深雪は昨日の詳細を思い出そうと頭を捻った。
「あっ、もしかして、お土産持ってくれたのとか……?」
「単に荷物を持ってあげようとしただけかもしれないけどね」
友香が首をすくめながら、シートに身を沈める。
「いーや、あれは絶対手を繋ぎたかったんだって。高岡さんも余計な事いわないの。植田さんが鈍すぎて、浜崎が可哀そうだよ! 言っとくけど私、男子なんか応援したことないよ」
「ええ……っ?」
そうなのかな、と今度は真剣に考えた。
深雪が買い物をする度、和貴は律義に袋を持ってくれた。あれが、まさか。全部、私の右手を空けるため……?
あんまり簡単にそそのかされてはよろしくない。
けれど今日は瞬時に答えが出た。
よし、じゃあ今日の帰りは私から手を握ってみよう。
「うん。そうしよう!」
……もしも和貴の両手が荷物で埋まってなければ、だけど。
深雪はカバンに入りきらない土産物のビニール袋を腕にかけ、こぶしを握った。
ちょっと弱気なのが珠に傷だ、と自分でもわかっている。
東京行きののぞみ122号は、音もなくスーッと線路を滑り出した。
深雪もやっとシートに座り、改めてこの旅を振り返る。
修学旅行だったのに、クラスの異なる和貴とほとんど一緒にいられて、よかったのだろうかと不安になるくらい楽しかった。
びっくりするような事件があったのに無事に仲直りできて、改めて絆が深まった気がする。
友香が席を離れた隙に、首元のペンダントを持ち上げて掌に載せてみる。
四葉のモチーフにはめ込まれた紅い石が、光を受けて輝いている。
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