「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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 クローゼットに入っていたドレスはご丁寧にも裾が縫われ、数センチ裾足らずになるよう細工されていた。

 それをサッとほどいて綺麗に整え、見られる姿にした後はリュシエンナの指示に従って着付ける。

「レオノール様は元がよろしいので、手入れのしがいがありますわ」

「まー、何て優しいの! メリッサ、大好き」

 しかも、愛想が良くて気立が良い。

 レオノールはすっかりメリッサが気に入ってしまった。

 食堂兼ホールに移動し、西の棟に移動してきた侍女ら一同と食堂に介した。

 新たにやって来た女主人と使用人たちの顔合わせで、一昨日、この棟に案内された時にはなかったイベントだ。

 合間にすっかり冷め切ったお茶でマナーの講義、食事は自室に運んでもらい、食事のマナーを。

 一から叩き直すとの言葉通り、生活の一部始終がレッスンだ。

 そうして日が暮れるまで一日中”教育”は続いた。

 翌日も同じような調子で一日を過ごすこととなり、語学、文学、教養にダンス、日常生活の些細な仕草まで逐一を指導されて隙がない。

 お陰で夜は、泥のようにぐっすりと眠り、またみっちり扱かれる。

 体力気力ともに人一倍の自信があったが、使う神経が違うようだ。

 その間、クラウディオと接触の機会は残念ながら皆無だったが、気にするいとまもない。

 だが、その甲斐あって一月が経つ頃には、リュシエンナから賛辞の言葉が聞こえるようになった。

「座学や教養はまだまだですが、ダンスや所作は目を見張る成長ぶりです。特にダンスは直すところがほとんどありません。きっと筋がよいのでしょう。流石は勇者様、身体能力に優れていらっしゃるのですね」

「本当ですか? ベーレンドルフ夫人に誉められると素直に嬉しいです」

 リュシエンナは柔と剛を使い分けるが、心にもないお世辞は言わない。

 手離しではないものの、彼女が褒めるのだから、それなりに形にはなってきたのだろう。

「では、明日からはダンスの時間を減らし、歴史と語学の学習に充てます。もっと高度な教養を取り入れなくては」

「えぇぇ……」

 口に出せばお叱りは目に見えていたが、レオノールは本気でげんなりした。

 嘆いてから、教本を置いたままのテーブルに突っ伏す。

 褒められたと喜べば、すぐこれだ。

「来月の半ばにはノーキエからの国使を迎えます。その席に妃殿下も同席させて頂けるよう、私からクラウディオ様に進言致します」

 テーブルにへばり付いて、叱責を覚悟の上で抗議の姿勢を示していたレオノールだったが、国使と聞いて顔を上げた。

「同席ってことは、私も国使を出迎えるってことですか? クラウディオ様と一緒に?」

「そうです。妃殿下は特別な功績をお持ちですから、欠席が許されています。ですがそのような飾りのお立場で終わらせてはなりません。クラウディオ殿下のお側にはべり、相応しい存在として振る舞っていただきます」

「何と嬉しい采配。夫人、お心遣いに感謝しますわ!」

 それはつまり、国使の一行を二人で出迎えるということだ。

 レオノールは飛び上がって、リュシエンナに抱きついた。

 クラウディオには西の森で注意を受けてから、もう1ヶ月以上も会っていない。

「まあ、随分と都合の良いお行儀ですね。いいですか、今のままではまだ許可は出せません。あと半月は死ぬ気で努力なさってください」

「はい、先生! 私頑張りますからね」

「ぜひその甲斐があるよう期待しておりますよ。参考となる資料を取って参りますから、妃殿下は印のあるページまで書き取りをしておいて下さい」

 言葉こそ厳しいものの、リュシエンナの眼差しはどこか温かい。

 彼女もまた、レオノールの変化を認めてくれているに違いなかった。

「ああ仰っていますが、夫人は以前から打診していらしたのですよ」

 リュシエンナが去ると、水差しの用意をしていたメリッサがそっと近づいて来て耳打ちをした。

「え? 本当なの?」

「偶然耳にしたので、内緒ですよ。レオノール様なら期待に応えてくれると信じておいでなのですよ」

「そっかぁ、私頑張る! きっついけど」

 ペンを握った拳を上げて見せると、メリッサはふふっと笑みを溢す。

 このように献身的な人材に上手く舵取りをされながら、レオノールはひたすら前進した。

 何よりの目標はクラウディオの隣に並び立つこと。

 それを何よりの励みにしながら、レオノールは日々の課題に向き合い続けた。

 飛んでくる課題は片っ端から千切っては投げ、たまに投げた物が跳ね返り、傷だらけになりながらも……、どうにかその日を迎えたのだった。

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